第195話 三好さんを救え!
『まぞ猪(ぶた)』が巣に帰り、希美は畠山義続のあれやこれやを無かった事にして、尾山御坊を出発した。
お供は、河村久五郎と斎藤龍興、明智光秀、そして太田牛一である。
今回の葬儀出席は三好家が織田の下についたという事を三好一族に公に知らしめるパフォーマンスも兼ねている。だから、手勢や荷役、小者達を含めると、二百ほどにはなっている。
それに加えて、SPの如く希美達一行を警護しながらついてくる、あからさまな忍者達が希美の視界の端をちらちらする。
(昼間から黒装束やめろ!!逆に目立ってんじゃねえか。忍べよ!)
『忍ぶ者』とは、一体……。
ちなみに、上杉輝虎は越後へ向かわせたので、供の中には入っていない。
希美の養女となった彦姫の婚礼が迫っているので、多忙な希美の代わりに輝虎に仕度の最終確認と伊達・芦名両家からの応対を頼んだのだ。
さて、北陸道を南下した希美達は、信長からの指示通りに近江は観音寺城で織田の本隊と落ち合った。
さらに、越中からの森可成等三百が合流。
そうして、主だった家臣等とその配下達を引き連れた織田信長一行は、三千名という団体様で、悠々と三好家の居城である芥川山城に入ったのである。
「殿、三好家当主三好筑前守義興の葬儀に参加いただきかたじけのう御座る。こちらが次代となる盛興が嫡男、左京大夫義資(よしすけ)に御座る。まだ幼子ゆえ、某と弟の安宅摂津守が補佐役をつかまつる」
「さきょうのだいぶよしすけにござる。おださまに、ちゅうぎをつくします!」
三好長慶が信長を『殿』と呼んで次代の当主を発表し、次代も織田の下につく発言をした事に、葬儀会場にうち揃った一族郎党の者達は、どよめいた。
しかも、次代は三才ほどの幼児である。
一門衆や重臣の上の者達で話し合い、既に決められていた事とはいえ、まだ知らぬ者達にとっては、青天の霹靂であった。
さらにこちらも爆弾を投下する。
「うむ、励め!そうじゃ、わしの娘にちょうど同じ頃の者がおる。『五徳』と申すのじゃが、左京大夫殿の嫁にどうじゃ?」
「これは、有り難き話。是非お受け致したい」
「決まった!では、わし等は縁戚。左京大夫殿は大事な婿殿じゃ。左京大夫殿に弓引く者は、わしが全勢力をもってすり潰してくれるわ!のう、お前達!」
「「「「「応!!!」」」」」
一騎当千百戦錬磨や織田の武将達が、揃い踏みである。その配下達三千は、お客様として芥川山城にご滞在中。
いつでも中から攻撃可能です。
そんな状況の中、強面達が半ば脅すように、大音声で呼応したのだ。
勢いも覇気もある織田に、三好家の者達は呑まれている。
本来ならこのような無理な嗣子決定など、家中が割れかねない。
だが、今最も勢いのある織田が三好家の上に立つ事になり、さらに義資のバックについた。
不満や反感を持つ者もあったが、『何も言えねえ』状態。
希美は、全裸鎖姿で三好一族を眺めつつ、京の都で松永久秀に計画を明かした時の事を思い返していた。
時を巻き戻す。
京の本能寺にて信長の『弾正忠』叙任を待っていた頃、松永久秀がやって来た。
久秀は、渋面で開口一番に言った。
「殿(義興)が、随分お悪いので御座る」
「そうか。史実では八月の終わり頃だったからな。そろそろだろうな」
「殿がお亡くなりになれば、三好は嗣子の決定で割れましょう。三好家はどうなるのか……」
『みんな、死ぬよ?お前は爆死な!』
などとは流石に言えず、希美はそっと目線を外し、ため息を吐いた。
三好家は呪われている。
人が死にまくるのだ。希美も、大人の乙女ゲー『三好一族の淫棒』で、何度三好を滅亡させ、『嬲り者エンド』を迎えた事か。
既に長慶の兄弟は死にまくっており、義興もまもなく死ぬ。
長慶と弟の安宅冬康は来年予定。
三好三人衆なんて、既に一人希美が殺っちゃっている。
三好三人衆なんてものは、もう生まれない。
生まれても、二人組だ。ペアだ。いや、コンビでも可。
希美は来年死ぬ長慶を思った。
彼は、覗き魔の変態だが、いい人だ。希美が庇護すべきえろ教徒でもある。
病死なら、医者ではない希美には何ともしがたい。
だが、病次第では延命できないだろうか。安宅冬康は?
