ブレスレット。

深夜 酔人

ぷつり。

ブレスレットが切れた。

ぷつりという間抜けな音もなく。

それは唐突に、本当に前触れもなく切れたのだ。


書店の一角で、本を取ろうとした時だった。

右手首からお気に入りの青が零れたのだ。

そして床に散らばって、

パラパラと空虚な音をたてて、

血溜まりを描いたのだ。


不思議と何も感じなかった。

離婚した父を忘れぬようにとつけていた筈なのに、何も。

存外呆気ないもんだと軽く考えた。


他のお客さんから

「少し本棚の下に紛れ込んだかもしれないよ」と言われた。

「はい、有難う御座います」と応えた僕の声は事務的だった。


書店を出て、本を読む時に邪魔だと思って外していた手袋をつけると、

少ししてブレスレットが切れたことを再認識させられた。

右手がいやに開放的で少しさびしかったのだ。

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ブレスレット。 深夜 酔人 @yowaiyei

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