第二十四話 報告は正確に
爆買いの後、アーマード武具店に寄った。寄った理由は俺用の財布が欲しかったからだ。アーマード武具店で説明を受けたとき、アーマードディアの革を使った黒と濃い茶色の財布が気に入ったのだが、他にいい物があると思い保留にしていた。
でも他に気に入る財布はなく、金貨二枚を払ってアーマードディアの革財布を買うことにした。ついでに頼み事をして宿に帰ってきたのである。
そして今は夕食の時間だ。俺の目の前にいる美少女はプゴ太郎のステーキに夢中になっており、一言もしゃべらず食べ続けている。
「やっぱり今まで食べてきた中で一番美味しい」
食べ終わった直後に言ったリアの一言である。
この言葉に周囲でグルメ談義をしていた者たちは馬鹿にしたように笑っていたが、自称グルメ家よりもリアの言葉の方が重みがあるのだ。というのも、スキル【超感覚】によって高められた味覚により、リアは神の舌を手に入れたそうだ。つまり、リアが言っているのは素材だけではなく調理も含めて一番だと言っているのだ。
リアの住んでいた場所でもビッグボアはよく食べていたが、母の手料理を除けば一番美味しいのだとか。
「ごちそう様でした。ねぇ、庭に行かない?」
「いいけど、店員さんは気をつけてって言ってたぞ」
「それ! 店員さんの話がずっと気になってたの!」
確かにたかが庭に行くだけで気をつけることなんかあるのかと思ってはいた。だが、今は店員さんの言うとおりだと思っている。何故ならば、庭には大きな熊がいるのだ。一応首輪はしているが、黒に灰色の毛が混じった大きな熊が庭に放し飼いにされている。ありえないだろ。
「可愛いぃぃぃぃー!」
リアには可愛く見えているようだ。ちなみに、この熊は普通の動物で岩窟熊というらしい。動物なのに争乱級に匹敵する強さらしい。この岩窟熊は『ロック』という名前で、店主の従魔とのことだ。
そしてアンデッドである俺は当たり前のように警戒されている。俺が離れると嬉しそうにリアにモフられ甘えていた。
熊よ……。お前もか。お前もリアの可愛さにやられてしまったのか。仲間だな。
感動した俺は岩窟熊に少しだけ近づいたのだが、すぐに警戒態勢をとられてしまった。今なら分かる。同志と親愛の情を向けるも、一方的に殲滅されたスケルトンジェネラルの気持ちが……。
正直すまんかった。
「熊さんはアルマが嫌い? アルマは熊さんに酷いことしないよ?」
ずっとグルグルと警戒音を鳴らしていた岩窟熊が、リアの悲しそうな顔を見て警戒態勢を解除した。それほどまでにリアを気に入ったのか。
「熊さん、ありがとー!」
リアは熊さん座りをする岩窟熊の腹に抱きつき、お礼を言いながらモフモフしている。岩窟熊も嬉しそうに顔をリアにこすりつけていた。
えっ? 俺はどうしたかって? 警戒態勢解除範囲から一歩だけ近づくことを許された。これがモンスターと人間の差なのだ。時間をかけてタッチすることにしよう。モフモフはそのあとだ。
◇
翌日、リアは上機嫌で新装備を身につけていた。サイズ調節も上手くいき、大満足の様子で岩窟熊に自慢している。俺は満面の笑みを浮かべているリアを見れて大満足だった。きっと岩窟熊も同じ思いだろう。
「おい、聞いたか? 昨日、総額大金貨十二枚近くも使った富豪が現れたらしいぜ。俺もそんな人と取引してーよ!」
「本当かよ! どうせ身分を隠した貴族だって。貴族とは独自のパイプがなきゃ取引はしてもらえねって!」
岩窟熊に自慢した後、朝食を食べに食堂に来ると、昨日の俺たちの爆買いの話で持ちきりだった。まぁ食堂にいる何人かは俺なんじゃないかと疑っているようで、声をかけてきた人物もいた。
だが残念ながら、この宿に泊まっている商人とは取引をする予定はない。理由は宿泊した初日の夜に絡まれたとき、誰も助けようとはせず、俺の装備を狙ってきたクズ共ばかりだからだ。
それ故、俺の答えは「知らない」だけである。
「よしっ! 守護者デビューの日だよ! 最初が肝心だから張り切って行こー!」
「待った! 今日は一番時間がかかるものからやる予定だから!」
「何するの?」
「まずは仮のパーティー登録ね。まだ名前を考えている最中だからさ! 次は盗賊たちからもらってきたものの処分と、買い戻しに応じることをギルドに報告しようと思っているんだよ」
邪魔な美術品が金に換わるのなら俺に損はない。むしろ、丸儲けである。ついでに教会の国宝もさばけたらいいな。
他にもモンスターの素材があるが、依頼を確認してから提出すればいいだけだ。討伐報酬は依頼を受けれなければもらえないが、討伐実積のポイントははいる。
ちなみに、守護者ギルドと取引したモンスターの素材は印がつけられて市場に出回るが、それ以外の不正の対策は皆無である。そもそも一人一人に監視をつけることなどできず、基本的に過程は無視して結果を重視する。
何が言いたいかと言うと、
仮に不正をした場合は、実力もないのに昇格してしまったために仕事がなくなるか、怪我で引退することになる。最悪の場合は死亡することになる。結論、ギルドに損はほとんどない。人が減ったくらいだろう。
「パーティー登録していればポイントも報酬も折半だから、ランクを上げるのも少しは楽になるはず!」
「なるほどー! じゃあそのあと、ボア肉取りに行こうねー!」
「時間があったらな」
◇
「もう一度伺ってもよろしいですか?」
「えぇ。ですから、盗賊を討伐したので買い戻しに応じることと、盗賊の身分証を持ってきたので懸賞金を確認して欲しいと言いました」
俺とリアが仮のパーティー登録を終えた後、盗賊に関する説明をしたのだが信じてくれず、もう四回目の説明である。
確かに一昨日登録したばかりの
俺はボア肉を取りに行かねばならんのだ。早くしてくれ。
「信じてくれないのならいいです。他の街で買い戻しの手続きをしますし、最悪欲しがっている人に売りますから。その場合、困るのは俺ではないので」
俺が善意で手続きをすると言っているのに、追い返したとあっては確実にクレームが殺到するだろう。俺から買った商人が同額で取引してくれるはずがないからだ。そして美術品を所有する平民は限りなくゼロに近い。つまり、クレームの相手は貴族などの面倒な相手ということだ。
「お仕事頑張って下さい」
「ちょっと待ってください。応接室に案内しますのでついてきて下さい」
一昨日の頭が良さそうな受付がよかったと思いながら、リアと一緒に応接室に行く。
応接室に到着すると、そこには落ち着いた感じのおっさんがいた。体つきがしっかりしていて頭髪も寂しくないから若く見えるが、四十代には突入しているように見える。雰囲気は生活指導の教師のようで、自分が一番正しいと思っているような頑固親父にしか見えない。
なんか嫌な予感がする。
「座りたまえ」
「「失礼しまーす」」
「私は副ギルドマスターのゴッズという。さて、受付の者から不正をした者たちがいると聞いたが、何をしたのか最初から話しなさい」
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