第68話 絶景(意味深)
「それで、わしよりも優先するこの小僧は誰なんだ?」
信玄は、ちろりと半兵衛を見た。半兵衛は信玄を睨んでいる。
希美は肩をすくめた。
「私が、私の城で誰と先に会おうが、私の勝手だろうに。まあいい。この男は、竹中半兵衛。私の片腕になる男だ」
(右腕が次兵衛。左腕が秀吉。あ、やべ!半兵衛は……千手観音スタイルでいくか)
希美は、腕をもう一本生やした。
希美は、半兵衛にも信玄を紹介する。
「半兵衛、この無礼な男は甲斐の信玄坊主だ。ああ、武田殿、挨拶がまだでしたな。私が柴田権六勝家だ」
信玄は目をすがめて、希美に抗議をした。
「おい!そういう呼び方は本人の前で止めろよ!気の強い小僧よ、わしは武田徳栄軒信玄だ」
「お主が坊主なのは間違ってないだろ。大体急にやって来て、他の客との会談に乱入するような自由人には、これで充分と存ずるがな」
希美もあごを上げて言い返した。
半兵衛は一瞬ギョッとしたが、感動した様子で希美を見ている。
「あの甲斐の虎よりも私を優先……柴田様!某は、某は……」
目が潤んでいる。希美は半兵衛の心酔を得たようだ。
「時に武田殿、何用で来られた?」
希美の問いに、信玄が答えた。
「噂のえろ神とやらを拝みに来たのよ。それに、甲斐の冬は厳しいからな。豊かな美濃でお主に世話になって過ごそうと思ってな」
「はあ?!なんで私が初対面で他国の武将を世話しないといけないんだ!帰れ!」
唾を飛ばしながら拒絶する希美に、信玄は懐から何やら取り出し、にやにやしながら顔の横でプラプラして見せた。
着衣人形である。
「供の者とえろ教に入信した。こちらには知り合いもいない。敵地で心細いんだよお。助けてくれ、神様!」
「ば、馬っ鹿じゃねえの?!」
「武田信玄がえろ教に?!」
驚く希美と半兵衛に信玄がとぼけた顔で脅しにかかった。
「いやあ、わし、ここを追い出されたら寂し過ぎるから、うちの軍勢呼び寄せて、みんなでこっちで冬越えしてしまうかもしれんな!わしの友が、よくそうやって北条さん家に厄介になってるんだ。わしも、一度やってみたいと思ってたんだよ」
「あほんだら!なら、お前も北条さん家に行けばいいだろ!うちに来るなよ!」
「お前、非道い奴だな。北条さんが可哀想だろ」
「私も、可哀想だわ!!」
武田信玄。希美はとんでもない男に目をつけられたようだ。完全に有名税の高額納税である。
(こいつ、無理に追い出せば難癖つけて、マジで美濃に侵攻してくるかもしれん。なんとか自分から出て行くようにしないと……)
希美の方針は決定した。
信玄を一旦受け入れて、嫌がらせをして追い出す作戦である。
希美は言った。
「ちっ、仕方なし。受け入れよう」
「よし、そうこなくてはな!」
信玄は嬉しそうだ。
「但し、お主等は他国の武将だ。私はこの地を治める者として、勝手な行動を許さん。ここにいる限り、監視もつけるし私の言葉にも従ってもらうぞ」
「わかった!」
信玄の返事に希美はほくそ笑んだ。そうと決まれば嫌がらせの準備である。
希美はそのために龍興を呼ぼうとして、はたと気付いた。
「そういえば、お主の応対にえろ兵衛をつけていたのだが、あやつはどうしたのだ?」
「えろ兵衛?ああ、斎藤の小倅の事か。あいつ、お主の居場所を喋らぬし、この部屋に着くまでに色々部屋を開けて探したからなあ。五月蝿かったから、す巻きにしてうちの家臣に預けた」
「お前、うちの弟子に何してくれてんだ!?国際問題で遺憾の意だ、この野郎!!」
