第31話 フレイラ貴種

 政府にはライブで音声付きの映像を送っている。そして、対応を待っているというところだろう。いつも通りの警告で手順を踏みつつ、やられたらやるぞ、と政府に言っているのだ。

『本艦は日本国自衛軍です。貴艦は地球宙域へ不法に侵入しています』

 難しいところだな。攻撃されてやりかえしたとしても、それはフレイラにとっては地球代表と見える。それで敵対行動を取ったと見做し、地球全体に攻撃して来た時、絶対にいちゃもんを付けて来る国がある。もう、想像できてしまう。

 かといって、やられっぱなしではたまったもんじゃない。

 交戦規定をきっちりと守って、証拠を残す必要がある。

 まあ、最初から殺る気満々のこいつらの言動がばっちりと記録されているので、後は交戦規定通りにやれば問題は無い。

 と、いきなり中央の艦から主砲が発射され、あすかは辛うじてそれを避けた。

『家畜が、笑止!蹂躙してやれ!』

 ノリブとドールが、こちらに突っ込んで来る。

『全機戦闘を開始』

「了解」

 俺達は戦場にダイブした。


 フレイラのドールの動きは、ノリブより少しいいくらいだろうか。革命軍のドールは渡り慣れているから問題なさそうだし、ヒデ達は多少の不利を連携で十分補っている。俺達ダイレクトリンカーは、問題ない。

 明彦は張り切ってフレイラのドールを殴り、斬り、蹴っているし、真理も狙撃をしては位置を変え、散弾をばら撒いて接近戦に持ち込ませないで仕留めている。

 俺も、盛大にライフルとブレードとビットを併用して敵を倒していく。

 家畜呼ばわりされて蹂躙される気は無い。

 かなり戦場の風通しが良くなってきたところで、意識の隅に、新しい敵影が現れた。

「マサト、アキ、上へ離脱!」

 サッとウィッチとノームが上へ移動する。一瞬後、それまで2機がいたところを、数条のレーザーが貫く。

 フレイラの艦から全速で飛び出して来た新手のドールが、ビットを操っていた。

『貴様、貴種か』

 わからんな。なんだ、こいつは。

 他のドールよりも大きく、紋章らしいものを機体にペイントしている。明らかに、ボスだ。声も、あの失礼なやつと同じだ。

 しかしそれを差し置いても、こいつは確かにボスなんだろう。こちらにビットを差し向けつつ、こちらのビットを防いでいる。能力が、他と違う。

 手強そうだ。

『なぜ家畜共に混ざっている?そもそも、どこの家の者だ』

「プライバシー保護の為、お答えできません」

『ふざけやがって』

 声に怒りの感情が混ざる。

 そして、お互いの攻防が、早く、多くなった。

 頭が熱く、精神は冷たくなる。視野が広がって感情は薄くなる。

 もっと未来さきを読んで、より早く、より深く、避けろ、当てろ。相手の動きを完全に予測しろ。

 ライフルを撃ち合い、避け合い、弾切れになったので投げ付け、避けたその先へビットの攻撃を向ける。

 どのくらいそうしていたのか。不意に、そいつは距離を取ると、

『用が入った。続きはまた今度、じっくり遊んでやる』

と言うや、艦に戻って行く。

「逃げるのか、おい」

 言いながらも、「助かった」という思いは拭えない。もうビットも弾切れになる。そうすれば、こっちはブレードで接近戦しか手が無くなるところだった。

「ああ、何か腹が立つーー!」

 意識が本体に戻るような感覚と共に、苛立ちが募った。


 あすかに戻ると、なぜか革命軍のドールが1機ついて来た。

 フェアリーを降り、申し送りをしたところで、血相を変えたドエルが走って来る。

「ん?」

「お疲れぇ」

「ああ、腹減ったぜぇ」

 真理と明彦も、ドエルに怪訝な目を向けた。

「おい!これのパイロットは貴様か!?」

「え?ああ、そうだけど?」

 何?ダメ出し?俺、革命軍のエースにしごかれるのか?

