ひみつきち

星 響生

ひみつきち

 暑い夏の日、ふとあの場所を通りかかった時にそれを見て思い出した。


じん、あんま遠く行くなよ。」

「おう、留守番頼んだ。」

 それは俺と幼なじみのせんと一緒に過ごした日々のことだ。小学生の頃、俺達はただの空き地の原っぱの隅に''ひみつきち''を作って、暇さえあればそこで過ごしていた。

 空き地には数本だけ木がたっていて、そのうち二本は空き地の隅にたっている。その木の後ろに隠れるようにして作ったのが俺達の''ひみつきち''だ。その中には、家には置けない漫画、買ってきたばかりのお菓子、道端で拾ってきた珍しそうなもの、とか、どこの秘密基地にもありそうなものばかりがあった。でも、俺たちにとっては特別な場所だった。

 何か悩みができるとそこに行っていた。また特になんでもないけど退屈になるとそこに行っていた。そしてそこには、当たり前のようにいつも俺か閃のどちらかがいて、しばらくすれば2人が揃うのであった。不思議な場所だった。心が落ち着いて、でもどこかわくわくして、なんでも出来そうな気がして。俺と閃は最強だと思った。今となっては、ばかばかしいけど。


 時が経って、俺と閃は別々の中学に通うことになった。小学校を卒業してから俺も閃も''ひみつきち''に行くことはなくなった。というより、行く暇もなくなった。閃は親の事情で、少ししてから引っ越してこの街を出た。今もあの場所は残っているけど、それを見られるのは俺だけだ。

 下に敷いたいつかの遠足用のレジャーシートは、土がかかってぼろぼろになっている。二本の木の間に立てた衝立用の、図工の余りのダンボールも長い間雨に濡れてしおれている。あのころの面影はほとんど残っていなかった。


 でも時々、この空き地を通りかかる度に思い出す。あいつの声、顔、匂い。そしてあいつと過ごした日々。それらを懐かしく思い出す度に、また前を向ける気がした。ただ楽しいことに夢中になる。初めはそんな姿が幼いように見えたが、今はそれが素敵なことだと思うようにもなった。


 今あいつは、どこで何をしているんだろう。そんなことを考えてながら家に帰った、20年目の夏の日のことであった。

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