第33話 ライバル
基本的なフレイラについての説明を受け、それだけで俺達はウンザリしてしまった。
持って生まれた遺伝子が人生を決定づけるなんて、冗談じゃない。
俺は努力が苦手だが、努力を否定する気は全くない。それに、薬物や技術でどうにかなるなら、そんな差は無いに等しい。
でも、そういう国だからこそ、あの貴種のやつは「家畜」だとか何だとか、偉そうだったんだろう。
「現在、王のリス・ラ・マールは88歳で、病床にあり、表には姿を見せません。この王は、現体制肯定派です。
子供の内、貴種なのは2人。兄のアリ・ラ・マール、予見視、それと妹のレイ・リ・マール、空間眺望能力となっています。
あと息子3人、娘1人がいますが、全員一般人なので王位継承権はありません。
アリは17歳、レイは16歳で、どちらも考え方や施策については不明です。
現在戦闘可能な貴種は6人。
この前来た、ジャン・ルス。遠隔操作の能力です。親も貴種ですが、父親は事故で死亡、母親は戦闘で負傷し、もう戦闘は不可能です。
ルネ・トーリ、空間眺望。
カーク・トゥラ、遠隔操作。彼は、野心家である事を隠していません。
サリ・バルク、空間眺望。彼も野心家です。
あとは双子の、アリ・ノウラとエリ・ノウラ。どちらも遠隔操作です。兄のアリも妹のエリも、狂人的で、貴種として戦場に出ていなければ、犯罪者になっていたかも知れないような人物です」
それを聞いて、ちょっと引いた。
あんまり、お近づきになりたくない。
「一般人は、現状に満足している者と不満を持つ者とは半々ですが、革命軍に加わってまで反対する者は、多くありません。ただ、金銭的な援助等を、こっそりとしてくれる程度です。
この革命軍の本拠地にいるのは一般人と隷民ばかりで、幼児から年寄りまで幅広くおり、ほとんどのものを自給自足で賄っています。
まあ、こんなものでしょうか、基本的な所は。
戦況は、一進一退。付近の宙域で、我々が嫌がらせをする程度ですね、残念ながら。貴種のいる宙域では、残念ながら厳しい。その点で、地球の皆さんには期待させてもらいます。
質問はありますか」
はい、と隊長が手を上げた。
「今更遠く離れた地球まで、大昔に逃げ出した隷民の子孫を追いかけて来たのはなぜだろうか。何か理由があるのでしょうか?」
「ハンティングでしょうね、理由の大半は」
「その理由は酷い・・・」
地球側が、ザワザワとざわめく。
「革命軍の狙う最終決着地点は、どこです。政府転覆ですか。現行制度の撤廃ですか」
これに、全体がシンとする。
「制度の撤廃は最低ラインです。これが呑まれるのであれば、王家が存続してもいい。
逆に、地球の方はどうです。地球に不干渉である事を認めさせるならば、後はどうです」
「地球に手出ししないのであれば、一応目的は果たせることになりますね。受けた命令からすると」
革命軍の面々が、固い空気をかもす。
「ほう。簡単にはいきませんよ」
「ですね。それこそ、政府転覆か制度の徹底的な見直しが必要なようですね」
「よろしく」
「こちらこそ」
リーダーと隊長が、固い握手を交わした。
フレイラの技術は地球やルナリアンよりも進んでいて、慣性緩和の技術は既に地球とルナリアンのドールに取り入れられている。それにより、元のように普通にシートに座るスタイルに戻った。
やはり、ジェルに埋まるのはどうも不評だったらしいし、緊急脱出の際に不手際が起こり得るという事で、忌避感を持つ者もいたらしい。
それとエンジンがなんとか反応炉とかいうものに変更され、稼働時間が伸び、一部兵器が強力になるか、弾数が増えた。
そして革命軍も、地球の省エネ技術を取り入れて、稼働時間が伸びた。
パイロットにとっては、どうなんだろうな。いいような、悪いような・・・。
そんな改修の報告を最後に、会議は終わった。
「町の見学に行こうぜ!」
明彦が嬉々として言った。
「カリドちゃんが案内してくれるって」
