煙草の匂い
@iwao0606
第1話
久方ぶりに友人から連絡がきたと思えば、「こどもができるの」と言った内容だった。
普段はメールのひとつもしないくせに、こう言ったときだけ連絡してくるのだ。
この前は「結婚するの」だったから、節目ごとに連絡を入れてくれているのだろう。
そのたびに私はお祝いの言葉と贈りものを支度する。
そして短い電話を交わすのだ。
電話をしていると、必ず受話器の向こうでため息にも似た声が溢れる。
それは彼女が合間に煙草を吸っている証拠で、電話越しだと匂いもしない。
昔は彼女の隣だと髪の先から匂いが移って、「臭い」とよく顔をしかめたものだった。
何度煙草をやめるように言っても聞きはしなかった。
でも、今はもう受話器越しにため息が溢れることはなかった。
「煙草、やめたんだ」
あっさり言う彼女に、私は見えもしないのに笑顔を繕う。
大好きな煙草をやめてしまうほどに、その胎に宿ったものが大事なのか。
私には煙草をやめてもらうほどの価値がなかったのか。
そういうどうしようもないものを繰り返してしまう。
ひどいひとだと思った。
私の肺に醜いものを、いつまでも消えないものを、残していくのだから。
肺の奥にいつまでも煙るものを消せないまま、祝福の言葉とともに電話を切った。
煙草の匂い @iwao0606
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