第2話

 翌日、朝飯を食うとゲートと呼んでいるどこにでも行ける門を開き、三つの候補地に紅葉と見に行った、どこもいい感じだが俺は神戸が気に入った、昼食も神戸で食べカフェで一休みした。

 

「紅葉、どこが気に入った?」

「優斗は? 同時に言いましょう」

「わかった」

「「神戸」」

「意見が一致したわね、どこに住むか見て回りましょう」

「そうだな、金は龍王からたくさん貰った、賃貸じゃなく分譲マンションを買おう」

「そうね」

 

 二時間程歩いて見て回ったが、いい物件ばかりで決まらない。

 

「不動産屋で探してもらった方がいいわね」

「それを先に言ってくれ足が疲れた」

「あそこに大手の仲介業者の店があるわ」

 

 店に入った、若い男が担当してくれた。

 

「分譲マンションを探してるの」

「どの辺りがいいですか?」

「交通の便は悪くてもいいけど、買い物とかに便利な場所で景色のいいところがいいわ」

 男が不審そうな目つきになり。

 

「会社勤めか学生さんでしょ? そのような物件はありますがお金は払えるんですか?」

 

 見下した物言いに俺は頭に来た。

 

「バカにしやがって、店長を呼べ」

「いや、それはちょっと」

「聞こえましたよ、私が店長ですがこいつが何か失礼な事を言いましたか?」

 

 俺はさっきの事を話して、通帳を見せた。

 

「申し訳ございません」

「この男はクビにしろ」

「再教育しますので、許してやって下さい」

「彼は京都の資産家の孫よ、失礼過ぎるわ店の評判が悪くなって潰れてもいいのね」

 

 紅葉が適当な嘘を付いた。

 

「わかりましたクビにしますので怒りを鎮めて下さい、私が担当させてもらいます」

 

 紅葉がもう一度同じ条件を話した。

 

「条件に当てはまる物件が三件あります、実際にご覧になりますか?」

「えぇ見せてちょうだい」

 

 車で案内された、三件共最上階の角部屋で条件にピッタリだ。

 

「優斗はどれが気に入ったの?」

「二件目かな」

「私もよ、キッチンも使いやすそうだし、間取りがよかったわ、駅も近いし」

「そこにしよう、店長二件目の億ションを買う、すぐに引っ越せるようにしてくれ」

「ありがとうございます、では売買契約書にサインが必要なので店に戻りましょう」

 

 店に戻るとあの男はいなかった、書類にサインして捺印した。

 

「金は今日一括で振り込む、いつから住んでいいんだ」

「明日からでもいいですよ、キーはお渡ししておきましょう、部屋は空調完備です」

「ありがとう、このカードがキーなのか?」

「そうです、ピッキング防止の新しいタイプのキーです、わからないことがあれば、マンションの一階に管理人がいますので」

「わかった、明日引っ越してくる」

「ありがとうございました」

 

 店を出てゲートを抜け京都の家に帰った。

 

「ただいま」

「住む場所が決まったようだな、もう家も買ったのか?」

「買ったよ、早いけど明日引っ越すよ」

「そうか、今夜はすき焼きでもしよう」

「おじい様が寂しくなるわね」

「大丈夫だ心配しなくてもいい」

 

 三人ですき焼きを食べ、引っ越しのために荷造りをした、ほとんどの物は向こうで部屋に見合った物を買えばいいと紅葉と決めた、荷物は驚くほど少なかった。

 

 朝になり起きて朝食を食べると、じいさんにここまで育ててくれた礼を言った。

 

「会えなくなるわけじゃないんだ、気にせず引っ越しなさい」

「ありがとう」

 

 ゲートを開き荷物を運び込んだ、すぐに終わった。

 

 空調が効いているので涼しい。

 

「さぁ今日は忙しいわよ、家電も家具も調理器具も全部揃えるわよ」

「張り切ってるな」

「だって優斗と同棲生活が始まるんだもの」

「わかったよ」

 

 一日かけて全部揃えた、後は食料だけだ、近所のスーパーに行き食材をたくさん買い込みマンションに戻った。

 

 後は明日のネットの開通を待つだけだ。

 

「今夜は出前でお寿司でもいいかしら?」

「いいぞ」

 

 紅葉が電話で注文するとすぐに届いた、美味い寿司を腹一杯食べた。

 

 窓から南の夜景を見た、凄く綺麗だ。

 

「紅葉、夜景を見てみろ」

「わぁ凄く綺麗だわ」

 

 スマホで写真を撮った。

 

「ねぇ、一緒にお風呂に入りましょう」

「ここの大きな風呂なら二人でも十分入れるな」

 

 お互い裸は見慣れている、今更恥ずかしくはない、龍人は脇毛も陰毛も全てのムダ毛が生えない、学生の修学旅行でよくバカにされた記憶がある、俺は紅葉の裸しか女の裸を生で見た事がないが、スタイルがいいのは俺でもわかる、顔もかなり美人だ。

