第7話 心奪われる悪魔的な笑顔だ。悪魔だけど。


 職員食堂はこども病棟の隣らしい。目の先に見えてはいるが、なにせ広いので少しかかりそうだ。点滴スタンドを押すヘイゼルの歩幅に合わせているから、余計に歩みは遅い。

「ヘイゼルさん、どこか悪いんですか?」

 俺は言ってから失礼かと思ったが、時すでに遅し。目線の先、ガラガラと鳴る点滴スタンドを察してヘイゼルは柔らかく微笑む。

「これはただの栄養補給ですよ。まだ安静に、と言われましたけど、今が正念場ですから」

「大丈夫なんですか?車とかで移動した方が……」

「寝不足くらいで悪魔は死にませんよ。でもまぁそんなに心配してくれるのなら、到着するまでお姫様抱っこしてもらおうかな」

 俺を覗き込みながら悪戯っぽくヘイゼルがはにかむ。うん可愛い。見た目相応のやんちゃな笑顔だ。もしかしてこっちが素なんだろうか。

「えっと、しましょうか。歩くの辛いなら」

「ふふ、冗談ですよ。優しいですね」

 分かってはいたけど、もしかしたら本気の可能性も、と思ったがやはりジョークだった。悪魔ジョークはたまにジョークじゃないから油断できない。はは、殺すぞ~? が本気だったりする。

「ユキヒラ……あんたまさか、子供が趣味なの? 理由つけて触ろうとするなんて……」

「やめてください違います」

 提案してきたのはヘイゼルだし。断じてロリコンではない。俺が好きなのはモデル体型のお姉さんだ。甘えられるより甘えたい。愛されるよりも愛したいマジで。

 ちょっと慌てる俺を、ヘイゼルはくすくすと笑って眺めていた。

「そう言えば、ユキヒラさん、というお名前なのですね。そちらのあなたは?」

 ヘイゼルの問いに、テトラは気怠げに首だけこっちを向ける。

「私はテトラ。ユキヒラは私の下僕ね。旨い、安い、早いで有名なテトラ弁当屋よ」

 初めて聞いたぞそんなキャッチコピー。安くも早くもないし有名でもない。合致率二十五%。ギリギリ詐欺。

「なるほど、よろしくお願いしますね。あ、ちなみに」

 と言ってヘイゼルは守衛さんに目配せをする。守衛さんはすぐに察し、胸に手を当てて軽く会釈した。

「私はステビアと申します。守衛の傍ら、ヘイゼル副理事のお世話もさせて頂いております。お見知りおきを」

 守衛さん――ステビアは首をかしげてにっこりと笑う。少し事務的な仕草だが、元が良いので心奪われる悪魔的な笑顔だ。悪魔だけど。

「で、この建物でいいの?」

 両者が簡単な自己紹介を終えると、いつの間にか目的地に到着していた。足を止めたテトラが親指で建物を指している。

「えぇ、着きましたね。では行きましょう」

 ヘイゼルが先頭を切って歩き出した。入り口ではなく裏の方から回るようだ。ステビアに続き、テトラと俺も遅い足取りで追いかける。

 ちょっと緊張してきたぞ……。

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