神様の人生

最近は痛風気味

第1話 神様の人生

 或る年の11月末日。この頃になると街にはクリスマスの電飾が点灯され、子供たちもそわそわし出す。12月25日に何が貰えるかばかり考えて気が気でない。或る子供はゲームのソフト、またの子は戦闘もののプラモデル、サッカーボールなど様々な願いを込めていい子にして待っている。

 となると、サンタクロースは大忙し。世界中の子供達にプレゼントを用意して配って廻らなければならない。プレゼントの種類、個数は半端でない。この時期は彼にとって正直結構しんどい。実を言うとサンタクロースは世界を見守る神様である、という事実がそれとなく人々に知れ渡っていた。

 普段は世界中を見渡して行いの良い者を救い、悪い者には不幸を与えている。なので、世界中を俯瞰してたまにそう言う事をすればいいと言うのが一年の大半を占めている。比較的楽と言えば楽である。

 ところがこの時期だけは違う。クリスマス迄という期限付き、更にその日中に配り終えなければいけない条件付きだ。たまに「クリスマスなんて無ければ」なんて事も脳裏に浮かんだりもするとかしないとか。

 ついに12月25日に日付が変わった。サンタクロースはこの日をいち早く迎える島の子供たちからプレゼントを配り始めた。地球の西へ西へと、地球の自転する方向に沿ってプレゼントを配っていく。

 順調に世界中の子供たちにプレゼントを配っていった。しかし、最後の一人というところでプレゼントが無くなってしまった。万全を期した筈なのにあと一つがない。更に時間は12月26日になる10分前である。

 サンタクロースにも意地がある。毎年12月25日中にプレゼントを配り終えないと意味がないと言う事も自負している。

 困った。さて、どうするかと暫く思案した。「そうだ、ひとつだけ願いを叶えてあげよう。そうすれば物では無いがプレゼントになる」

 そう決めた最後のプレゼントをあげる子供は、裕福な家庭の7歳の女の子だった。女の子はスヤスヤ眠っている。一応、枕元に赤い靴下が掛けられていた。サンタクロースはその少女に話し掛けた。

「お嬢ちゃん。起きておくれ」

そう耳元で囁くと、眼を擦って起きあがった。と同時にびっくりして布団をひっくり返し返した。

「もしかして、サンタさん?」

「そうじゃよ。実はな、お嬢ちゃんにプレゼントをあげるつもりじゃったんだが、無くなってしまってな。それで代わりと言ってはなんだが、お嬢ちゃんの願いを一つ叶えてあげようと思うんじゃがどうかの?」

 眠そうな女の子は、それを聞いて一気に眠気が吹っ飛んだ。その女の子は裕福が故、単調な毎日がつまらなくて退屈だった。なので、サンタクロースにこう告げた。

「じゃあ、サンタさん。私と入れ替わってくれる?」

 サンタクロースは躊躇した。しかし、それに代わるプレゼントと時間が無い。仕方無しにその願いを受け入れる事にした。

「い、いいじゃろう」

 そう言って少女の服と今着ているサンタクロースの服を交換した。すると、互いの容姿が入れ替わった。

「わぁ、凄いわ」

その少女は世界を見守る神様となり、方や「元サンタクロース」は少女の人生を歩む事になった。


 翌年の12月25日、普段の神様の役目もそこそこに、結構楽な日々を過ごしていた少女にクリスマスのプレゼントを配る日がやってきた。一応プレゼントは用意してある。後は配るだけ、と高を括っていた。

 いざ、0時になると日の代わるのが一番早い島の子供たちのプレゼントを配り始めた。これは順当なメソッドである。西へ、西へとプレゼントを配って行く。あれよあれよと順調に配っていった。

やがて最後の一つ、「元サンタクロース」つまり一年前の自分の家にプレゼントを配るのみとなった。が、配るプレゼントが無い!

「え、去年と同じじゃ無い?」

 入れ替わった少女の血の気が引いた。そこには去年入れ替わった「元神様」がスヤスヤと寝ている。枕元には赤い靴下がベッドに吊るしてある。

「ちょっと起きて」

そう耳元で囁くと、眼を擦って「元神様少女」が起き上がった。

「誰かと思ったら、お嬢ちゃんではないか。どうだ、仕事の方は」

「どうもこうも無いわ。面倒くさくて仕方がないわよ」

「でも、自分が言った願い事じゃろ?」

「そうだけど。だけど入れ替わって!クリスマスプレゼントを配るのがこんなに大変とは思わなかったわ」

「嫌じゃよ。今の暮らしは何不自由無い。美味しい食べ物、沢山の友達、フカフカのベッド。言う事無しじゃ」

「私、こんなのがずーっと続くと思うと耐えられない。だからお願い。入れ替わって!」

「嫌じゃ。10年経ったら考えてやろう。プレゼントは無くて良いぞ」

そう告げると布団を被って寝てしまった。

「少女サンタクロース」は渋々天界へ戻って行った。


 やがて10年目の12月25日を迎えた。「少女サンタクロース」もプレゼント配りの要領は得たものの、毎年頭を痛めヘトヘトになっていた。

恒例のプレゼント配りが始まった。「少女サンタクロース」は10年前の約束を果たして貰うべく、ハイピッチで世界中の子供たちにプレゼントを配る。しかし、早く入れ替わって貰おうと思ったものの、「元神様」はもう17歳の乙女になっている。 そんな年頃ではサンタクロースのプレゼント云々など思ってもいない。

 プレゼントを全て配り終えると、元の自分の家で眠る、17歳になった「乙女」の耳元で囁いた。

「ちょっと起きて」

大人になった「乙女」は眼を擦って起きあがった。

「ああ、お嬢ちゃんか。そう言えば今日は12月25日じゃったな」

「あれから10年経ったわ。いい加減、入れ替わってよ」

「嫌じゃよ。今日結婚したんじゃ」

ベッドをよく見ると、素敵な青年がスヤスヤ寝ている。

「幸せな暮らしをしているのを投げ出すなんて考えられんじゃろう」

そう言うと、少女サンタクロースは肩を落として天界へ戻って行こうとした。その時閃いた。

「そうだわ!違う子に入れ替わりを提案すれば良いんだわ」


 早速、提案を受け入れてくれそうな子供を探した。とある少年にこの事を伝えた。

 すると、少年は快諾した。「少女サンタクロース」はその少年の人生を歩むことになった。だが貧困が続き、ちっとも幸せな人生を送れなかった。

神様になった少年は、しっかり責務を果たし続け、良き神様として君臨し続けた。

 あなたの人生もいつぞやのサンタクロースの入れ替わりかも知れませんね。

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