第22話 スクープ
ゲートの守備は、あすかとあさかぜとひえいが交代でアラート待機に入るというやり方でしていた。あすかはその当番を終え、俺達は訓練、保守をしての待機になる。
そしてさらに、授業も。
「春はあけぼの。ようよう白くなりゆく山際ーー」
古典の教科書を音読していたら、血相を変えて峰岸さんが操艦室に飛び込んで来た。
「大変ですよ、隊長!」
「どうした?」
「これ!」
メインカメラに、ワイドショーが映る。
人気アイドルが引退を発表か。
「へえ。大変だな」
「ふうん。そうだねぇ」
「はあ。引退か」
「違います!」
俺達はピンと来なかったが、次の瞬間画面の上に速報が出て、言葉を失った。
学兵3名が実働部隊に編入され、実戦に投入されている事が判明。
「これ、俺達の事か!?」
「なんだとーっ!?」
「なんでバレたのぉ!?」
「うおお、どうなるんだオレ達!?」
隊長と俺達の叫び声が、操艦室に響き渡った。
どこから漏れたのかはわからないが、週刊誌がすっぱ抜いたらしい。その後新聞が続き、今はテレビが追っている。あすかが木星という一般人の来られない所にいるからこそ大丈夫だが、そうでなければ、面倒なことになっていただろう。
「うわあ。実名は出てなくても、これじゃわかるだろ」
俺は呻いた。『首相の次男(16歳)』となっていた。
「叩かれるぞ、政府」
ヒデは溜め息をついた。
「そうなると、呼び戻されて、また後方かな」
ユウが首を傾ける。
まあ、そうなるかな。
「でもそうすると、あの3機はどうするんや?しまい込むんか?」
「なんとか適合者を見つけ出すんじゃないんですか」
「そう簡単に見つかったら、今頃もっと量産してるよ、新型機」
ヒデの言う通りだな。
そうして操艦室で話していると、個室で上と話していた隊長が戻って来た。
「あ、隊長ぉ」
「方針が決まったぞ。
まず、お前らは、志願して実働部隊に配属されて来た」
「は?志願?」
「高校は通信制で卒業する事になっていた」
「え、そうなのぉ?まあ、出席できてないけどぉ」
「そういう事にするから口裏を合わせろという事だ。
で、3人共、あすかでデータ取りに協力していただけで実戦には出ていないと言うように、と。任務について洩らすのは服務規定違反になるので、もし洩らしたら、未成年といえど逮捕となる」
「ぐええ」
全員、呆然とした。
「辻褄合わせが凄いねえ」
「諦めろ、真理」
「とにかく、説明と書類作成で本部に戻るぞ」
というわけで、取り敢えず諸々の手続きもあり、あすかは実験団本部へ戻った。そして、担任やら文部科学省の幹部やら防衛省の幹部やら政治家やらに会って書類を色々と書く。
「では、今後もデータ取りへの協力、よろしく頼むよ」
「はあ」
担任は深い事は知らず、本当にデータ取りをしていると思っているらしい。俺達に気を付けろと言いながら、先に退出して行った。
「さて、ここからだ。
近々、学兵からの志願者も、実力さえあれば特別志願兵として実戦部隊に配置されるという制度が国会に提出される。そしてこれは、通過する」
「するんですかぁ?」
「強行採決だろ。もしくは、どこかほかの党との密約」
「ああ、成程ねぇ」
真理は俺の解説に納得したが、両省の幹部はチラチラと政治家の顔を窺っている。
「おほん。そうなると、武尊君には志願してもらうと首相は仰っている」
「ああ、そうなりますね」
「え、それでいいのか、砌?」
「仕方ないだろ」
政治家ーー思い出した。幹事長だーーは、お茶をグイッと飲んだ。
「物分かりが良くて助かる」
やり難そうだな。何でだろうな。
「それで、できれば古谷君と降谷君も志願してもらえたらありがたいんだが」
2人は考えた。
「もししなかったらどうなりますかぁ」
「結局このままだな。学兵としてデータ取りをしてもらい、裏では隠れて実戦に出てもらう」
「志願したら?」
「堂々と実戦に出てもらう。
やる事は同じで、こっちはもっと高い給料とか手当が付く」
幹事長の返事に真理と明彦が考えるが、
「今決めなくてもいいんでしょう。可決まで多少時間はある筈だし。お前ら、よく考えろよ」
と言っておく。
「砌は即答したじゃんか」
