第4話 敵襲だって叫んだら大体死ぬよな

 爆発と地響き。この組み合わせは鉱夫にとっちゃ最低最悪のものだ。どっかのバカが何かやべえものを掘り当ててぶっ壊したに違いねえ、くそったれ。

 急いで坑道を出ねえと岩盤が崩れて下敷きになって死ぬか出口が塞がって窒息死するか、とにかく死ぬ以外の未来がない。俺はどれも御免だ。

 大慌てで俺は坑道を走った。そこそこ掘り進めてあったせいで出口が遠い。しかも道まで間違えたさっきのところは右だバカ!!

 自分の記憶力の無能さにイラつきながらも走り続ける。その間も爆発と地響きが止まらない。一体、何を掘り当てたらこんなことになりやがる。


 幸いにも爆発元は俺のいた坑道じゃなかったらしい。でなけりゃもう死んでる。出られなかったら同じだがな!

 出口に近づくにつれて鉱夫どもの悲鳴まで聞こえてきやがった。やたら逃げろ逃げろとうるせえ。一体どこに逃がそうとしてるのかしらねえが、相当やばいことになってるらしい。見たくねえ。


 なんとか俺は出口にたどり着いて坑道から抜けだすことに成功した。シャバの空気がこんなにもありがたく思ったのは久しぶりだ、って妙に煙てえな。

 バカがガスでも掘り当てたのかと思って俺は慌てて口と鼻を塞ぐ。だが僅かに感じたこの匂いはかなり嗅ぎなれたものだった。硝煙だ。


 俺の視界で上から下に落ちていくものがあった。それは道に落ちると同時に炸裂。爆炎と衝撃波を発して周囲を吹き飛ばした。

 どう見ても擲弾じゃねえか!! なんだってこんなしみったれた鉱山が襲われてんだ、新手の処刑か!?


 どうやらかなりバカスカ撃ってきてるらしく、盆地のあちこちにすり鉢状の凹みができていやがった。しかも監視員どもの監視塔も崩落して黒煙があがっていた。ラッキーだ。今のうちに逃げ出すしかねえ。そもそもこんなところにいたら巻き込まれて死んじまう!

 急いで周囲を見渡すがやっぱり上に登る道は外壁の回廊しかねえ。こんな襲撃を受けてるんじゃ監視員どもに余裕なんざねえだろうし、爆煙がいい感じに見つけづらくしてくれそうだ。


 接近戦用のツルハシだけを持って俺は坂道を登り始めた。その間も擲弾が何発も放たれては轟音を撒き散らす。

 今のところ、こっちはバレてねえし擲弾が飛んでくることもねえが安全だなんて保証はねえ。全く、ここはいつから戦場になっちまったんだ。


「ぜぇ……ぜぇ……ひぃ……」


 くそ情けねえことに息が上がってる。連日連夜の鉱山労働に粗悪な寝床のおかげで体力がかなり目減りしちまっていた。


「脱走者だっ!! 逃がすなっ!!」

「だぁーっ! くそったれ!!」




 しかも監視員に見つかっちまった。脚をフルスロットルで動かして俺は疾走! ──したつもりだったが全く速度が上がってない。それどころか下がってきていた。心臓は破裂寸前。これ以上、出力を要求したらボイコットされそうだ。別名は心停止。

 くだらねえこと考えてる場合じゃねえよ!! 心臓にボイコットされなくたってこのままじゃ死にそうだ。


 俺は坂を駆け上がり続けた。監視員たちがいた方角を見ると擲弾で吹き飛んでいた。

 そう思ったのもつかの間、坂を登りきる直前で監視員どもが立ちふさがる。よーし、近接戦ならまだ何とかなりそうだが3人相手ってのはちょっと聞いてねえな何でこんなにいるんだ!!


「覚悟決めるしかねえな」


 気合の言葉を言った瞬間に目の前で爆発。飛び散る砂礫を腕で防いでから慌てて前方を確認。擲弾が3人を見事に吹き飛ばしてくれた。おいおいラッキーすぎるだろ。

 だがまだ爆煙の中から向かってくる人影があった。俺はそいつに向かってツルハシを思いっきり振り下ろす。めちゃくちゃ硬い金属にぶち当たった感触が腕を伝わる。鉱石掘り当てたときと同じだなおい。

 ツルハシの先を見ると金属製で筒状の何か。構えていたのは帽子被ったクソガキだった。俺の目が驚愕で見開く。


「ユラ!? てめえこんなところで何してんだ!?」

「それはこっちのセリフですよアルベルトさん!」


 怒った顔をしてユラは金属筒──ようは擲弾砲──に弾丸を詰め込んで発射。耳を劈く激音がしたのちに遠方で爆撃が発生。

 原因はこいつだったらしい。なんでこいつがテロリストのモノマネしてんだ?


「アルベルトさんを助けにきたんですよ! またバカなことして捕まったって聞いたから!」


 ぼけっとしてた俺に向かって怒鳴り散らすユラ。

 俺は盆地を見下ろした。至るところから爆煙があがり宿舎では火災。爆発に巻き込まれた負傷者が大勢いるどころか無傷なやつが見つからない。

 鉱夫を監視していたやつらもそこら中でぶっ倒れていやがる。監視塔も完全に崩壊。

 散々に爆撃を食らった採掘所はそれはもうめちゃくちゃなことになっていた。


 ……助けに来たんじゃなくて戦争を吹っかけに来たの間違いなんじゃねえか? 盆地を更地にしにきたのかこいつ。


 それ以上に不思議なのはそれをやったのがこいつだってことだった。俺の脳裏に巨大な疑問が浮かび上がる。

 例えばこれをやったのが俺なら誰も文句はねえ、そうだろ?

 けどこのクソガキはバカとアホが悪魔合体したようなお人好しだ。裏通りで死にかけていた俺を無償で助け、その後の飯代を奢り、連れ回すようになってからというもの誰彼かまわず治癒能力で治しまくるようなやつだ。


 そんな、バカな博愛主義が人型になったようなやつがこんなことするか? もしかしてよく似た別人なんじゃねえか?

 だがそんな人型博愛主義者は俺のちょっとした怪我を今も能力で治している。相変わらず魔力が感じられねえから本物に違いねえ。

 めんどくせえから聞くことにした。


「お前いいのか? こんなことしたら死人だらけになるぞ」

「死人はだしませんよ、アルベルトさんじゃあるまいし」


 まっとうな答えが返ってきた。まさにクソガキの答えだ。


「アルベルトさんはこれ持って先に逃げていてください。僕は負傷者を治してきます」

「は?」


 口が開いたままの俺にユラは魔石を押し付けて走り出していった。

 え、なに──どういうことだ?

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