第121話 六角さんと変態な仲間たち

京都の変態親父(松永久秀)から逃れた希美達一行は、美濃の変態親父(河村久五郎)を供に連れて南近江に入った。


隠れえろのもう一つの疎開先、南近江の戦国大名六角義治の元へ向かうためだった。




六角氏の居城である観音寺城は、繖きぬがさ山の山上に築かれた山城である。


六角氏といえば近江守護であり、一時期は近江一帯に一大勢力を築き上げた一族だ。しかし近年は、美濃斎藤氏や三好氏との戦が続き、浅井氏に反旗を翻された挙げ句に戦に破れるなど、その勢力に綻びが見え始めていた。特にこの浅井氏に破れた野良田の戦い以降、浅井氏対抗のための方向性の違いから、既に家督を譲られ当主となっている六角義治と、隠居しても実権を握っている六角承禎は、父子関係解散の危機にあったようだ。


そんなわけで、六角父子はその原因となった浅井氏を益々苦々しく思っているはずであった。






……そのはずなのだ。


だが、観音寺城で希美を出迎えたのは、六角義治と承禎父子、希美が隠れえろの避難要請のために派遣していた斎藤龍興、そして、




「おお、えろの大神よ。ふんどしを統べし超越者よ!輪廻の果てより受け継がれし魂の運命さだめが、やっとえろの大神様との繋がりを果たし、臣の魂と共鳴した我が肉体が、白き命の迸ほとばしりを抑えられず、思わず果て申したほどに、歓喜にうち震えており申す!」


「……何言ってんの、この人?」




近江の変態親父、浅井久政さんであった。




(なんで各地に変態親父が棲息しているんだろう)


やっと京都の変態親父を煙に巻いたと思ったら、今度は近江の変態親父がこんにちは、だ。


希美は、次々に変態親父に絡まれる自身の運命を呪ったが、身近な一番弟子がずっと変態親父だったのだ。今さらというものである。




何はともあれ、龍興以外は全員初対面。


希美は、久政の右目を覆うふんどしや、右袖の下から覗く右腕に巻かれた鎖を完全無視して、営業スマイルで丁寧に挨拶をした。


その後に、史実ではあり得ないこの顔ぶれについて、その心境をド直球にインタビューしたのだった。








『柴田勝家×近畿圏の戦国武将スペシャル対談☆ドキドキ!お互いの事、どう思ってるの?!』






【六角義治氏(18歳 男性 南近江在住)~今の自分があるのは『えろ』のおかげ~】




ーー浅井さんと斎藤さんが同席していますが、その事についてどう感じていらっしゃるんでしょうか?




義治「え?同志浅井殿と使徒えろ兵衛様をどう思っているかって?うーん、某も昔は尖ってましたからなあ。お二方には戦で煮え湯を飲まされ、父は隠居してる癖に某の策を頭から否定する。全てが憎く御座った……」




ーーならば遺恨がある、と?




義治「いや、それがえろ教と出会って、なんだか今まで気にしていた事が全て馬鹿馬鹿しく思えましてなあ。着衣人形に向こうていると、雑念払われ、穏やかな気持ちになれるので御座る。するとな、驚く事にいつの間にか美濃が織田領になり、彼女もでき、昔の敵は同じえろ教徒の仲間になっており申した」




ーーつまり、『えろ』が遺恨をなくしたのですかね?




「はい。全ては、えろ大明神様の御導きに御座る。えろえろ……」






【六角承禎氏(42歳 男性 南近江在住)~あんな風にわしもなりたい~】




ーー六角さんにとってここにいる浅井さんは、反逆した許せない相手なのでは?




承禎「ううむ。正直今の六角は、野良田での敗北以来家臣団の統制が危ういのだ。内を磐石にせねばならぬ。なればこそ、戦に巻き込まれるわけにはいかぬでな。浅井は朝倉だけでなく、昨今はえろ教の繋がりで織田と縁戚になっておる故、敵対するのは下策よの」




ーー以前、息子さんが斎藤さんと縁戚になるのをすごく反対してましたよね?斎藤さんがお嫌いなのでは?




承禎「……美濃斎藤か?あれについては、浅井対策で斎藤の姫をもらい、斎藤と組むという息子の考えには賛同できなんだ。斎藤と敵対した美濃の土岐氏とは同盟関係であるし、斎藤は織田や朝倉と敵対しておったから、縁戚になって巻き込まれるのは御免だったのよ」




ーーならば、何故今回、うちのえろ兵衛(斎藤龍興)と同席を?




承禎「心変わりの理由か。結局美濃は織田領で安定し、斎藤の姫は織田の養女として息子に嫁ぐ事になった。織田から発したえろ教の影響力の強さは無視できぬ。まあ、つまり、そういう事よ」




ーーなるほど。




承禎「……それに、浅井下野守。暗愚と思うておったが、実際会うてみたら、何やらその様、言葉に魂を揺さぶられる……。わしもあのように格好よき男になりたいものだ」




(ええ……)


近江に変態親父が増えそうです。






【浅井久政(37歳 男性 北近江在住)~解放されし右手が抑えられぬ!~】




ーー浅井さんはこれまで従ってきた六角さんに反逆しましたが、やはり近江の覇権を狙っているので?




久政「六角?近江の覇権?はっ、そのようなもの、この広大で底無きえろ世界から見れば、矮小な事で御座る。とはいえ、えろのためならこの臣の腹下に秘められし、命の源の満てる玉ぎょくの袋を絞り尽くして、近江を全て白濁の湖に沈めて見せましょうがの。はあぅっ!右手が疼くっ!こんな鎖ではわしの右手を抑えられぬ!おお、えろ大神様よ、御照覧あれ!臣の封印されし右手が解放され、臣の《ピー》が《ピー》《ピー》《ピー》……」


ドガッッ






希美「おーい!誰か鎖を持ってきてー!人ひとりの全身をぐるぐる巻きにできるやつ!!それからえろ兵衛は、木玉ぐつわも頼む!」




龍興「お師匠様、木玉ぐつわはこれに。それにしても、突き抜けた男ですなあ!某は『えろ二番弟子』などと呼ばれて慢心しておったのやもしれませぬ。浅井下野守殿。是非、友として切磋琢磨したい……えろえろ」




承禎「おお、浅井下野守。なんという尖った男か。わしも鎖を右手に巻こうかの……?」




義治「父上、今の新しきえろは、鎖で石牢に繋がれるのだそうですよ」




承禎「なんと!尖っておるのう!くうっ、格好よし!」




久政「ふごごっ!ふぐぐぎごへごごごがぎごっ!?ふごおお!!……こほぉ(これはっ!新しきえろの形か!?ぬおお!!……ふう)」




希美「なんで、ここには変態しかいないんだよ……」






希美は近江の行く末を思い、琵琶湖の湖底よりも深く嘆息した。


はたして、近江の明日は白く濁ってしまうのだろうか!?




カミングスーン!!

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