第3話 そういうわけで冒頭に戻る
俺は鉱山のくそかてえ岩壁にツルハシを叩きつけながら考えた。なんでこうなっていやがる。
“それはぁ、マスターがとちったからですよぉ”
「ちげえ。俺は何もとちってねえって言ってんだろ」
花に返事をしてはっとなる。今のはマジの幻聴だ。
魔導書は今、手元にはない。前に牢屋に叩き込まれたときは手元にはなくても近くにはあったから会話可能だったが、今はあいつらと喋れねえぐらい遠くにある。
魔導書と俺は魔力で繋がっているおかげで大まかな位置はわかるんだが、とても取りにいけるような距離じゃなかった。召喚できるやつらも4号以外は移動に難があるし。途中で誰かに見つかっても面倒。さらに俺から呼びかけることもできないからそもそも呼べない。
これは結構、マジで詰んでるぜ。
あ? なんで鉱山で鉱夫やってるかって?
言わなくてもわかるだろ。いちいち聞くんじゃねえ。
とにかく俺様最大級のピンチってやつだ。前にバルチャーって本物の殺し屋に追われたことがあったが、あのとき並みに窮地に陥っている。
何せこの俺が何一つとして手立てが思いつかねえ。この俺がだぞ、信じられるか?
もちろんここに放り込まれてただひたすらに仕事してたってわけじゃねえ。ちゃんと情報収集はしてある。
まずここは鉱山のくせに完全な盆地になっていやがる。俺たち奴隷の住居はその盆地の中。坂道が岩壁の外周をぐるぐると回るようにあって上に出られるようになってる。この地形が厄介で、上に出るまでに相当な距離を走らなきゃならねえし、逃げようとするのが上からは丸見えだ。
次に見張りの数。道中には必要ねえとみて上からこっちを見張ってやがる。人数は十数人。円形に均等に配置だ。
こっちが持ってる道具は採掘用のツルハシと運搬用の手押し車。あとは自分たちの拳ぐれえだ。逃げようとすれば360度から魔法を撃たれて晴れてあの世に転職だ。
鉱夫の数はそれなりにいるから登りきって接近戦ができればツルハシでも何とかならなくもねえだろう。だがとにかく地形が鬱陶しいにもほどがある。囮が用意できるほどには鉱夫の数が足りねえ。
一か八か、夜に抜け出して岩壁登るって手もなくはないんだが……まあ博打だな。
ツルハシで道作って脱出って手もある。爺になってもいいんならだが。
そういうわけで確実な手ってやつが見当たらない。超運が良くて坑道掘ってる間になんか洞窟とかにぶち当たってくれれば逃げ出せるが、そううまくはいかねえだろうな。うーん。
「だぁー、ちくしょう!」
むかついてツルハシを思いっきり振り下ろしたら反動でひっくり返って頭を打った。いてえ。
それもこれもあの領主のやつが娘を差し出そうとしたのが悪いんだ。礼儀正しくノックして部屋に入って礼儀正しく服を脱いで礼儀正しく服を脱がそうとしたら叫びやがって。
そしたら領主の野郎、自分から差し出した癖に「娘に何をする!」とか言い出しやがって。どうなってやがるんだ全く。
“領主は娘を差し出したわけじゃないと思うけど。”
今度は1号の幻聴が聞こえてきた。幻聴だから無視だ無視。
とにかく何とかしねえといけねえ。
そう考えていたときに外から爆音が聞こえて地響き。なんだ?
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