「俺はいいんだよ」
「何でぇ?」
「何でって・・・何でかな。とにかくいいんだよ。どうせ皆と違って、取り柄も無ければやりたい事も無いし」
横で、隊長が渋い顔をしている。
「ま、まあ、そういうことだから、よろしく」
会談は終わった。
ぞろぞろと幹事長と役人が出て行くと、隊長はソファにもたれかかった。
「はあ。堂々と志願兵扱いにされたら、最前線だろうがどこだろうが、遠慮なく突っ込まれるぞ。お前ら、わかってるのか」
「まあ。それに、結局は一緒だし」
肩を竦める。
「あの様子じゃあ、後2年半の学兵期間が終わっても、軍に残れとか言われるぞ」
「そうですね」
「他人事か?まあ、いい。考えとけよ、将来について」
俺達はあすかに帰ろうと立ち上がった。
ついでに買い物をして行こうかと月へ寄る。
基地の売店に大抵のものはあるが、本の最新号などは遅くなるし、服の種類は少ないのだ。おしゃれというわけでもないが、それでも、10代向けの衣料品などはまるでない。ヘタをすれば、勤務時間後に娯楽室に行くと、制服の如く同じか色違いの服を着た隊員がごろごろいる事になりかねない。
買い物を済ませ、公園でたこ焼きの屋台を見付けて休憩する。
「あちっ、あちっ」
冷まして食べていると、ふと、視線を感じた。記者か何かかと目を向けると、女の子が睨むようにこちらを見ていたが、パッと目を逸らした。
「滅茶苦茶わざとらしいな」
明彦が言う。
「何かしたかなあ?」
「俺は知らんぞ、あんな子」
年は小学生くらいで、肌の色は浅黒く、ほりの深い顔立ちをしている。
「ボクも知らないよぉ」
「オレも知らない」
「じゃあ、放っておくか。たこ擁護委員会のメンバーで、たこ焼きを食べる俺達に腹を立てているのかも知れないしな」
言って、歩き出す。
ハロウィンが近いらしくーーこういう行事に疎くなるなーー、公園は人で溢れていた。その、魔女っ娘と海賊王の間を抜けて行こうとした時、背中から、戦場で馴染みのできつつある感覚がした。
振り返ると、さっきの女の子がこちらへ向かって一心不乱に走って来るのが見えた。
ジャケットの前が開いて、胴に巻き付けた爆発物が見える。
「敵」
真理と明彦が振り返りつつ離れる。
「真理、仲間を探せ。明彦、拘束」
すぐに明彦が女の子を簡単に転がし、俺はその子が握りしめる携帯電話を取り上げた。電話番号が打ち込んであり、多分、コールと同時にその信号で起爆する仕掛けだろう。
「仲間はいないみたいだよぉ。スナイパーも多分いない」
真理が言って、ガードの人員が慌てて走って来る。
「離せ!」
暴れる女の子を押さえる俺達に、周りの人間が白い目を向ける。
「何やってるんだよ、女の子に」
「この子はテロリストでーー」
「あ、爆弾!?」
「仮装だろ?」
人が群がって来る。
女の子はジタバタと暴れ、叫んでいた。
「返せ!聖戦なんだ!お前ら死ね!」
それで、周りも少し変だと思ったらしい。
「神は私達を見ている!私達と共にいる!」
「暴れるなーー!」
「自分達だけいい思いをして!私には帰る家も無くなったのに!神よ!」
「黙れ!」
ガード役の隊員が、女の子を拘束して歩いて行く。
基地に戻り、報告を聞いた。あの女の子はとある宗教の信者で、僅かな金銭で自爆テロを引き受けたらしい。地球はどこもルナリアンとノリブを相手取った戦争に明け暮れ、技術のある国が、儲け、発言権を増している。その一方で、弱い国はどんどん立場が悪くなり、貧しくなっていく。
宗教の名を借りたテログループに雇われ、楽しそうに公園に集まる人達や、たくさんの買い物をしている俺達が目についたらしい。
「戦争か」
真理と明彦が、遠い目をする。
「オレ、決めた。志願するぜ」
「うん、ボクもそうしようかなあ」
「何でだよ?」
俺が訊くと、2人は笑った。
「大したことはできなくとも、できる事をやろうかな、ってねえ」
「戦争が終わる手助けがしたい」
「・・・まあ、どうせ仕事自体は同じだからな」
俺達は肩を竦め、あすかに戻った。取り敢えずは、俺達の帰る場所は、ここにある。
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