右を見たら、カリドが前髪を直すのが見えた。
左を見たら、ノルドさんがカリドを探すのかキョロキョロするのが見えた。
「邪魔したら悪いしな。行って来いよ」
「そうだね。うん」
「え、そんなあ、邪魔だなんて、えへへへ」
明彦が嬉しそうに笑っていると、俺達の前に誰かが立った。ドエル他3人だ。
「ん?」
「貴種は敵だ。認めない」
「そう言われても、俺達は地球人だし。そんな、品評会の野菜か花みたいなもんじゃないぞ」
俺達は肩を竦めた。
「屁理屈言うな!」
「そうだ!だからノルドさんも、カリドとの仲を認めないだろ」
「いや、それは別の問題だろ」
「ねえ」
困惑以外の何者でもない。
「あ、あれかな。もしかして、恋敵?」
真理が面白そうに言うと、ドエル達は慌てた。
「ち、違う!」
「関係ない!」
ドエルは真顔になって、
「貴種なんか信用できないって言ってるんだよーー!」
と、恨みのこもった目で俺達を睨みつける。
「何か事情があるとは思うけど、それって、お前らも遺伝子で差別してるって事か?」
言うと、ドエル達は一瞬黙り、顔を真っ赤にして怒り出した。
「お前にわかってたまるか!貴種どころか稀種のくせに!」
「キシュ?ん?んん?」
わけがわからない。が、ふと気付くと、部屋中が水をうったように静まり返って、こちらに注目していた。
その中を、隊長、ヒデ、ノルドさん、ラドさんが、慌てたように近寄って来る。
「何の騒ぎだ」
ヒデが俺達を等分に見ながら訊く。
ドエル達は、答える気はないらしい。
「ええっと、あれですね。『彼女は渡さん』みたいな」
「ガンバレェ、明彦」
ドエル達は何かを言いかけ、結局言葉が見つからないのか黙った。
特に、名前を知らない2人は、真っ赤だ。
「そうなのか」
ノルドさんがドエルに訊き、ドエルは迷うように、そして、『あれ?そんな話だったか?』みたいな顔付きになる。
「まさか、同盟に水を差すようなけんかとかしませんって。なあ」
「そうだよねえ」
「おう!」
隊長とヒデは嘆息し、ラドさんとノルドさんは顔を見合わせてから、笑顔を浮かべた。
「そうか。早速仲良くなって良かった」
「ははは。でも妹はやらん。まだ交際は早い!」
冗談で終わらせ、皆が動きを取り戻す。
「じゃあ!」
明彦はカリドと、風のように素早く去って行った。名も知らぬ2人が、泣きそうな顔で見送っているのが申し訳ない。だが、知らん!
「ドエル、話がある。それと、君もいいかな」
「・・・はい」
怒られるのか?俺、この人からも怒られるのか!?
真理に手を振って見送られて、俺は偉い人4人の後について行った。
応接室なのか、ソファがあって、ローテーブルがある。
「どうぞ」
勧められて、隊長、ヒデと並んだ隣へ座る。向かい側には、ラドさん、ノルドさん、ドエルが座る。
大人たちが和やかに特産品の話とかをしているが、これは地球なら、差し詰め、天気の話とかそういうのだ。
副官か何かが人数分の飲み物を持って来て部屋を出ると、4人はピタリと話を止めた。
緑のオレンジ味のジュースは美味しかった。しかしこれは何だろう。湯気が出ていて、深紅で、発酵食品的な匂いがする。イチゴ味か?だったら甘い匂いだしな。これで納豆味だったらどうしよう。味噌味なら、違和感はあるが飲める。
凄まじい異文化の壁に、無表情を装いながらも内心では冷や汗を垂らしていると、隊長がカップに手をのばし、飲んだ。それを、ヒデと俺は横目でさりげなく見守る。
何事もなくカップを戻す隊長に、俺とヒデは、自分のカップを見た。
飲まないと失礼だな。
奇しくも、同じタイミングでそれを飲む。
「・・・何だこれ!?美味しい!」
「見かけはイチゴジュースで匂いは味噌汁で味は抹茶!」
思わず叫んだ俺達の向かい側で、ラドさんとノルドさんは笑い、ドエルは気管に入ったのか、涙目でむせ返っていた。
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