第三十三話 戦乙女は狂戦士に

「おい! これはどういうことだ! 依頼ボードに仕事がないじゃないか!」


 と受付嬢に詰め寄る者たち。


「その依頼は俺が交渉してきたんだぞ! 返せぇぇぇぇぇ!」


「指名依頼を受けれないくせに何言ってるんだ!? ボードに貼られたら守護者全員に権利があるんだよぉぉぉ! バァァァァカ!」


 ともめる守護者たち。


「依頼した品が納品されたそうですが……。えっ!? 昨日までに依頼した者たちだけ? 私たちは代官様の指定商会ですよ!? 品があるのなら優遇するべきでしょう!」


 とわがままを言う商人。


「アイツらいたかぁぁぁー!? 昨日はいなかったから絶対見つけるぞぉぉぉー!」


 と叫ぶ防具が布鎧に変わっている三匹の豚。


「うぉぉぉぉぉ……。修羅場だ……。じゃあ帰ろっか」


「うん」


「ガル」


 試験日について連絡をもらえるように宿を教えた後、人混みに紛れてギルドから出ようと動き出す。


「待てこらぁぁぁぁぁぁぁーー!」


 しかし、入口に張り込むという基本を思いつくことができた豚共に阻まれることになった。


「えっと……。どちら様ですか……?」


「しらばっくれてんじゃねぇぇぇぇー! お前らに殺されかけた戦乙女ヴァルキュリアだよ!」


 守護者の犯罪行為は除名対象案件である。だから、この発言はギルド職員の注目を集めるには十分であった。


「言いがかりはやめて欲しいですね。そもそも俺たちはビッグボアの依頼を受けて森に行き、昨日は解体作業に一日を使いました。その間、あなた方とどこで会ったと言うんですか? ですが、先日言っていた「装備が無駄になる」発言は撤回できたようで何よりです。装備を使いすぎて布鎧にしたんでしょ?」


「キ……キ……キサァァァァマァァァァ」


 戦乙女を自称する戦士ウォリアーが狂戦士化してしまったように咆哮を上げた。その姿はまさに……。


「オークだ……」


 どこぞの阿呆が呟いた通り、目の前の豚は見事な怒れるオークとなっていた。


 当然、このオーク発言を聞いた者全員が笑いを堪えていたのだが、狂戦士化したオークはどこ吹く風で俺を睨みつけていた。


「貴様が……貴様が森で何かをしたから……あたしたちは……モンスターの大群に襲われたのだぞ!」


「あぁ……。思い出しました。俺になすりつけ行為をしようとしていた方たちはあなた方だったんですね? 俺の後ろを追ってビッグボアを引き連れて来たときは驚きましたよ。それで、あなた方はどんな依頼を受けて森に行ったのですか? まさか依頼も受けずに森に入ったのですか? 何のために? それとそのモンスターの大群なら俺たちが討伐しましたので、俺たちは命の恩人ですね!」


「フ……フザケェェェルナァァァァ」


 誰か狂戦士化したオークを止めて欲しい。言葉を失いかけている。このままでは常設依頼の対象になってしまうぞ。


「あたしたちが倒したモンスターも盗みやがって……。慰謝料を要求するぅぅぅぅ!」


「盗んだわけではなく落ちていたから拾ったんです。そもそもあなた方はビッグボアの突進で死んだかと思っていましたので。でもまぁこのまま言いがかりをつけられても面倒なので、お互い嘘発見器を使用して白黒はっきりさせましょうよ。例えば、俺たちの依頼失敗を画策した上でビッグボアを横取りし、なすりつけで殺そうとしたのは本当か嘘かを嘘発見器に向かって答え欲しいな」


