第十四話 奴隷は馬になる

 スキルのおかげで多くのことが分かった。


 まずは男の奴隷から。一人目は殺人だった。しかも、強盗と強姦の常習犯だ。一生鉱山奴隷として生きていってもらいたい。


 二人目は二人組の詐欺師である。守護者ギルドに所属していたが、臨時パーティーを組もうと誘い、パーティーでしか挑めない上位モンスターが出ると逃亡する。被害者が死んだ後、ギルドに死亡届けを提出して財産の全てを奪い取る。捕まった原因は護衛付きの貴族に仕掛けてしまったからだ。二人が逃げても護衛がいるから死ななかったのだ。当たり前だが、三人目が相方だ。こいつらも一生鉱山奴隷として生きていってもらいたい。


 四人目は最初は冤罪だったのだが、捕まえに来た警備兵と守護者ギルドの数人を殺してしまった。残念ながら有罪だ。奴隷紋も刻まれてしまった今、どうすることもできない。


 次は女の奴隷だ。一人目は女の敵だ。女友達を盗賊に売る仕事をしており、多くの犠牲者を出していた。さらに心が壊れなかったら奴隷として転売し、心が壊れたらモンスターの巣に投げ込むという悪魔の所業であった。バレた理由は潜入捜査をしていた騎士を盗賊に売ってしまったかららしい。一生鉱山奴隷として生きていってもらいたい。


 二人目は俺の宿敵だった。太陽教会の特殊部隊らしい。敵国に潜入していた工作員が国境を行き来するときに、奴隷になりすますんだそうだ。奴隷紋を消す道具を持っているため、手を挙げたのも偽装工作だったのだろう。もちろん、奴隷紋を消す道具は回収してやった。「邪魔になりますので」と言って回収したときの顔は今でも忘れない。思わず噴き出しそうになったくらいだ。


 三人目は無罪だと思われるが、一応確認してみた。すると、誘拐ではなかったのだ。普通に家族に売られていた。貧しい家庭だったみたいだが、親に売られる辛さは計り知れないものだろうな。


 四人目が問題の黄緑の娘だ。色々と言いたいことはあるが、スキルを使用して分かったことは創造神の加護を持っていることだけである。他は何かに弾かれたように干渉できなかったのだ。結論、間違いなくこいつだ。


「では結果を説明します。名簿は正しかったです。そちらの女性二人は檻から出てきてください。残りの人たちは待機です」


「ちょっと! 私の私物を返してよ!」


「奴隷には過ぎたる物です。これから鉱山奴隷として働くのに、宝石がついたペンダントが取り上げられないとでも?」


 奴隷紋の解除には個別の鍵が一つだけ。これがなければ解除できないのだ。必死になるのも分かるが、ドジを踏んだ工作員が悪い。


「では改めまして、俺の名前はアルマです。街を目指している最中に襲われている馬車を発見しました。もしよろしければ街まで一緒に行きませんか?」


「ほ、本当に助けてくれるんですか?」


 俺の言葉が信用できないのだろう。村娘風の女性が話し掛けてきた。まぁ当然と言えば当然の疑問だ。怪しさ満点の人物が助けてあげようと言っても、信用する者はごくわずかだろう。


「まぁ信用できないだろうけど、一応俺も街に行かないといけないので、そこまでは同行しませんか? そのあとは自由にしたらいいと思いますよ。モンスターが溢れるこの場所にいるよりはいいと思いますが?」


 ぶっちゃけた話、俺としては黄緑の娘に用があるだけで、村娘風の女性が信用しようが信用しまいがどうでもいい。冷たく思われるかもしれないが、俺の正体がバレるような要素はできるだけ排除しなくてはならないのだ。


