第9話

バルデック公爵様は紅茶を口にした後に口を開き喋りはじめる。


「いいかいエルライナ、デブトルの残党が見つかった」


それは朗報だっ!! 見つかったのなら後は生かして捕まえれば・・・・・・。


「しかし、その残党は一人残らず死んでいたんだ」


「え? ・・・・・・死んでいた?」


「そう、全員の首をバッサリ切られた状態で死んでいた。兵士の説明によると山賊に襲われた。と私のこちらに書類で報告が回って来た」


どういう事なんだ? まさか!? ・・・・・・いや、情報が少なすぎるから根拠に欠ける。


「そして、そのデブトルの残党の事でキミに意見が聞きたいんだ」


「私の意見ですか? 私で良ければ話して下さい」


まぁ参考になるかどうかは分からないけど。


「まずは、死体の状態は・・・・・・」


「あ、ちょっと待って下さい!」


「どうしたエルライナ?」


「死体発見の経緯も話してくれますか? そうすれば想像しやすいので」


やっぱ推理は経緯まで聞かないと仮説が立てられない。それに仮説を立てるには出来るだけ情報が多い方が良い。


「残念だけどそこまでは書かれてないんだ」


「えっ!?」


「それと私の手元にある書類だけしか情報がない上に、私自身この書類の情報しか知らないんだ」


嘘だろ!? ・・・・・・まぁいいや。バルデック公爵様に、あーだこーだ文句言っても仕方ない。


「分かりました。続けてください」


「場所はゴーゼスから北東に離れた所で発見された。死体の数は十人で身体に穴のような傷がある死体が四人、全身火傷した死体が二人、胸に剣を突き刺された形跡がある死体が一人、無傷のままの死体が三人、全員共通しているのは首が切られてなくなっている。

先ほども話していたが、デブトルを追っていた我が国の兵士達は死体の状態から山賊に夜襲を受けて全滅した。と言う結論を出した」


うーん・・・・・・たしかに道理的な答えだけども、なんか見落としがある気がする。


「エルライナはこの事件をどう思う?」


「バルデック公爵様、正直に聞いて良いですか?」


「構わない」


「本当に書類に記載されている情報はそれだけですか?」


「すまないが、本当にこれだけしか書いてないんだ」


膝の上に置いた手に力が篭るのを感じる。


単調にもほどがある。


「後は剣二本とデブトルの副ギルド長が着けていたと思われるミスリル製の防具がなくなっていると書かれているが・・・・・・もしかしてお前、この書類になにか気になるところがあるのか?」


「この国にとって良い機会になると思うので、ハッキリ言わせて貰いましょう」


俺は目を閉じ深呼吸してからバルデック公爵様に向かって口を開く。


「まず最初に、兵士達が書いた報告書の内容が薄いです。私がその人達の上司だったら、書き直しさせてます」


「どうしてだ?」


「死体の身体の状態が書いてあるのに、どんな格好で死んでいたかまで書いてない。仰向けで横たわっているのか、うつ伏せで横たわっているのか、どこらへんに倒れていたのか? さえも書いていない。いや、書くべき事です」


「そんな事必要あるのか?」


「あります。読み手にとってはどんな風に死んでいたか想像しやすいからです。バルデック公爵様はその書類に目を通して、デブトルの残党がどう死んでいたか想像出来ますか?」


バルデック公爵様は手に持っている書類に目を通し直してから俺を見見つめてこう言ってくる。


「・・・・・・出来ない」


「それになぜデブトルの残党が盗賊に殺られたと確定したんですか?」


「それは防具一つと剣二本盗まれたからじゃないか? それに一人は胸を剣で突き刺された跡があるから、山賊と交戦したと考えたんじゃないか?」


「なるほど。ハァー・・・・・・」


俺はそう言った後に、ため息を自然といてしまう。


「ため息なんて吐いてどうしたんだ?」


「私は報告書の内容を聞いて三つ疑問に思った事があります」


「教えてくれ」


「まず一つ、盗賊が防具一つと剣二本を盗んで満足なのか? 彼らが持っていたお金は取らなかったのですか?」


バルデック公爵様は顎に手を置いて考える。


「防具と二つの剣良い物だったから、それだけ取れば金が充分なぁ・・・・・・いや待てよ」


バルデック公爵様の眉間にシワが出来る。


「今までの盗賊はサイフと金目の物を持てるだけ持って逃げてた。けど今回は違う。やっぱり今回の事件はおかしい」


「ほら、アタシが言った通りでしょ。盗賊なのに盗んだ物がこれだけしかないのはおかしい。って」


アイーニャ様は俺と同じ疑問に思っていたんだ。


「たしかにアイーニャの言っていた通りだな。で二つ目の疑問は?」


「はい、二つ目は死体の状態です」


「死体の状態?」


バルデック公爵様は手で顎を擦りながら言う。


「穴のような傷は私の攻撃を受けて出来た物でしょう。でも」


「でも?」


「剣を受けた傷と焼けた死体は分かりますけど、他の死体、特に傷がないのはどういう殺され方をしたのか、疑問に思いませんか?」


「普通の考えなら盗賊が真っ先に頭を潰すか、首を切り落とすのどちらかをした。しかアタシは考えられないね? ・・・・・・あれ?」


「ッ!? まさかっ!?」


夫婦は見落としていたを事実に気づいたようだ。


「私は死体の状態を聞いていると一撃で倒されています。そう、まるで手練れの暗殺者に殺されたような感じで。そして首を切ったのも顔を見られたから首を処分した。もしくは念のために首を処分した。と私は考えてます」


