第5話 起死回生

 作戦はこうだ。突っ込んであいつを殺す。俺も死にかけるだろうがそれはユラが治す。以上だ。


「それは作戦とは呼べんぞ!」


 4号の抗議は無視。実際、他に打てる手がない。どれだけ俺の召喚物が優秀だろうがそんなものは技術で勝る相手なら乗り越えてくる。そんな敵に勝つにはもう一気に突っ込むしかない。


「覚悟決めろよ一蓮托生だ!!」

「相変わらず無茶をする……!」


 呆れながら4号が攻撃態勢。銀球体の表面にいくつもの光点。そこから光線が直進してバルチャーを狙う。

 バルチャーが回避。袖や肩を光線が掠めて灼き切るがそれだけだ。

 それと同時に掲げていた腕が振るわれる。何をしてきたのかが分からない。


「マスター、足元だ!」


 4号が叫んで高速飛行。直前にいた場所から炎の柱が吹き上がる。輻射熱が俺の皮膚を焦がす。熱い!!

 炎柱は人間を丸呑みにできるぐらいでかい。あんなもの食らったら一瞬で火葬要らずになっちまう。

 やっぱりとっとと決めるしかねえな。


「突っ込めっ!!」

「おうとも!」


 4号が俺を乗せたまま突撃。バルチャーの片手が向けられて俺は覚悟を決める。業火がそこから放たれるがそのまま突っ込む!


「ぐぁあああっ!!」


 俺の全身が炎に包まれる。身体中に激痛。

 炎の勢いに押されて視界が上下左右に回転。硬いものに叩きつけられる痛みまで走る。俺は4号の上から弾き出されて地面を転がっていた。

 意識が飛びかけているところに轟音が聞こえた。4号がバルチャーの奴に激突した音だろう、多分。

 しかしそこで俺は限界だった。視界が真っ暗になり俺の意識は途絶えた。



§§§§



「……はっ!」


 目を覚ますと俺は洞窟らしき場所にいた。

 捕まりでもしたのかと思ったが、すぐにユラが飛び込んできたのでそうではないと分かった。


「いてえ!」


 勢い良すぎてユラの頭が俺の胸にめり込む。


「こら、何しやがる!」

「それはこっちの台詞ですっ!!」


 思いの外、でかい怒鳴り声が返ってきた。び、びっくりした。


「無理やり突っ込むなんて何考えてるんですか死んだらどうするんですかもう少し自分の命のことも考えたらどうですどれだけ心配したと思って……!!」

「わ、分かった、悪かったって!」


 怒涛の勢いで俺は怒鳴られていた。何でこんなにキレてんのか分からないが結構怖いのでとりあえず謝っとく。


「本当に……心配したんですから……」


 終いには鼻声にまでなっていた。お人好しのこいつは目の前で人が死にかけるのはどうやら嫌らしい。

 胸にしがみつかれて何だか気まずい俺は、何となくガキンチョの頭を撫でておいた。こうしとけば機嫌も直るだろ。


「あー悪かった悪かったって。でもお前が治したんだろ?」

「ええ、そりゃもう、必死に治しました。必死に」


 顔を上げたユラのジト目が俺を見る。かなり恨めしそうに。

 自分の身体を確認してみると火傷の痕は一箇所たりともなかった。それこそ炎の中に突っ込んだことがなくなったかのようだ。

 予想通りとはいえ、本当にここまで完全に治ってると驚くぜ。


「凄いな、お前。全部治ってるじゃねえか」

「……当たり前です。僕の取り柄ですから」


 そう言うユラはそっぽを向いていた。視線は泳ぐし顔も赤い。


「何だお前、照れてんのか。ガキらしいところもあるじゃねえか」

「て、照れてませんっ」


 がしがしと頭を撫でてやる。「わっ」と声をあげるが無抵抗。


「……で、ここはどこなんだ?」


 改めて自分がいる場所を見てみると……洞窟だ。それ以外の感想はない。4号が省魔力状態──要は小さくなって輝き、光源となっている。


「何とか人目を避けて街から出た後、すぐ近くに洞窟を見つけたので入ったんです。ここなら見つからずに治療できるかと思って」

「吾輩が運んだぞ」

「なるほど。バルチャーは?」

「吾輩の体当たりで壁ごと吹っ飛ばした。生きているかは分からん」


 まぁそうだろうな。そう簡単に殺せるとは俺も思っていない。

 ともかく4号とユラの説明で状況は分かった。俺は完治したしとりあえずバルチャーには追いつかれていない。上々だ。


「よぉし、よくやったぞお前ら。作戦は成功だ」

「あれのどこが作戦なんですか。もうやらないでくださいよ、ほんとに……」


 いつの間にかユラは4号と仲良くなってあれこれ喋っている。普段はこいつらの声は俺以外には聞こえないが、それはこいつらの意思で自由に切り替えられる。まぁ、俺を運ぶ都合で会話してたんだろう。


「さて、どうすっかな」


 問題はここからだった。何とかこのまま街から遠ざかりたい。


「それなんですが、僕に提案があります」

「何だよ」

「僕を、置いていってください」

「……は?」


 いきなりユラが訳の分からねえことを言い出した。

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