 

 風呂から上がり落ち着いたので紅葉と話をしながらくつろいだ。

 

「今更だが紅葉は何で俺が好きなんだ?」

「全部よ、優斗以外の男には興味ないわ、優斗はどうして私が好きなの?」

「俺も全部だ、他の女に興味はない」

「嬉しいわ」

「俺もだ、お前はよくナンパされてるからヒヤヒヤするよ」

「他の男には興味がないって言ったでしょ」

「後、仕事しろと言わないとこも好きだ」

「だって私達は普通の人間とは違うもの」

「わかった、ところで明日から何をする?」

「高校を卒業してからの二年間と同じようにダラダラ過ごせばいいじゃない」

「そうだな、龍王から大金ももらったしな」

「でも悪人退治は約束したから、そこはちゃんとしないと駄目よ」

「わかったよ、明日は市役所に住所変更の手続きに行かないと駄目だな」

「私も忘れてたわ、他に何かないかしら?」

「思い出したらでいいじゃないか」

「そうね、時間はたっぷりあるわ、神戸はファッションと靴の街よ、おしゃれにも気を使わないと駄目ね」

「靴も神戸なのか?」

「そうよ、意外と知られてないけど靴と言えば神戸よ、後は神戸コロッケに中華街」

「コロッケもか、今度食べてみよう」

「冬になったらルミナリエも見たいわ」

「ネットに写真が載ってた、まだ先だな」

「今年は空梅雨だったわね」

「そうだな、もう七月か」

「疲れたわもう寝ましょう」

「そうだな、明日は九時にネットの業者が来るしな」

 

 二人で寝室に入った、今日買ったダブルベッドに二人で寝転んだ。

 

「同棲初日なんだからキスくらいしてよ」

「わかった」

 

 紅葉を抱きしめキスをした、満足したのか寝息を立て始めた、俺もすぐに眠った。

 

 アラームで目が覚めた、八時だ。

 

 二度寝しようとしたら紅葉に起こされた。

 

「ダラダラしてもいいけど、ご飯はちゃんと食べてちょうだい」

「わかった、起きるよ」

 

 紅葉の作ったフレンチトーストを食べ、コーヒーを飲んでいるとネットの接続の業者が来て五分で終わらせ帰って行った。

 

 ワイファイも繋いでいるので快適にネットが見れるようになった。

 

 二人で市役所に行き驚いた、神戸の市役所はビルだった、住所変更の手続きを済ませコンビニでデザートをたくさん買い、マンションに戻った。

 

 クレジットカードがあれば便利だと思い、ネットでクレジットの比較サイトを見て、金持ちにしか発行されないブラックカードを二枚申し込んだ、一枚は俺でもう一枚は家族カードで紅葉のカードだ、すぐに審査が通ったメールが届いた、カードが届くまで二日かかるらしい。

 

 ついでに俺の好きな豆乳も定期購入を通販サイトに申し込んだ。

 

 昨日箱買いした豆乳を冷蔵庫から出し豆乳を飲みながらスマホゲームを楽しんだ、紅葉はパソコンで服を見ている。

 

 昼過ぎにチャイムが鳴った、千里眼でドアの向こうを見た、この前の不動産屋の若い男だ、包丁を持っている。

 

「紅葉、出るな」

 

 俺はゆっくりとドアに近付いた、男がポケットから紙を出しドアに張り付けて帰って行った、ドアを開け張り紙を剥がしリビングに戻って読んだ。

 

『今日の二十時、北の公園に来い』

 

 と書かれていた。

 

「相手は誰だったの?」

「先日の不動産屋をクビになった男だ」

「仕返しに来たの?」

「あぁ包丁を持っていた、俺達を殺すつもりみたいだ」

「あなたの悪人退治の初仕事ね」

「そうなりそうだ、ドラゴンソードの出番になるな」

 

 体から龍王の声が聞こえた。

 

「優斗の初仕事にはちょうどいい相手だわ、あなたが主よ炎でも氷でも雷でも何でも命令してちょうだい」

「そんな事も出来るのか?」

「簡単よ」

「だが今回は斬るだけにしておく」

「わかったわ」

 

 声がしなくなった。

 

「私も行くわ」

「危ないぞ」

「これでも剣の腕前には自信があるわ」

「そうだったな、わかった念の為バリアを出しておけよ」

「心配性ね、わかったわ」

 

 俺は人を斬るのは抵抗があるが、何故か気分が高まっていた、龍人だからだろうか? 気分を落ち着かせゲームをして遊んだ。

 

「優斗、晩ご飯何か食べたい物はある?」

「カルボナーラ」

「相変わらずスパゲティが好きね」

「パスタは食べ飽きないからな」

 

 ゲームを止めて紅葉に抱きついた、紅葉も腕を回してくる。

 

