最果ての輪廻~勇者と魔王の物語~
水城しゅう
第1話 序章
「どうして...こうなったんだ...」
勇者は血だらけの魔王に剣を向ける。たどり着いた時にはすでに他の勇者は死に、魔王は瀕死の状態にあった。
「なんでだろうね...でもあなたが勇者になった時、こうなることは予想できていたわ」
魔王は微かに笑みを浮かべ勇者を見つめる。
「俺はお前を殺すために勇者になった訳じゃない。みんなを守りたくて....それに...お前のことだって...」
お前だけは必ず守るって約束したのに、どうして。
「この世界にもう未来なんてない。子供たちを奴隷にして売り、貴族たちがなぶり殺す。そんな世界に未来なんてあると思う?」
魔王は立ち上がり勇者に言葉を投げかける。
確かにそうだ。この世界に未来なんてないだろう。貴族どもは平民をゴミのように扱い、平民に人権なんてない。
「それでも俺たちで変えていこうって約束したじゃないか!」
そう、俺たちに勇者になって、この世界を変えようと一緒に目指して"いた"
魔王の笑みは消え、その顔は直視できないほどに酷く歪んでいた。
「無理だよ。"正義"ではこの世界は直せないよ。気づいたの、正義には世界を救うのに足りないものがあるんだって。...それはね、"恐怖"だよ。だから私は恐怖と力でこの世界を一度滅ぼそうって決めたの。1からやり直そうって。」
勇者は唇を噛みしめた。手に持つ剣が震えている。
「ねぇ、勇者、最後に一つわがままいいかな、それで...その剣で私を殺して?勇者の遺物じゃないと私は傷つけられない。」
魔王は武器を捨て勇者に近づく。歩く度に地面に血が流れ落ちる。
「そんな事...そんな事出来るわけが!」
「勇者が魔王を殺して世界が平和になる、それがあなたの仕事よ」
「でもっ!俺は!」
「あなたが私を殺さなければ、私は世界を滅ぼすわ、それでもいいの?」
勇者は血が滲むほどに唇を噛み締め、剣を振り上げる。
「...ムリだよ、俺にはお前を殺せない。」
が、勇者は剣をゆっくりとおろし、
魔王に笑いかけた。魔王は呆れたような顔をしながら微笑む。
「はぁ全く、これじゃあ、わた...し...」
ドスッ
勇者の剣が突如魔王に向かって突き刺さる。剣は魔王の心臓を無慈悲に貫く。
「なんだよこれ...どうして...まさか!!」
勇者の遺物には自立魔法がかかっており、常に最善の攻撃パターンに強制的に変更する能力がある。
勇者は魔王に刺さった剣を抜き、魔王を抱き上げる。
「おい、しっかりしろ!」
勇者は魔王を抱き上げると魔王は勇者の頬に手を当てる。
「ごめんね、最後に辛い事をさせちゃったね...お願いがあるの...私の...名前を呼んで?」
「なにいってるんだ!まだ手当てすれば間に合う!」
勇者はヒール魔法を発動する。しかし魔王の傷はあまりにも深かった。
「もう無理よ...だから...お願い...」
勇者は魔王の手を握る。
「...ラミア」
魔王は笑っていた。
"ありがとう...私ね、ずっと前から...あなたの...こと...が"
すると魔王の体から力が抜けていった。
「おい、ラミア!ラミア!なんでだよ...どうして...」
どうしてこいつが死ななきゃならないんだ。どうしてこいつが魔王になったんだ。
「世界が汚れていなければ...こいつは死なずに済んだ。俺が勇者になんてならなければ...」
勇者は魔王をそっと抱える。
「ラミア、今度は救って見せるよ。そして次は...」
"こんな世界...滅ぼしてやる"
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