「わ、分かりました。街までお願いします」


「お願いします」


「では一つ聞きたいのですが、あの馬車は馬がいないようですが自走するんですか?」


 村娘風の女性が率先して答えてくれる。


「えっと……、奴隷商人たちが乗って行ったんだと思います。自走するような馬車は王族でも持っていないかと」


 彼女たちの返事を聞いた俺は、ずっと疑問に思っていたことを聞きながら、狼の解体を行っていく。討伐証明の尻尾と買取素材の皮、牙、魔石を回収する。ゴブリンのときは多すぎてやらなかったが、狼の心臓は全て吸収した。最後に周囲に漂う魂を喰って終了だ。


「なるほど。逃げたということは、捨てたという解釈でいいはずだ。次にお二人はまだ奴隷紋がないようですが、何故ないのでしょうか?」


「私たちはレーヴェニア王国から教国に向かう予定でした。レーヴェニア王国は、犯罪奴隷でもない限り人権が保障されているほど奴隷の規制が厳しいのです。だから、私たちのような違法奴隷は教国で奴隷紋を刻まれるそうです。奴隷商がそう話していました」


「そうですか。分かりました。それでは行きましょう」


 聞きたいことは聞けたので、二人を連れて街の方向に向かうことにしたのだが、当然すんなりと行くとは思っていない。


「おい! 俺たちは!?」


「死ぬわよ。こんな場所に放置したら。いいの?」


 このまま置いて行かれると思ったのだろう。焦り出す奴隷たちは必死になって声を上げる。


「えっ? いいか悪いかで言ったら、もちろんいいに決まってる。だって元々俺の財産じゃないし、馬もいない馬車をどうしろと? でも檻から出して連れて行くと逃げるだろ?」


 諦めの悪い奴隷たちにイラッとし始め、つい口調が素になってしまった。こいつらが犯罪奴隷でなかったら、一緒に連れて行ったと思う。犯罪を犯して捕まった人を護送している最中に、「逃げないから檻から出して」って言われて出す馬鹿がいるだろうか。


「逃げない! 絶対に逃げないから!」


「じゃあ、俺が思いついたことをやってくれるなら連れて行きます。やります?」


「そ、それは……内容次第だ!」


 まだ逃げられると思っているのか、冤罪男が食い下がる。


「では発表します。お馬さんの代わりに馬車を牽いてください。馬車が欲しいわけではなく、逃亡防止用に馬車に固定しようかと。さらに乗り物として使えるかなって思って。いかが?」


「はぁぁぁ!? 横暴だ! 人権侵害だ!」


「残念ながら犯罪奴隷に人権はない。早めの刑務だと思ってくれ。俺のいた場所には人が牽く乗り物があったから、人権がどうとかは考えすぎだ。やらないなら狼の肉を馬車に置いて行くから、ここで生活してくれ。じゃ!」


 分かっているだろうが、狼の肉を置いて行くのは嫌がらせだ。鍵を壊した扉から肉の匂いが漏れ出したら、きっとモンスターが押し寄せるだろう。


 ちなみに、狼もモンスターでボス狼が争乱級のフォレストウルフで、他は危険級のウルフというそうだ。


 それはさておき、彼らは狼の肉の意味が分かったらしく、大人しく馬車を牽くことにしたようだ。


「じゃあ準備してきますね」


 馬車には馬車を牽くための馬具は一切なく、思いついたはいいが牽くための道具がない。俺が持っているロープも頼りないレベルの強度しかないため林に入って、プゴ太郎の手綱に使ったものと同じロープを作った。


 そのロープを馬車につければ、まるで日本の祭りで使う山車だしについたロープのようになった。


「おぉー! カッコいいー!」


 これで太鼓や笛があればなぁ。


 馬車だけど、馬車じゃない。山車だけど、山車じゃない。不思議な乗り物の完成だ。


「一人ずつ降りてください。逃げたらナイフ投げますからね」


 一応忠告をした後、奴隷の腰にロープをつけ極太ロープに固定していく。このとき少しだけ隙間を空けて固定し、転倒防止をするのを忘れない。


「じゃあ二人は御者台に乗ってください。出発進行ーーー!」



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