第209話 おかえり、そして、いってらっしゃい
伊達家が越後入りし、えろ女としっぽり混浴?した挙げ句、希美がカミングアウトしてしまった怒濤の一日が過ぎた。
そして、翌日の朝を迎える。
この日は、芦名止々斎がやって来る日でもある。伊達家との事もあり、春日山城内は、朝から皆が忙しそうに立ち働いていた。
希美はバタバタと駆け回る侍達の中を、執務室に向かってさくさくと歩いていく。
廊下を行く侍達が、すれ違い通信の如く、続々と希美に声をかけてくる。
「殿、えろ良う御座いますにゃあ」
「うむ。えろ良う!」
「殿、えろ良う御座る。伊達家の笑窪の方様より、『昨夜の出来事をKwsk(詳しく)!』という言伝てが……」
「えろ良う。Kwsk(詳しく)は、紫に説明させよう。紫に伝言頼むわ」
「殿、えろ良う御座います。本日のお召し物は、鎖ではないので?」
「期待すんのやめろ。私の普段着は、全裸鎖じゃない!」
「殿、えろ良う御座るにゃ!芦名様の受け入れ準備は整っておりますにゃ」
「サンキュー、ネッコ!過ごしやすいよう、芦名さん用石牢の掃除は徹底してな!」
「殿、ゆうべはお楽しみでしたにゃー」
「たたた楽しんでねえわっ(動揺)」
とりあえず、猫が増えている。
絶対、あの人直江さんが元凶なのは間違いない。
だが、朝からいちいち突っ込んで精神力を消耗したくない、と希美はスルーしまくっていた。
昨日は、BLと痴女でお腹いっぱいだった。
今日は今日とて、芦名止々斎ドMと伊達晴宗女性下着愛好家の板挟み予定。
毎日毎日、どうしてこうも変態ライフなのか。
希美は、心の中で自問自答する。
(私は、武将として戦国時代に逆行転生したんだよね?普通は、近隣の戦国武将とごりっごりのハードボイルドライフとか、知識チートで内政ライフとかじゃないの?)
そんなまともな逆行転生など、許さない。
希美は、謎の大いなる意思を感じた気がして、立ち止まってふるふると頭を振った。
その時、廊下の曲がり角で何やら怪しい動きをしている男達が見えた。
そっと近付いてみる。
いかつい男が猿顔の男に顔を寄せ、話しかけている。
「……ブツは用意できたか?」
「ここに。望みは、白、で御座いましたな?」
猿顔の懐から、白いものがちらと見えた。
「左様。よく見せてくれ」
相手にねだられ、猿顔の男は懐から出したものを、いかつい男の手に握らせた。
猿顔が、にちゃりと笑う。
「とくと、ご覧あれ。混ぜ物無しの、最高品質で御座いますぞ」
「……見事。これは対価じゃ」
「確かに。今後の付き合いを願って、今回だけ特別に、こちらもつけまする。尻に使いなされ」
「……!恩に着る。今後もお主を贔屓にしよう」
希美は声を放った。
「何をしておる!!」
弾かれたようにこちらを見る武士二人。
驚く猿顔は、会露柴秀吉。そして、いかつい男は、上杉家最強と謳われる、柿崎景家。
景家は、真っ白な猫耳と猫尻尾を手に持ち、固まっている。
秀吉は、声をかけたのが希美とわかるなり、にぱっと破顔した。
「社長!ご無沙汰しておりますぎゃっ」
「おお、藤吉。こちらに戻ってきたか。で、お前こんな所で何してんだ」
「へえ。実は昨日殿にご挨拶に伺ったのですが、お取り込み中だとの事で会えなかったのですぎゃ。その時に、ご同僚の方に猫耳を自慢している直江様にお会いしましてね。これは商いの好機と、殿にご挨拶がてら、朝から売りさばいておりますぎゃ」
「ご挨拶がてら、じゃねえよ!春日山城が猫だらけになりつつあるじゃねえか!助長すんなよ……」
秀吉は首をすくめた。
「そうは言いましても、最早猫耳が広まるのは時間の問題だったかと。京の流行りがわしから買えると聞きつけて、宣伝せずとも皆様こぞってお買い求めになられておりますぞ?」
「マジか……」
頭を抱える希美に、早速耳を装着した柿崎景家(猫)が言う。
「大殿、この猫耳は最高にゃ!これを身につければ、わし等のような田舎武者も雅になれるにゃ。それに、この気持ちの高ぶりよ!今なら、武田の騎馬隊など蹴散らして、信玄めの首を簡単に取れそうにゃあっ!!」
しゃあーーっといきり立つ景家を、希美は諌める。
「こらっ。信玄は私の同盟相手だから、首を取ったらダメだぞ」
「にゃにっ」
残念そうな景家に、希美は尋ねた。
「ところで、ケンさんはどこにいる?」
「殿にゃら、毘沙門堂に籠って、朝のお勤めをされておりますにゃ」
「ああ。なら終わり次第、伊達さんの所に来させてくれない?私も少し仕事してから、伊達さんの所に顔を出すから」
「にゃにゃっ」
景家は、尻に装備した尻尾を揺らしながら、のしのしと去っていった。
希美は秀吉に向き直る。
「すまんな。知っておろうが、今芦名を迎えるのにバタバタしてるんだ。報告は執務室で聞こう」
「へえっ」
二人は、連れ立って執務室に向かう事になった。
希美は執務室で、机(デスク)の上に積まれた報告書に目を通しながら、秀吉の報告も聞いていく。
「というわけで、島津様は、薩摩芋の逆輸入の話にいたく興味を示され、『今後とも末永く良い取引を』と社長に書状を預かっておりますぎゃ」
「ふむ……。確かに書状を見る限り、好感触のようだな。正直、越後は寒いから、じゃが芋ならともかく薩摩芋が育ちにくい。薩摩で薩摩芋を大量に作らせて、輸入した方が効率が良いからな。火山灰も、ほぼただ同然の値で仕入れられるし、こちらも末永く島津殿とは良い関係を続けていきたいものよ。そういえば、薩摩にえろの使徒はいたか?」
「何名か確認しましたぎゃ。薩摩芋の畑を作りながら、布教をしておりましたぎゃ」
「もう、そんな所にまで行ってたのか……。奴ら、どこまで足を伸ばす気なんだ……」
えろ使徒が既に薩摩で活動している事に、希美はなんとも言えぬ気持ちでため息を吐いた。
正直彼らの努力と行動力は凄い。称賛に値するが、彼らはボランティアだけでなく、えろまで広めるのだ。
日本がえろ色に染まりつつあるのを、希美はひしひしと感じていた。
だが、秀吉は思いもかけぬ事を口にした。
「わしの聞いた話では、『琉球』という島国に、薩摩芋作りとえろの教えを伝えたえろ使徒がおるんだそうで。どうも向こうの大名に受け入れられて、暮らしているらしいですぎゃ。それから、海を渡って、『まかお』なる地に向かった者もおるとか」
「うおおいっ!!既に、海外に羽ばたいとるやんけ!?」
えろは、知らぬ間に海外進出を果たしていた。
混乱した気持ちをなんとか切り替えた希美は、秀吉の次の出張先をそっと『琉球王国』に決めた
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