第5話 説得と脱出その1
「なぁ、いつまで泣いてんだ?」
1号の触手をクッション代わりにして休憩していた俺は、痺れを切らして女に声をかけてやった。返事はなく、代わりにすすり泣く音ばっかりが聞こえてきやがる。
ちょっと強姦しただけでこれだ。冒険者のわりには根性が足りてねえんじゃねえか?
女が身につけていた革製の防具は床に転がり、その下に着ていた服は腹の部分が破かれていた。丈の短いジーンズは無事で、腹がちょっと出てるだけで済んでる。別に破きたくて破ったわけじゃない。暴れるから破れちまったんだ。
「そろそろ、ここから出ようぜ。二人がかりで調べた方が効率的だぞ?」
返事はなし。死ぬまで泣いてんじゃないかってぐらいずっと泣いてる。馬鹿かよ。
協力は望めないようなので、一人で出口を探すことにした。といっても、2号に調べさせても4号に調べさせてもおかしな部分が見つかっていない。完全に封鎖された部屋らしい。となると、入ってきたのと同じように仕掛けか何かで出口が現れる類なのだろう。
2号も4号も物理的な調査はできても魔力感知が効かない。なので違うやつの出番だ。
「私ですね」
濁った女の声が響く。魔道書を開いて外に出してやる。俺の目の前に、俺の身長を優に超える大きさの巨大な一輪の花が現れた。毒々しい赤紫の花弁を六つ開き、中央から雄蕊を触手のように伸ばしている。緑色の葉と茎の下からはいくつもの巨大な蔓が蠢き、その巨体を無数の根が支えている。
こいつは花だ。いや、見りゃ分かるだろうがそうじゃなく、花って名前だ。本当は3号って付けるべきだったんだが、なんとなく花って呼んでる。
「そら、魔力のあるところを探しやがれ。って、花粉を飛ばすんじゃねえよ!」
「すいません。久しぶりに外に出られて、つい」
花冠の中心から黄色い粉を放出しやがった。手で追い払う。
こいつの花粉は吸引すると様々な異常を引き起こす。身体が痺れるだとか眠くなるだとか、体力や魔力を減少させるとか、とにかく色々だ。普段はこれを使って女の身体を動かなくさせるのがこいつの役目なんだが、魔力が餌なので魔力を感知することもできる。今回はその機能を使って出口を探してもらう。
探し始めるのを待つ。蔦や根の動きが止まり、花粉も収まる。中々、見つからない。
「……おい、まだか」
俺が声をかけても返事がない。それどころか様子がおかしい。花弁がしおれていく。
「おい、どうした!」
慌ててもう一度呼びかけると、弱々しい声が返ってきた。
「あの……その光、こっち向けないでください……」
俺が頭上を見ると、4号の光が花を映し出していた。そういえばこいつは光が苦手なんだった。
「悪かったよ。おい、光消してやれ」
「えー」
4号が不満そうな声をあげる。頭上の銀色の球体を指で突ついてやると、明かりが消えた。電球かよ。
明かりがなくなったせいで周囲を暗闇が覆うが、蔦や根の蠢く音が聞こえる。働く気になったらしい。
しばらく待っていると、仕掛けのある場所が見つかった。
「ここから美味しそうな匂いがします」
4号の明かりをつけると、花が壁際まで移動していた。蔓で壁を突ついていた。
「よくやった」
「はい……明かりやめてください……」
魔道書を開いて魔法陣を開く。花の巨大な全貌が小さな魔力の粒子と変化していき、魔法陣の中へと吸い込まれていく。
魔道書を腰のベルトに収納して壁際に移動。注意深く調べると、確かに俺にも魔力が感じ取れた。壁の中に魔力を流し込むと魔法陣が現れる。
あとはこいつを動かせば出口が現れるってわけだ。楽勝だな。
魔法陣を眺める。よく分からん。
「どうしたのだ、マスター」
4号が声をかけてくるが無視。もう一度、慎重に眺める。分からん。
「何ですかマスター。私が折角見つけたのに、解けないんですか?」
花が小馬鹿にしてくるが無視。やっぱり分からん。
「くそ、何だこれ。どうやったら動くんだ?」
適当に魔力を流したり魔法陣をいじってみるがうんともすんとも言わない。
別にこの仕掛けが高尚ってわけじゃない。俺が馬鹿なだけだ。つまり、俺からすれば高尚ともいえる。こんな冗談言ってる場合じゃねえ、マズイぞ。
「………………………………諦めた」
十秒ぐらい考えて、俺は考えるのをやめた。分からないものは分からない。
別にこれを動かさなければ出られないというわけでもない。壁か床か天井かをぶち抜いてやれば出られる。衝撃で遺跡が崩れるかもしれないが、生き残れるので問題ない。
「よし、むかついたから霧か6号でぶっ壊してやるぜ」
「待ちなさいよマスター。そんなことしたら報酬もらえないんじゃないの?」
1号から待ったがかかった。女を犯しにきたんじゃなく、金を稼ぎにきたってことを完全に忘れていた。
「じゃあ、どうすんだよ」
「知らないわよ」
その場で座り、方針を検討し始める。
「さっきの穴は?」「塞がってて使えねえ」「壁をゆっくり削るのはどうじゃ?」「年単位でやりたいなら好きにしろ」「ここに永住もいいですね、暗いですし」「ふざけんな」「そろそろ疲れてきたのだが」「我慢しろ、明かりがなくなるのは困る」「俺様が壁や床を食えば」「ダメだってさっき1号が言っただろ」「お外に出たーい」「俺も出てえよ」「分かんないわね」「分からんのじゃ」「永住」「吾輩は暗いのは嫌だ」「ここの石は美味いのか?」「出たーい」
結論出ず。そもそもこいつらと話し合って何かしようってのが間違ってる。
「もうちょっとマシな意見はないのか、お前ら」
「ならマスターが考えなさいよ」「そうじゃそうじゃ、文句言いおって」「私働きました」「吾輩も働いているぞ」「そもそもマスターのせいでこんなことに」「お外ー!!」
「うるせえ!!」
文句を言ったら六倍になって返ってきた。やめだやめ、馬鹿馬鹿しい。
といっても、こいつらの言うとおり俺も何も思い浮かばなかった。やっぱり遺跡を破壊して脱出するしかなさそうだ。
「そういえば、さっきの子に聞いてみるのはどう?」
1号が言う。そこで俺に閃き。
「あいつに仕掛けを動かしてもらえばいいのか」
遺跡潜りのあの女なら、この仕掛けを動かせるかもしれない。脳内で「おー」という賞賛の声が響く。
早速、俺は女の元に駆け寄った。すすり泣く声が消えていた。
「なぁ……」
「死ねぇ!!」
俺が声をかけようとすると、女は腰にあったナイフを引き抜き、俺にむけて突き出してきた。
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