希美は現代日本人の感覚で、最大限の抗議をした。
「とにかく、えろ兵衛を解放してここに連れてこい!」
はたして、えろ兵衛は解放された。
部屋には希美と半兵衛、解放された龍興の他に、武田主従が揃っている。
信玄が僧侶姿のためか、皆僧関係でコスチュームを合わせている。三十半ばの整った顔立ちの男は信玄と同じ僧侶姿だが、それ以外は皆龍興と同じ年ごろの少年で、稚児姿をしていた。
三十半ばの男は「高坂弾正」、稚児姿の少年達はそれぞれ、「金丸平八郎」「三枝勘解由」「曽根内匠助」「武藤喜兵衛」「甘利藤三」「長坂源五郎」と名乗った。
(そういえば、高坂弾正って信玄の愛人だったよね。やべえ!まあ、この時代の武士で男いけない奴の方が少ないんだが。まさか全員愛人のBLハーレム野郎なのか?いや、まさかな……)
希美は信玄に聞いた。
「供はこれだけか?」
「ああ。あまり大人数で動くと目立つしな。こいつら若いが、腕が立ち頭が切れるのを連れてきたんだ」
僧侶がこれだけの稚児を連れて旅行だ。何故目立たぬと思ったのか。
そもそも、いくら腕が立つといっても、少年ばかりのチョイスは有り得ない。
「なんで少年ばかりなんだ……」
希美の呟きに信玄が平然と答えた。
「せっかくの旅だ。楽しめる方がいいではないか」
こいつ、BLハーレム糞野郎だったわ。
完全に不倫旅行気分だな。
希美は確信した。
えろ兵衛にしばらく滞在する武田信玄御一行様の部屋と監視の用意を頼み、希美はすぐ森部城に使いを走らせた。嫌がらせ計画の協力者として、河村久五郎を呼んだのである。
久五郎はすぐに馬を走らせ、十九条城にやって来た。
「お前、その格好でここまで来たのか……」
希美の前には、ダブふん姿に一枚着物を引っかけた、変態露出おじさん姿の久五郎が立っていた。
久五郎は申し訳無さそうに言った。
「そろそろ寒くなりましたからな、着てしまい申した」
「いいんだ、むしろ着てくれ……と言いたい所だが、しばらくその姿でいてもらうぞ」
希美の言葉に、久五郎は嬉々として頷いたのだった。
「わし等にその格好で過ごせと?!」
信玄が素っ頓狂な声を上げた。
変態久五郎を伴って信玄等の部屋を訪れた希美は、ふんどし頭巾(未使用)を武田勢に渡し、えろ教徒として使徒体験を強要したのである。
「せっかく、えろ教徒になったのだ。ここにいる間は是非使徒としての生活を体験していただき、えろ教の理解を深めてもらおうかと思う」
(人前でこの格好は嫌だろう!嫌ならば出て行くがよい!)
しかし信玄は、楽しそうにダブふん姿に着替えた。
それを見て、渋々武田家家臣達もダブふん姿になる。
「これは、絶景かな!!」
家臣達のダブふん姿を見た信玄は、喜色満面だ。
「お屋形様も素敵で御座る。しかし、ちょと寒う御座るな」
ダブふん姿のどこが絶景で素敵なのか。
理解に苦しむ希美をよそに、信玄は恥じらう家臣達に鼻の下を伸ばして言った。
「よし、ならば相撲を取ろう!(意味深)寒うなったら相撲で温まり合えばよいではないか(意味深)」
「今から取りますか?(意味深)」
「今からでも夜でも、構わんぞ(意味深)」
「皆で組み合えば、熱うなれまするな!(意味深)」
(ああっ!武田主従の会話が全て(意味深)に聞こえる!!)
こうして希美の『武田信玄嫌がらせ追い出し計画』は、早速失敗したのである。
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