第十二話 本命は思わせぶり
嫌がらせ戦法を思いつき、実行に移すことを決意する。これで無理なら今回は諦めがつくはずだ。
まずは変身セットを解除し、《透過魔法》で後ろに回る。当然、槍の間合いには入らない。次にスローイングナイフを投擲する。狙いは膝裏。だが、直接狙うとバレるだろうから陽動で目に向かって放つ。《念動魔法》のおかげで誘導できる故の作戦だ。
予想通り前からの攻撃は手ではたかれたが、膝裏に命中したから問題はない。場所を移動しもう一方の膝裏にも投擲する。今回も問題なく命中するも、さすがに俺の存在に気づき槍で薙いできた。
おっと、危ねぇ。このままグリグリ開始だ。
その場にしゃがみ槍の横薙ぎをやり過ごすと、オーガの股に向かって走る。両手にチャクラムを持ち、真上に向かって投擲する。これも陽動で、本命は膝裏だ。《念動魔法》でスローイングナイフを抜き、【異空間倉庫】から槍を取り出し突き刺す。いくら硬い皮膚を持っていようとも、亀裂が入っていれば突き刺さるはずだ。
とりあえず一本を左膝の裏に突き刺し、オーガの槍の間合いから離脱。
「グゥゥゥウッ……ウゥー! ゴロズーー!」
希望を持てる発言をありがとう。
続いて桃色の魔法具を左手に、二本目の槍を右手に持ち、オーガの槍を持っていない左手側へ走る。当然迎撃してくるが予想しているため対策済みである。
――《発光》。
昼夜の変化に関係ない俺と違って目があるオーガには、急激な明暗差はキツかったようだ。目を瞑り混乱している。
チャンス到来ーー!
魔法具をホルダーに戻し、槍を右膝の裏に突き刺す。その痛みで俺の位置を特定したオーガは、槍の石突きで俺を狙う。
予想できていれば当たるはずもない攻撃をかわし、変身セットを解除する。そしてオーガの肩で変身して水色の魔法具をオーガの顔面に向ける。
――《火球》。
行きがけの駄賃で頚椎にポールアックスを叩きつけ肩から飛び降りた。
「グォォォォーー! アヅイィィィイー!」
オーガは火を消そうと槍を手放し、両手で顔を叩く。それを待っていた俺はすぐにオーガの槍を【異空間倉庫】に放りこんだ。
邪魔な槍をやっと回収できたーー! これでようやくまともに近づけるってもんよー。
ポールアックスをしまい、武器庫から大槌を取り出す。もちろん狙うは、膝裏の槍の石突きだ。
喰らえぇぇぇぇぇーーー!
ガッと鈍い音を立てながら深く突き刺さる槍のせいで、膝カックンを受けたように左膝をつくオーガにさらなる追い打ちをかける。
前屈みになったオーガの背中を駆け上がり、後頭部に大槌を振り下ろす。
「ガッ……ハッ……」
衝撃で顔面から地面に落ち、うつ伏せになるオーガの肩に移動すると、頚椎に向かってポールアックスを振り下ろす。何度も何度も同じところを集中的に攻撃し、何とか勝利することができた。
もう少し賢かったら、俺がやられていたな。
ちなみに、背中や腹側を攻撃しなかったのは買取に出すときのためだ。根っからの貧乏性である俺は、倒せた後のことまで計算してしまうのだ。まぁ優秀な守護者になるためには、素材の品質を気にする必要があると俺は思う。
それはさておき、投擲武器や槍を回収してオーガの解体を行う。脳筋オーガのおかげで、近くにはモンスターがいなくなったのだ。魂を喰い終わった後にやることは、
頼むー! 頼む、頼むぅぅぅぅーーー!
神に祈りを捧げることだ。その後にスキルを発動するのである。気休めと分かっていても祈らずにはいられない。
――《
残念だが、心臓を吸収し終わったのに何も変化はない。とても信じられなかった俺はすぐにステータスを確認する。
名前 アルマ
年齢 十五歳
加護 創造神の加護
スキル 魂霊術・言語・異空間倉庫・槍術
おい……。馬鹿にしてんのか?
ほとんど槍を使ってなかったのに、何で槍術スキルをもらわなければならないんだ。またやらなければいけないのか? ……はぁ。
あまりにも残念な結果にどうしようかと考えていると、ふと他のスキルの変化が気になった。
スキル【異空間倉庫】☆☆
時間停止機能付きの倉庫。上限は二十種類。
スキル【言語】☆☆
人間の言葉を理解し、読み書きを可能にする。
人間の言葉を理解し、会話を可能にする。
スキル【槍術】☆
槍術の基礎を修得した。
……ちょっと待て。俺は無駄なことをしていたのか? ――いや、そんなことはない。そもそも香典代わりのスキルが重要だと、いったい誰が気づけるというのだ。はぁ。きっとニヤニヤ笑って馬鹿にしているんだろうなぁ。
……解体しに行こう。
オーガを収納すると、水場を探して移動する。移動の最中は発声練習だ。
「……ア……アァァァアァア……」
なかなか上手くいかない。久しぶりに声を出したことと、今まで意識して話していなかったせいでスキルを使う感覚が掴めなかったのだ。
川原に着く頃になって慣れてきたのだが、解体作業中に独り言を言っていると頭がおかしいヤツに見られそうだから、解体が終わるまでは黙ることにしよう。例え誰も見ていなくても、それだけは譲れない。
最初にやるのはゾンビとスケルトンたちの魔石を洗浄だ。それとメイスやオーガの槍なども洗っていく。本来武器を丸洗いというのはあまりよくないのだろうが、そんなことは関係ない。洗わなければ持ち歩きたくないのだ。これは肉体の有無とは別の問題である。
モンスター図鑑を確認する。どれも初めてのモンスターだから、討伐証明と買取素材が分からないのだ。
ゴブリンは害悪級で討伐証明はリングピアスがついた右耳。素材は魔石のみ。最初のオーガは凶禍級で、二体目のオーガは災害級のグリーンオーガというらしく、風魔法を使うらしい。討伐証明はどちらも角で、買取素材も二体とも角、皮、魔石だけのようだ。
木が吹っ飛んでたのは風魔法のせいだったのかもな。本格的に使われなくて助かったぁ。
それにしても百体くらいありそうなゴブリンが面倒だ。オーガは魔石は回収済みだから、角を切断して皮をきれいに剥げば、あとは穴の中で火葬するだけ。
オーガを終えた後は穴を掘りオーガを入れ、ゴブリンの処理を行う。ある程度終わらせると火をつけ燃やし、焼却時間を使って残っていたゴブリンの処理をしては穴に入れるという工程を繰り返す。最後に武器の手入れと鎧の手入れを行い、全ての作業が終了した。
「あぁぁぁ。もう朝かぁー!」
肉体がないから凝ってはいないのだが、気分的に背伸びをして南下を続ける。
「そろそろ国境が見えるはず。――あっ、あれだ!」
俺は変身セットを解除して、教国の国境砦を通過する。ここで身分証の確認を行われると非常にマズいからだ。同じ理由で、国境を越えてすぐの隣国の国境砦も《透過魔法》で通過していく。これで「田舎から来たので分かりませーん!」が使えるはずだ。問題の見た目関係の言い訳も考えてある。
国境砦から大分離れたところで変身セットを装備する。
「この国はいったい何という国で、どんな国なんだろうか。とりあえず街を目指そう」
「私が教えてあげるから、お願いを聞いてくれないかしら?」
――えっ? 誰!?
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