「なっ……! そ……そ、そんなこと……するわけない……だろぉぉぉー!」


「でしたらカウンターに行きましょう。それとも間違いでしたと訂正しますか?」


 ここで訂正しなければ罰せられるのは三匹の豚である。その後、俺が何をしたとしても正当防衛になるからだ。盗賊となった守護者を討伐した守護者になるだろう。


「……ま……間違い……でした……」


「それで?」


「……す……すみませ……ん……でした……」


「今回だけですよ。次はないようにお願いしますね!」


 相当悔しかったのだろう。奥歯を噛み締め顔を歪めた姿はオークに相応しく、悔し涙と鼻血を出す醜い顔は狂戦士に相応しく顔であった。


 そのおかげで少しは溜飲を下げることができ、俺たちは気分よくギルドを出るのだった。



 ◇◇◇



「クソッ……クソッ……クソォォォッ!」


 守護者ギルドでアルマに言い負かされたストロー含む戦乙女の三人は、守護者ギルドの雰囲気に堪えきれず、朝から酒場に来ていた。


 自業自得だと蔑む視線や新米の格下にやり込められた戦士と嘲笑する視線。それらの視線は、今まで大した失敗もせずに順風満帆に守護者として活躍してきた彼女たちにとって、どうしても許容できるようなことではなかったのだ。


 一度貼られたレッテルはなかなか剥がすことができない。剥がすきっかけを作るとしたら、誰にもできない大仕事を熟す必要があった。しかし、スタンピードによって装備はボロボロになり、中古の布鎧しか購入できなかった彼女たちには到底無理な話であった。


「ねぇ、もう他の街に行きましょう。違う街や国に行けば知られないだろうし、アイツらにかかわるのはやめた方がいいわ!」


「そ、そうです……。あの量のモンスターを討伐したのなら……私たちでは勝てません……」


「じゃあ、馬鹿にされたままでいいって言うの!? 守護者は舐められたらおしまいの仕事なのよ!」


 ストローのこの主張には間違いがある。その間違いとはアルマたちが教わった内容と同じで、「舐められたらおしまい」の部分である。


 そもそも創世教会が母体になっている組織であり、宗教団体が舐められたら終わりと言い出したら、それこそ終わりである。優秀な受付嬢や守護者が言っている言葉は冒険者ギルドから流れてきた言葉である。それ故、守護者が騒動の中心になることが増加することになったのだ。


 それはさておき、貧乏な戦乙女たちでも来れる寂れた酒場に不釣り合いな人物が入店した。


「おっ! お前らが戦乙女か? 随分酷くやられたようだな」


 その人物は店に入るなり戦乙女に絡み出した。当然気が短いストローにとって看過できる行動ではなく、即座に睨みつけながら怒鳴り声を上げた。


「テメェェェ! 喧嘩売ってんのかぁぁぁ!?」


「まぁまぁ怒るな怒るな! 今日はお前らにとっていい話を持ってきてやったんだからさ!」


「はぁぁぁぁぁあ!?」


 外套のフードを目深に被った、顔もはっきりしない怪しい人物の話をまともに聞くほど戦乙女も馬鹿ではない。だが、その話に乗ったことでレッテルが剥がれることになるのならばと考えてしまってもいた。


「まぁまず聞け。近くこの街に王族が来る。理由は近くにできたダンジョンの攻略の監督をするためだ。でもそれは建前で、本当はその功績を持ち帰り王位継承権の正当性を主張したいそうだ。そしてダンジョンの攻略には守護者にも手伝ってもらうそうだが、この街唯一の白騎士アークランク守護者である『破壊者デストロイ』にはすでに指名依頼が出されている。彼ら以外にも参加を募る予定だが、そこにお前たちをはめたヤツらも参加させて処理しようと計画している方がいる。お前たちも話を聞いた以上協力をしてもらうし、断るのなら消えてもらう。それと装備に関してはちゃんと用意させてもらうから安心しろ。じゃあそういうことで理解してくれたかな?」


「……いいねぇ! 楽しみにしてるよ!」


「やっぱりあんたたちを選んでよかったぜ! あと連絡はギルドでやるから毎日顔を見せてくれよ」


 そう言うとフードの男は酒場の店主に口止め料を多めに払って店を出て行く。


「待ってなさいよ」


 そしてストローは男の背中を見ながら決意を固めるのだった。



 ◇◇◇









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召喚勇者、人間やめて魂になりました 暇人太一 @himatarou92

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