第3話

 彼は父親に言われた通り、となり村の学校に通い始めました。その頃彼は美しい少年に成長していました。


 女性達は彼の心を射止めようとあの手この手で彼に接近しましたが、なかなか彼の気を惹くことができませんでした。意を決して彼に告白した女生徒に対して、彼は言いました。


「僕には人を愛するということがどういうことか分かりません。おそらく永遠に。だから僕から愛されることを望まないでほしい。それなら付き合ってもかまいません」


 その言葉を聞いた女性は憤慨し、彼は新しい学校でも孤立してしまいました。しかし彼は特に気にする様子もなく過ごしていました。


 ところがある日、彼の体に異変が起こりました。

 

 彼は体の中にぐつぐつと煮立つ感覚を覚え、体を動かすことができなくなりました。お医者さんに行こうとしましたが、とうとう道端で倒れてしまいました。


 目が覚めると彼は自分の家のベッドで寝ていました。台所で見覚えがある女性が料理を作っていました。近所の家の女の子です。


 彼女は顔にとても大きな痣があるので、いつもヴェールを着けています。彼女は子供の頃から両親に暴力を振るわれて、痣も両親の暴力によるものでした。


 彼女は暴力を振るわれると分かっていても家に戻るしかありませんでした。その痣があるから、どこにも行けないと諦めていたのです。

 

 彼女は両親から春を売る仕事を強いられていました。彼女が倒れている彼を見つけたのです。


 彼女が料理を持ってきましたが、彼は食欲がありませんでした。


 彼女は言いました。

「無理にでも食べないとだめです。食べ始めたらきっとお腹が空いていることに気づくでしょう」


 彼は彼女の力を借りながら体を起こし、料理を食べました。料理を食べさせて後片付けをすると、彼女は自分の家に戻りました。


 翌日も彼女が来て料理をつくってくれました。

 

 彼女の助けを借りて食べている時、ふと自分のてのひらにひどい擦り傷があることに気がつきました。彼女によると転んだ時に擦りむいたのではないかとのことでした。彼は痛みを感じないから気づかなかったのです。


 突然、彼は彼女にじっとしていてほしいと言いました。そして試しに擦りむいた指先で彼女の首元に触れてみました。


 彼の手は彼女の首に触れたままですが、そこからもう1つの半透明な手が伸びてきて、彼女の皮膚を透過しました。

 

 彼女の体の中も半透明に見えています。彼は彼女の心臓に棘が刺さっていることに気がつきました。


 彼の透過した手は彼女の心臓に手を伸ばし、刺さっていた棘を抜きました。しかしその棘を体の外に捨てようとしても、透過した手は体の外には持っていけません。


 彼は棘を持ったまま透過した手を自分の体に移動し、自分の心臓に刺しました。その時ちくりという痛みがありました。


 でもこの痛みはなぜか懐かしい感触がありました。


 彼は彼女に言いました。

「ヴェールを取ってもらえませんか」


 彼女がためらいながらヴェールを取ると、彼は彼女の顔の痣に触れました。彼が触れた瞬間、彼女の痣は消えてしまいました。


 彼は言いました。

「看病してくれてありがとう。僕はもう大丈夫です。あなたはあなたの行きたいところに行きなさい。あなたは美しく、もう既に自由なのですから」


「痣に触れてくれてありがとう。美しいと言ってくれてありがとう」

 お礼を言うと彼女は立ち去りました。

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