「突然どうしたの? 怖いの?」

「いや逆だ、わくわくしている俺が怖い」

「龍の血が騒いでいるのよ」

 

 紅葉のセミロングの髪の匂いを嗅いだ、いい匂いがする、そっと離れた。

 

「紅葉、お前は何でそんなにいい匂いがするんだ?」

「シャンプーの匂いじゃない? 私も優斗の匂いが好きよ」

「男臭くないか?」

「それがいいのよ、スパゲティの用意をするわ待ってて」

 

 紅葉がキッチンに入り、暫くするとスパゲティが運ばれてきた、手を合わせ食べた。

 

 食後のコーヒーを飲みながら時間が来るのを待った、第三の目で男の姿を探した、もう公園のベンチでタバコを吸っている、十五分前になった。

 

「紅葉、そろそろ行くぞ」

「わかったわ」

「驚かせてやろう」

 

 ゲートを抜け男の前に立った、男から見れば空中から突然現れたように見えただろう。

 

「お前らどこから出てきた?」

「さぁな、俺を包丁で刺し殺すんじゃないのか?」

「何故知っている? まぁいいお前のせいで仕事も家も失った、お前は刺し殺し女は犯してから殺す」

「あなたのお粗末な物なんていらないわ」

「貴様後悔させてやる」

「おっと、俺からじゃないのか?」

 

 男が包丁を取り出した、俺もドラゴンソードを出した、男がビビっている。

 

「どっ、どこに隠していた?」

「いちいちうるさい奴だな」

 

 男が斬り掛かって来た、ドラゴンソードで包丁を折り肩から両腕を斬り落とした。

 

 男は声にならない叫び声を上げて転げ回った、死なれては困るので男の肩の切断面にドラゴンソードを当て炎を出した、傷口が焼けて血が止まった。

 

「あら、もう終わり? 私を犯すんじゃなかったの?」

 

 紅葉が剣を出し男の股間を刺した。

 

「これでも犯せるならどうぞ」

「畜生、だがお前らも道連れだ警察に言ってやる、殺人未遂で逮捕されろ」

「それは困ったな、喋れないように舌を斬っておくか」

「じょ、冗談だ誰にも言わない許してくれ」

「信用出来ないな」

 

 剣を口に突っ込みかき回した、頬が裂け切断された舌が折れた歯と一緒に出てきた、ついでに左足も根元から切断した。

 

「あなた、そこまでよそれ以上は駄目よ」

 

 我に返りドラゴンソードをしまった。

 

「はしゅはふ」

「舌も歯もないから何を言っているかわからん、もう終わりか?」

 

 男が泣きながら首を縦に振る。

 

「じゃあなクズ」

 

 ゲートを抜けマンションに戻った。

 

「あなたは剣を持つと人が変わるわね、私が付いて行ってよかったわ」

「あぁ助かった、殺してしまうとこだった」

「これからも付いて行くから単独行動は駄目よ、わかった?」

「わかった」

 

 龍王の声がした。

 

「紅葉、悪人は殺してもいいのですよ」

「龍王様、それでは優斗の殺さないで痛めつけると言う信念に反します」

「なら仕方ないわね」

「殺していい人間と殺したら駄目な人間は私に任せてもらえませんか?」

「いいでしょう、紅葉は冷静沈着なので任せます」

「ありがとうございます」

「優斗、初仕事お見事でした、では私は戻ります」

 

 声が消えた。

 

「ちょっとやり過ぎたが、達成感はある」

「それでいいわ、私が止めるまでは好きにしていいわよ」

「わかった」

「とりあえずお疲れ様、ゆっくりくつろいでちょうだい」

「あぁ喉が乾いた」

 

 紅葉が豆乳とプリンを出してくれた。

 

「あんな俺でも好きでいてくれるのか?」

「あれくらいで嫌ったりしないわよ、私は一途にあなたを愛してるわ」

「ありがとう、俺も愛してる」

 

 パトカーと救急車のサイレンがここまで聞こえてきた。

 

「見つかったみたいだな」

「そうみたいね、証拠も目撃者もいなかったから私達にはもう関係ないわ」

「そんなとこまで見てたのか」

「私はいつでも冷静よ」

「ありがとう、助かるよ」

「終わった事よ、あなたも早く忘れて」

「わかった」

 

 紅葉が俺の頭を優しく抱いてくれた、俺は紅葉の胸に顔を埋め安心感を味わった。

 

「どう? 安心出来たかしら?」

「あぁどうしてわかったんだ?」

「こうすると男は安心感を覚えるって雑誌に書いてあったの、胸の柔らかさと心臓の鼓動が男を安心させるそうよ」

「そうか、凄く安心出来た、またしてくれ」

「いつでもしてあげるわ」

 

 それから一緒に風呂に入り、眠くなるまでネットを徘徊した、一緒にベッドに入りキスをして泥のように眠った。

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