魔界の下僕の弁当屋事情
高田丑歩
第1章 悪魔病院の経営事情
第0話 そいつはエプロン姿の悪魔の女だ。
人生で一番最悪な日が訪れた。
起きたら誰も知らない所で目覚めたい、やり直したい。そう思いながら一日の終わりに目を閉じる。毎日毎日、その繰り返し。
――で、やり直したいという思いは、唐突に叶ってしまった。
しかしそこは魔界、加えて悪魔の下僕になるというおまけつき。人間には危険な事だらけ……。
こっちに来てから、どうにかして人間界に帰れないだろうかと常々考えている。
「ユキヒラ、あんた盛り付けるの遅いわ。殺すわよ」
俺の名前を呼び、物騒なことを言う女性が一人。そいつはエプロン姿の悪魔の女だ。『悪魔』って表現は、比喩じゃない。
女――テトラはライラック色の長い髪に、アメジストの宝石のような目、整った顔にふと現れる育ちの良さそうな振る舞いは、庶民的なエプロンに不釣合い。いつまで経ってもこの姿は見慣れない。
「テトラさん、なんか今日イライラしてますね」
俺は今こいつと二人で、弁当にせっせと調理品を詰めている。自分達が食べる分ではない、これは売り物、つまりウチの商品だ。
「大きな取引先を手に入れたんだもの、初日から遅刻しちゃまずいでしょ。急いでるのよ」
「じゃあ寝坊しないで下さいよ……」
「うっさいわね。口じゃなくて手を動かすのよ」
先に喋ったのそっちじゃん……と俺は心の中でぼやきつつ、弁当箱に大きな竜田揚げを詰めていく。
ちなみに弁当の仕込みから調理、盛り込みのほとんどを俺がやっている。それもまぁ、下僕だからしょうがないんだけども。
こんな仕打ちは序の口。魔界に来て数カ月、一番身に染みている教訓はこれだ。
下僕の労働は、理不尽の連続。
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