第22話 手をつないだら

 秋の国体の予選が始まった。なんだかんだ、やっぱり応援団の数は以前とそう変わらない。純玲さんも来てくれた。柚月さんはどうだろう。一応試合のお知らせはLINEしておいたけれど。

 引退試合と違って、変なプレッシャーはないけれど、勝ちたいという意欲はある。前回の最後の試合のように、実力を出し切れなかったのではないかと自分を疑うのはもう嫌だ。もっと冷静に、確実に実力を出し切りたい。

 試合が始まった。俺たちは日々サーブを磨いてきた。サーブで相手を崩す。そして、ブロック。諸住先輩と俺の2枚で、多くのスパイクを防いだ。

「キャー隼人―!ルークー!」

という黄色い声援が飛ぶ。けれどもあまり気にしない。初めての時はびっくりしたけれど、だいぶ慣れた。みんなイベントを楽しんでいる程度だ。また試合が終わればさっさと帰ってしまう人たちばかりだから。

 今日の試合は圧勝だった。3セット先取し、試合時間も短かったので、疲れもそれほどでもなかった。控室で着替えていると、純玲さんが現れた。

「琉久、お疲れさま。かっこよかったよ。」

扉から顔を出して俺に声をかけてきた。みんな着替えているので、俺はちょっとぎょっとしたけれど、純玲さんは俺の事しか見ていないので気にしていないようだ。俺はもうほぼ着替えが済んでいた。

「すみません、ここは女子禁制なんですけど。」

そこへ真希が現れた。ちょっと棘のある言い方だった。

「あ、ごめんなさい。じゃあ琉久、出口のところで待ってるね。」

純玲さんは恥ずかしそうにごめんなさいと言って、それから俺に声をかけて去って行った。真希はそのまま控室の入口に居座り、俺に声をかけてきた。

「琉久、あんた好きな人がいるって言ってたわよね。でも、女バレのあの人の事、あんたが想ってた、っていうか、知っていたとも思えないけどね。」

と言って、俺を睨む。そう、その通りだよ真希。俺は純玲さんが女バレにいた事も知らなかったよ。だからと言って、真希に好きな人がいるからって付き合うのを断ったのは、本当なんだよ。今の状況では、嘘をついて断ったように映ってしまう。

「ごめん真希。いろいろあって。」

俺がうつむいてしまうと、

「私はいいのよ。未練がましい事言ってるわけじゃないから誤解しないで。ただ、この学校に追いかけて来た先輩の事、諦めちゃっていいのかなって思っただけよ。」

真希はそう言って、その場を去って行った。俺はハッとして顔を上げ、真希の去った後を目で追った。追いかけて来た先輩が柚月さんだって事、確か真希には言ったよな・・・?

 荷物をまとめて、建物を出ると、そこに純玲さんが立っていた。純玲さんはニコッとして俺に寄り添う。そして、俺の手を握った。ちょっとびっくりしたけれど、付き合っているのに拒んではいけないと思い、そのまま歩いた。

 目の前に、そう、突然目の前に、柚月さんが現れた。今、急に来たのではなく、前からそこにいたのだと思う。俺がやっと気づいたのだ。まだ10メートル近く離れていると思うが、二人の間にいる人物や物がまるでピントの合っていないぼやけた物体になって、一気に柚月さんにピントが合った。柚月さんは俺と目が合った次の瞬間、顔を少し歪めた。そして、走り去った。柚月さん、泣いてた・・・?なぜ?それは、俺が今、純玲さんと手をつないでいるから・・・?違う。それは都合の良い解釈だ。でも、それじゃあなんであんな悲しそうな顔をしたのだろう。そして、なぜ逃げるように走り去ったのだろう。


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