 内心で動揺する俺に、ドエルは掴みかかった。

「なぜ貴種がここにいる!?貴様は何者だ!?」

「ええー。何者と言われても・・・単なる学兵だけど。なあ?」

「うんうん。この前まで落ちこぼれゴミ班と呼ばれてた5553班の1人だよね」

 真理がにこにこしながら言う。

「時々課題を写させてくれる友達だぜ!」

 明彦がニカッと笑う。

 だが2人共、いざという時は攻撃できるように、真理は手をホルスターに、明彦は手をグーに握りしめている。

 ありがとう。2人共、後でジュース奢るからな。

 ヒデ達も騒ぎに気付いたのか、足早にこっちに近付いて来る。

 ドエルはようやく少し落ち着いたのか、掴みかかっていた手を放し、深呼吸してから口を開いた。

「お前は貴種だろう。なぜこんなところにいる。工作員か」

「いや、意味がよくわからないんだが・・・。俺は地球の一般人だ」

「隷民の子孫が、なぜ遠隔操作能力を持つ。それに、空間眺望もできるだろう」

「いや、言葉の意味は何となく想像できなくもないけど、全然わからないんだが?」

「どういう事だ・・・」

 俺が聞きたい。

 俺達は揃って、途方に暮れた。


 また、春原先生に採血された。フレイラ人の遺伝子と突き合わせて、じっくりと調べるらしい。ついでに、真理や明彦だけでなく、ヒデ、整備員、峰岸さんなど、色々なタイプを揃えて、だ。

 幸いな事に、スパイの疑いは晴れた。先祖返りではないかというのが、ノルドさんやクックの意見だ。

「先祖返りねえ。

 それはともかく、貴種とか何とかって何なんですか」

 地球人のDNA検査よりも詳しい検査をする都合で、俺達は革命軍の艦にいた。春原先生はウキウキとして、未知の技術、試薬、検査に臨んでいるようだ。そして隊長とヒデと俺達3人は、操艦室でノルドさん、ドエルさん、モニター越しながら革命軍のリーダーであるラド・スーラさんと向き合っていた。

 出された飲み物はオレンジのような味の緑色のもので、美味しい。

「全フレイラ人は、貴種、一般人、隷民にわかれる。

 貴種は全体の1パーセント未満で、貴族階級と言っていいだろう。自分を含めてその場の全体を俯瞰するように、空間を把握する能力『空間眺望』、例えばビットを扱うような『遠隔操作』、未来さきを予測する能力『予見視』。この3つの能力のどれか一つが使えれば貴種にあたり、空間の広さや操れるものの数、どのくらい先を予見できるかで、勿論扱いは変わる。

 一般人は、君達のいうダイレクトリンクができる人間が該当し、およそ80パーセントがこれにあたる。

 ああ、貴種も勿論、ダイレクトリンクはできる。

 隷民はダイレクトリンクもできない人で、およそ20パーセントを占めている。下等種の扱いで、職業や住居、色々な権利の面で差別されている。貴種にとっては正しく奴隷、家畜だな。

 ダイレクトリンカーは対G能力もあるが、隷民は低い。ただし、これは副作用も無い薬物で簡単に対応できるから、自分で操作する機械を動かす事で、十分、一般人と同じ事ができる」

 ここで一度ノルドさんは飲み物で口を湿らせた。

「見たところ、砌、真理、明彦がダイレクトリンカーらしいね。その上砌は、遠隔操作は確実にできるし、もしかしたら空間眺望ーーいや、予見視かなーーもできるんじゃないかな」

「ううーん。予見視は、他にも多くの人ができると思いますよ、似たような事は。スポーツでだって、予測して動きますよね」

「言葉で言うのは難しいな。まあ、いい。検査結果でわかるはずだから」

 わかるのか!?

「という事は、それらを分けているのは、完全に遺伝情報ですか」

 隊長が訊く。

「そうです。遺伝子に刻まれた能力で、フレイラは階級を決められるのです。出生前に遺伝子検査してもわからなくて、生まれてから発現するかどうかわかるんです。子供ができたら、どこの家庭も大変ですよ。

 例え親が貴種だろうと、その子がダイレクトリンカーでなければ、その子は隷民です。その反対も然り。

 私と両親は一般人ですが、妹は隷民で、妹には社会保障などがありません。クックは親が貴種ですが、本人は隷民で、家の中に閉じ込めて存在を隠して育てられていました。どうしようもなく、付いて回るのですよ」

 怒りを押し殺した表情で、そう、言葉を紡いだ。

 その時、春原先生と革命軍の医官が入って来た。




 

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