長慶が死ぬにしても、織田のものとなった三好家を、彼の死の混乱から救えないだろうか。
そのために、三好家の未来を明かして、協力を求めるべきか。
希美は、じっと久秀を見つめた。
久秀も希美を見つめ返した。
「おい、何故衣を脱ぐ!?」
「そういう雰囲気かと思いまして」
「違うわ、ど阿呆!!!」
希美は、しきり直した。
「正直、言うべきか迷ったが、私は決めた。呪われた三好家を、できるだけ幸せにしたい。そのために、お前は私に協力しろ」
久秀が目を見開いた。
「どういう事で御座るか」
希美は、告げた。
「三好長慶は、来年死ぬ。安宅冬康もだ」
久秀は、しばらく動かなかった。
だが、ようやっと口を開いた時には、既に覚悟を決めた目をしていた。
「どうすれば、運命(さだめ)を覆せましょうや」
まず希美は、長慶の病状について確認した。
久秀が答えられる
「曲直瀬先生から聞いているのは、酒毒、気鬱、飲水病と見られる症状も……」
「なるほど、それなら、生活改善で延命できるやもしれん」
「真で!?」
「病の進行度にもよるし、やってみないとわからないがな。修理大夫殿を私に預けてもらえればいいのだが……」
「なんとかしましょう。安宅様は……」
「修理大夫長慶殿が殺す事になるから、それを回避すれば生き延びられるはず。二人が争わず仲良くするのが前提だな。それより、次代は決まっているのか?」
「大殿の弟君で既に亡くなられた十河様のご嫡男が有力です。血筋から言うと、母君は前の関白九条様の娘なのです。九条家は近衛家に対抗している公家なので、三好家と縁戚になるために嫁がれたと聞いておりまする」
「……あー、それなら、まずいかも?わからないけど」
「如何致しました?」
「九条家が対抗してる近衛前久君とお友達になって、今彼をコミットしようとしてる」
「こみっと……。どんな『えろ』か気になりますな。今度私にもこみっとをお願いします。……何にせよ織田家のお師匠様と近衛家が繋がっているのなら、十河は無しですな。ならば、殿のお子を当主にして、補佐役で大殿と安宅様をつけましょう。大殿がしばらくおらぬでも安宅様に補佐役をお願いできる」
「だが三才だろ?家中の者が侮るのでは?」
「……」
「……」
「織田の殿に相談してみよう!」
「織田殿なら、何か思い付くでしょう!」
希美達は、結論を後回しにした。
「では、葬儀の時期はどうしましょうか」
「時がない。早い方がいい。修理大夫殿の死まで一年しかないんだ」
「では、三好一門に根回しをしておかねば!」
「私も殿に、協力してもらえるように、しばかれてくる!」
「どういう論理で御座るか、それ?」
その日、また信長のもとに面倒事を持ち込んだ希美は、激しくしばき回された。
こうして、死にやすい三好家を救う計画は、その後信長も交えた話し合いを経て、実行されたのである。
※後書き
三好長慶の死因は不明ですので、それらしいのを勝手に作っています。
気鬱は合っているかも。
本来は三好家は十河さんちの義継君が跡を注ぎますが、ここでは歴史改変ともろもろの事情により跡継ぎ変更しています。
信長の娘『五徳』ちゃんは、松平信康ではなく、三好義資に嫁ぐ模様。
史実では、今年(1563)の三月に信長が家康に嫁入りを約束するのですが、『知将』の世界線では、家康と無理に繋がりを強化しなくても問題ないほど家康が柴田勝家(希美)に傾倒しており、家康に頼らなくてもいいほど織田の戦力も増大しているので、嫁入りの話は出ていません。
とはいえ、家康には、尾張の反信長勢力(えろ教徒蔓延により史実より力無し)や今川さんを牽制してもらわなくてはいけないので、重要な同盟相手ではあります。
これで、五徳ちゃんの鬼女板顔負けのドロドロ嫁姑戦争も、日より見夫も、姑と夫のざまあエンドも、全て消えました。みんな、ハッピー。
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