第27話 人類の天敵
ノリブ。何を目的に、どこから来てどこへ行こうというのか。謎だらけの存在だが、確実に言える事はただ一つだけ。あれは人類の天敵だ。やるか、やられるか。
地球側もルナリアン側も、総力戦で当たっても、結果は楽観視できない。負ければ、跡形もなく滅ぶ事になる。
「広域戦術兵器はどうなんですか」
ヒデが訊くと、隊長は溜め息をつく。
「焼け石に水だが、効果は無い事も無い、というレベルだな」
「地球や月に到着するまでどのくらいですか」
「未発見のゲートが無ければ、一ヶ月程らしい」
短いな。
「今、フル回転で、全ドールをパペットシステムに換装中らしい。ギリギリ間に合うかどうかだな。
間違いなく、あすかは最前線に投入されるだろう。砌、真理、明彦。すまん。お前らをかばってやる余裕が、今の地球圏には無い」
俺達は、笑った。
「嫌だなあ、隊長。俺達、覚悟くらいできてるし、どうせどこにも、あれから隠れる場所なんてないでしょ」
「忙しいのも今更だしねえ」
「いやあ、GO GO ゴミ班と呼ばれた俺達も、やる時はやるぜ!」
隊長は笑って、
「じゃあ、頼りにさせてもらうか。でも、無茶はするなよ。終わったら、カニ祭りの事を詳しく訊かんといかんからな」
と言う。
「え、それはいいんじゃないかな」
「そうそう。結局あれでいい感じにまとまったしねえ」
「功労者だぜ!な?」
ヒデ達もそれで噴き出した。
「全く、お前らは」
「だったら、終わったら皆で騒ぐぞ。祭りだ」
「やった!」
「やる気が出るねえ」
「おう!」
あすかの中は、悲壮感などみじんも無かった。
担当宙域毎に分かれて、ブリーフィングを行う。まずは代表者が出席し、各々艦に戻って艦内でクルーに行う。
あすかは隊長とヒデが出席し、それを俺達が戻って来た隊長から聴く。
「まず、広域戦術兵器で数を減らし、そこからドール、無人機で切り崩す。補給は各員、適宜戻れ。あすかの受け持ちはこのあたりになるから、あすかはここで足を止めて、攻撃する」
モニターでは、大河の如き群れが近付いて来ている。人類は、長く伸びたノリブの群れに、サイドから一斉に食らいつく。そして、合図があれば後方の隊から順にワープゲートを通って地球側へ出て、同じ攻撃を繰り返す。
ある程度減らしながら、用意したワープゲートに追い込んで遠くへとワープアウトさせ、そこで待ち構えている味方と後方から追い立てる味方とで殲滅を図る。
それが、人類が立てた作戦だ。
ヘタをすると、人類は滅ぶ。その前提を前に、出し惜しみもメンツも意地もない。どの国もそうであると思いたいものだ。
刻々と、作戦開始時刻が近付いて来る。俺達は各々の機体で待機しながら、出撃命令を待っていた。
やがて、峰岸さんの声がした。
『飛行隊各機、出撃して下さい』
続いて、ヒデの声がする。
『まずはキャット隊、出る』
ヒデ達が、新型機で飛び出していく。
「バード隊、5553班、出ます」
俺達も、飛び出していく。
電磁カタパルトから撃ち出され、放り出される。
「目標だらけだな」
『うわあ、もう、どれを狙えばいいのか』
「より取り見取りだ。好きなのを狙い放題だぞ」
『よっしゃあ!任しとけ!』
横っ腹から近付いて、ノリブの奔流に食い込んでいく。
撃破しても撃破しても、次から次へとノリブはやって来る。まるで、上流から水が流れ続けるように。最初に広域戦術兵器を浴びせ掛けて数を減らしている筈なのに、そうとは思えないようなノリブの数だ。
適宜補給に戻っては、また、攻撃に加わる。俺達の機体のターンアラウンドの短さが幸いしている。
『アメリカ艦隊、ワープで移動しました』
しばらくすると、
『ロシア艦隊、ワープで移動しました』
と峰岸さんの声が告げ、すぐに、
『自衛軍、ワープで移動します。全機、帰艦して下さい』
と通信が入り、あすかに戻る。他の自衛軍機も、各々の艦に戻って行く。
着艦し、いつもの手順でコクピットから降りると、整備員がワッと集まってメンテと補給をしてくれるのは同じだが、俺達は待機所に押し込められ、パックのジュースとブロックの食事を摂るようにと言われる。
そう言えば、喉が渇いたような気がしないでもない。
俺達もヒデ達も、黙って体を休め、水分と糖分を補給した。
「そろそろワープアウトします!」
整備員が告げ、俺達は立ち上がる。
「もう一丁行くで」
パンッとタカが頬を叩き、俺達はゲルに身を沈めた。
何度か攻撃とワープで移動を繰り返した後、先頭の頭をルナリアンの艦隊が強力なビーム砲で押さえつけ、予定通り、用意したワープゲートにノリブの列を突っ込ませるのに成功したと聞いた。
まずはホッとする。
これで最悪、地球への到達が数か月遅れる。
ワープアウトした先ではアメリカ軍が待ち構えており、最初からの繰り返しが始まる。広域戦術兵器、無人機、モビルドール。
ノリブも減っているが、人類側も減っている。
幸いあすか乗員にけがは無いが、軽い被弾なら、各々食らっている。
自衛軍全体で見ると、撃墜された者も少なくは無い。ただ、特殊ゲルが大けがの時には止血の役目を果たせるので、今までと同程度のクラッシュでも、即死とは限らないと聞いている。
『かなりノリブが減って来たな。皆注意しろよ』
『ああ。動きが派手な、変態軌道になりよるな』
『いよいよ、高機動で動ける俺達の出番だな』
『目にもの見せてやるぜ!』
『いつものやつだねえ』
「となると、いつも通り、気負わずに片付けて行くぞ」
『おう!』
俺達は、最初に比べて随分細くなったノリブの川を眺め、飛び込んだ。
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