「ッ!? なるほど、私はなぜそう言う考えを思い浮かばなかったんだっ!!」


「アタシも見落としていたね。ちょっと考えれば分かる事だったはずなのに・・・・・・」


二人は目を見開きお互いを見ながら話し合うが俺は話しを止める気はない。


「話しの続きをしますが良いですか?」


「あ、あぁ・・・・・・すまない。続けてくれエルライナ」


バルデック公爵様は震える手でカップを手に取り、紅茶を飲む。どうやら混乱してるみたいだ。


「最後の三つ目は先ほどのお話しを踏まえて聞きます・・・・・・誰がこんな事をしたと思いますか?」


「・・・・・・アタシは盗賊じゃないと思うな。ラングットの協力者? 闇ギルドは関与していなかった・・・・・・駄目だ、分からないね。ネルソン、アンタは?」


「私はブリューマ奴隷商会かグルベルドだと思ったが、二人共捕まったから違うはず。しかもあの時グルベルドには他の貴族の協力者がいなかった・・・・・・すまないが分からない。エルライナ教えてくれ」


二人共大事な人を忘れている。


「・・・・・・リヴァイス」


その名前を聞いた二人は顔が強張った。


「バルデック公爵様はグルベルドを捕らえた日の事を覚えてますか」


「あ、あぁ覚えている。それがどうした」


「あんなに用意周到よういしゅうとうなヤツが、任務を失敗した・・・・・・いや、もっと詳しく言えば、使えなくて顔を知っているデブトルの残党を野放しにさせるとは思えない」


「じゃあ。アンタはリヴァイスがデブトルの残党を始末したと言いたいの?」


「あくまで私の予想でしかないのですが、恐らくリヴァイスが関わっていると思います」


バルデック公爵様は手元の書類をしばらく見つめた後に、俺を見て口を開き始めた。


「エルライナ、ありがとう。キミに相談して正解だった。私はこれから王宮に行って来る。この書類の不備、ってあれ?」


「ネルソンこの子、茹で上がっちゃってる」


「ふああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・」


顔が、顔がぁぁぁ〜〜〜~~~っっっ!!?


「・・・・・・とにかく、この書類の不備を話してくる。お前からなにか聞きたい事はあるか?」


「と、とりゅあえじゅ、ちょっほ、まっれくだしゃい」


俺は呂律を戻すために頭を軽く降った後に話し始める。


「サイフが盗まれていたか? と、発見までの経緯と、死体がどの位置でどういう格好で倒れていたか、周囲になにか落ちていた。もしくは置いてあったのかを含めて詳しく調べて記載するのと、これは調べている最中だと思いますがリヴァイスの足取りです。

私の憶測なのですが、リヴァイスには後ろ楯がいるかもしれないので慎重に捜査するようにバルデック公爵様から言って下さい。私からはそれぐらいですかね」


「・・・・・・わかった」


バルデック公爵様は俺に返事をした後に、書類を丸めてひもで纏める。


「すまないが席を外す。メルディン、支度を頼む!」


「かしこまりました」


バルデック公爵様は席を立った後、メルディンさんと一緒に部屋を出て行く。


「・・・・・・ねぇ? エルライナ」


「はい、どうしましたアイーニャ様?」


「アタシは今まで色んなヤツを見たけどさぁ、あんたは別格と言っても良いほどに普通の女の子に思えないんだよ」


アイーニャ様はテーブルごしに顔を近づけて来る。


アイーニャ様が近いから、香水のいい匂いが鼻先をくすぐってくる。


「あんた、一体何者? どっかの国の諜報員?」


「普通の女の子ですよ。ただ・・・・・・」


「ただ?」


「小さい頃から男として育て上げられた上に元軍人弟子になって鍛えてもらったから、普通の女の子なのか自分では判断が出来ませんよ」


俺、ウソは言ってないよ。


「はぁ?」


アイーニャ様はワケわからない。みたいな顔をしているけど俺は話しを続ける。


「私、スカートを履くのに抵抗感を感じてしまうので今だに仕事以外でもズボンを履くのですよねぇ。やっぱり馴れて行かないとダメですかね? ファッションも一度も考えた事がないですし・・・・・・」


「・・・・・・もう、分かった。アンタはアタシが思っている以上に、おかしな人生を追っていたんだな」


ふぅ、なんとか正体がバレずに済んだ。


「それじゃあ二人共行って来るぞ」


「行ってらっしゃい」


「行ってらっしゃいませ」


バルデック公爵様は客室に顔を出した後に玄関の方に歩いて行く。


「さて、話しも済んだので私も行きますね」


「もう行っちゃうのかい?」


「えぇ、宿も取らなきゃいけないので」


「そう。ならこの家を出て左の方に歩いけば道の右側に 銀色の竜亭 があるから、そこで宿を取りな。良い宿だよ」


うん? なんでこの人は宿の事がわかるんだ? ・・・・・・まぁいいか。


「この子を屋敷の外まで案内して」


そう言うとドアの近くにいたメイドさんが俺の近くに来る。


「どうぞこちらへ、私が案内をします」


「ありがとうございます。それではお邪魔しました」


「いいや、こちらこそ身になる良い話しが出来たね。今度来たときはゆっくりお茶を飲もうか。またいらっしゃい、エルライナ」


俺はアイーニャ様に挨拶した後に、席を立ちメイドさんに着いて行くようにして部屋を出て行った。

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