閑話 海洋の勇者と大空の勇者
「う……ん。ここ……は?」
寝すぎたときのような頭の重さを感じながら目を覚ますと、視界には豪華な天井が広がっていた。
「まぁまぁ、ようやく目を覚ましてくださいましたわ。ここは――「おばさん誰? ここどこ? まさか誘拐とか? ねぇ、早く答えてくれない?」」
いきなり声をかけられたからビックリして捲し立ててしまったが、よく見ればコスプレしている人たちに囲まれていた。
ドッキリ? 素人を巻き込んだドッキリに出演しちゃった感じ? じゃあ、おばさんって言っちゃった人って偉い人か芸能人かも……。しくった……。
「こ、ここは海洋教国マーラエナの首都パロスです。そして私は指導者をさせていただいています、ディーネと申します。勇者様を歓迎いたしますわ」
やばーい。おばさん、かなり怒ってる。やっぱり偉い人だったかぁ。まぁそんなことよりも気になることがあるけどね。
「海洋教国……? そんな国あったっけ?」
「この世界は勇者様が住んでいらした世界とは別の世界です。勇者様はこの世界を救うために、この世界に召喚されたのです。存分に力を振るってくださって構いません」
何このおばさん。頭わいてんの? それともそういう設定? しかも勇者って……。卒業できてない人がここにもいたよ。
でも芸能人デビューするチャンスが来たって思えば、勇者になりきることくらいはできなくもないかな。
私、
「仕方がないな。頼られたら断れない性格だからなぁ。全て私に任せなさい!」
「素晴らしいです! それではさっそく、海洋神ウード様より授かった力を教えてもらいたいですわ。『ステータス』と唱えてくだされば、勇者様の目の前に表示されるはずです」
「ステータス」
名前 アリス・ナルミ
年齢 十六歳
加護 海洋守護神の加護
スキル 治癒マスター・異世界言語
えっ? マジ? このドッキリすごくない? 本当に透明な板が見えるんだけど。知らない間にVRか何かを着けられたのかしら?
「勇者様、どうでしたでしょうか?」
「えっ? あぁ。治癒マスターと異世界言語っていう二つだったけど」
「素晴らしいですわ! 治癒のマスターランクがあれば多くの人々をお救いになれますわ! あなた様に相応しい称号は『聖女』以外にはあり得ませんわ!」
「勇者じゃないんだー。まぁいいけど」
治癒マスターって治すだけ? 勇者って言うからてっきり剣と魔法の世界で、「魔王を倒すぞー!」って言うのかと思ってた。
「では勇者様には魔王討伐の後方支援と、治癒士として多くの者を救っていただきたいと思っております。まずは、スキルの訓練から始めていただきます」
「あっ! やっぱり魔王役がいるんだー。まぁ
「は、はぁ……」
「こうして私の女優人生の幕が上がった」って将来のエッセイに書こっと。
「では、お部屋の方を案内いたしますのでついてきてください」
「はーい」
◇◇◇
「お目覚めですか?」
「うぅぅぅ……。あれ? 昨日の合コンにいたっけ?」
「すみませんが、合コンの意味とは?」
今どき合コンの意味も分からない人っているの? 美人だから遊んでそうだと思ったけど、もしかしたら処女ってことか? 超ラッキーじゃん。
「合コンとは男と女が仲良くしちゃう場所じゃん? だから、俺様に恋しちゃっていいんだぞぃ」
「は、はぁ……」
あれー? 俺様のウインクで落ちない女がいるとはなぁ。ますます手に入れたくなっちゃうじゃん。
「ゆ、勇者様? 目が痛いのですか? 大切なお身体に何かあってはいけません。すぐに治癒士をお呼びいたします」
「……は? 勇者? 治癒士はいいから詳しい話聞かせてくれ」
「勇者様がよろしいのであれば私たちに是非はありません。それでは本題に入らせていただきます。この度は四勇者の一人として大空教国ウェニクスに召喚させていただきました。勇者様には他の勇者様方とともに魔王を討伐していただき、この世界を救っていただきたいと思っています」
「……キターーー! チート無双で俺Tueeeしちゃうやつじゃん! 俺様の時代ってことじゃん!」
やっぱり持ってる。俺様の魅力は異世界でも健在ってことか。人気者は辛いなぁ。
「えっと……承諾してくださったのならば、『ステータス』と唱えて大空神からの力を教えていただきたいのですが?」
ステータスもあるのか。レベルアップしたり魔法覚えたりしてダンジョンに行くのもいいかな。まぁとりあえず見てみるか。
「ステータス」
名前 ハルク・クズノセ
年齢 二十歳
加護 大空守護神の加護
スキル 武術マスター・異世界言語
えっ? これだけ? レベルは? 魔法属性とかは? これなら口頭でよくね?
「勇者様、どのようなスキルが?」
「武術マスターと異世界言語だってさ」
「素晴らしいじゃないですか! 勇者の称号に相応しいスキルですよ! どんな武器をも扱えるようになるのですよ!」
「それよりも魔法は?」
勇者や召喚って言うくらいなんだから魔法くらいあるよな?
「魔法は専用の道具を使って初めて使用できます。ですが、魔法関連のスキルがあれば道具は必要ありません。また道具を使った場合は補正効果があるそうです」
「それでその道具はもらえるの?」
「とても高価なもので多用できませんので、開発が成功次第となります。でも勇者様や教会の者たちは皆スキルホルダーですので、魔法に頼らなくても戦力としては十分ですよ」
そういう問題じゃないんだよな。勇者と言えば聖剣と魔法だろ? この二つが揃わなかったら冒険者や兵士と変わらんだろうが。
「じゃあ伝説の聖剣は?」
「それでしたら太陽教国にございますので、さっそく問い合わせをしてみましょう。連絡を待つ間はスキルの訓練をお願いいたします。もちろん、何不自由なく過ごせるように手配いたしますのでご安心ください」
「ふーん。何不自由なく……ね。じゃあお願いしようかな」
異世界ハーレムも簡単に手に入れられるなんて、やっぱり俺様は持ってる男ってことか。成り上がる必要もないヌルゲーの世界だが、あえて俺様は茨の道を選ぶ。
あの偉そうな処女を落として結婚すれば、この国は俺様の物ってことだ。なかなか堅そうだが、さっきマーキングしたから確実にいけるはず。
つまり、国王に俺様はなる。
勇者から国王への道のりは長く険しいはずだが、俺様の成り上がり伝説には相応しい内容だ。
「では、お部屋の方をご案内いたします」
「大きなベッドを頼むぞ」
「もちろんですわ」
気遣いもできるいい女。絶対に手に入れてやる。まぁ今夜は他で我慢するとしよう。
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