第20話 SOS

 壮観だった。ノリブ、ノリブ、ノリブ。適当に攻撃しても、どれかに当たりそうだ。反対に、気を付けないと、思わぬ所からの攻撃に当たりそうだ。

 ヒデの号令の下、戦闘は開始された。6機は攻撃しながら、散る。

 ビットを8つ射出して、周囲に配置して弾をばら撒き、フェアリーは電磁ソードで攻撃する。ノリブも今は数が多いので、互いが邪魔で高い機動性を発揮できないでいるのだ。つまり、いつもよりも狩りやすい。

 ある程度減らしたら、ノリブはいつもの動きになって来る。

 それを追い、ライフルで狙う。

「へえ。確かに反応がいいな」

 いきなり曲がるもの、止まるもの。それに、いつもより早く反応して追尾できる。1秒後の位置が見える。

 まあその分、体への負担はそれなりだが。

 大体周囲が疎らになってきたところで、皆の様子を見る。

 明彦の「腕が伸びる」は、その通り、腕が伸びていた。接近しきらないところの敵にも攻撃が届くというほかにも、いきなり手前で腕が伸びたら、リーチが読みにくい分、特に対人戦闘では有利になるだろう。

 真理も、背後の敵に対処しやすくなったようだし、何より、一度で攻撃をばら撒けるのは、密集時でも相手が高機動でも役に立つ。

 ヒデ達はと見れば、肩、肘、手首の関節が球になり、ヒトではあり得ないような可動域となった事で、攻撃範囲が広くなっていた。その上、投網のようにネットを発射してそこに高圧電流を流したり、ネットを超振動させて敵を賽の目切りにしたりと、なかなかの新兵装だ。あれにはシミュレーター訓練の時に、注意が必要だな。

 思いながらも、目の前のノリブを片付けていく。

 ようやく掃討し終えた時は、流石に安堵の息をついた。

『もういないようだな』

『やれやれやな。でもまあ、新兵器も試せたし』

『そうだな。シミュレーター訓練で度肝を抜いてやろうと思っていたのに、それだけが残念だ』

 ヒデ、タカ、ユウが、余裕を見せて笑う。

『オレの必殺パンチ見た!?カッコいいな!』

『ボクは、後ろに撃てるようになったけど、まだ牽制くらいにしかならないなあ』

「後ろを取られないだけでもいいだろ。全然安全度が違う」

 意見交換をしながら周囲の警戒をし、安全を確認する。

『ようし、周囲に敵影無し』

 ヒデが宣言し、あすかとやりとりの後、順に帰艦する。

 と、ここで待ったがかかった。

『SOSを発信する機影あり。アメリカ船籍のシャトルの救難ポッドです。キャット1、2、3で保護に向かって下さい。あすか正面仰角2度、距離4000メートル』

 峰岸さんが言うそばから、前方で点滅するライトが見えた。

『あれかあ』

『バード各機は帰艦して下さい』

「バード1了解」

 真理と明彦も返答し、先にあすかに戻る。

 機体を駐機し、降りて整備員に後を引き継ぎ、氷川さんと雨宮さんに新装備について感想を伝える。データは後できちんとしたものを見るので、あくまでも、個人的な感想でいいらしい。

 そうしていると、ハニービーカスタムに囲まれて、救難ポッドがあすかに到着した。

「3人共、あんまり接触しないようにな」

「はあい」

 俺達は返事をしながら、どんな人達が出て来るのか興味津々で眺めていた。


 俺達は操艦室に行き、席に座って皆のいう事を聞きながらボソボソと話していた。

「何で今頃こんな所にいたんだろうな」

「旅行ってわけじゃないよねぇ、このご時世に」

「この先に半官半民のアメリカの資源衛星があったな、確か」

「ああ。あそこから引き揚げて来る途中にノリブに遭遇したんだねぇ」

「でも、そうなると変だな。米軍がガードしそうなもんなのに」

「それに、よく救難ポッドに乗ってノリブから助かったな。あいつら、人工物にも厳しいだろ?」

 3人でううむと考える。

 と、隊長が笑って言った。

「ゲートですぐに向こうへ送るが、それまで目を離さないさ。乗員はそのままポッドに乗っていてもらう」

「隊長、怪しいのか?」

 明彦が訊く。

「まあ、念の為な。ここには最先端の機密情報がゴロゴロしてるからな。お前らも、間違っても会いに行ったりするんじゃないぞ」

「はあい」

 明彦が明らかに残念そうな顔で返事した。

 と、しばらくして、非常ベルが鳴り出した。

「何だ、何だ!?」

『具合が悪いと言われてドアを開けたら、銃で脅されまして。今、格納庫内を人質を取って歩いています。狙いはフェアリー、ウィッチ、ノームかと思われます』

 それを聞いていた俺達は、最後まで聞かずに飛び出した。

「どうしよう」

「どうしようか。警務隊での訓練は役に立つかな」

「取られてたまるかよ!」

 見える所まで近付き、そうっと覗く。

 ポッドのドアは開き、民間の宇宙服を着た男達5人が手分けしてウロウロしていた。1人は整備員の女性隊員を人質にして、首に腕を巻き付けており、もう1人はリモコンのようなものを持って辺りを見廻している。そして全員が、薄い粘土のようなものを体のどこかしらに付けていた。プラスティック爆弾だろう。人質を取っている男は手首に巻いており、人質の首に密着している。あれで本物の粘土だったら面白いのに。

「ありました」

 ウロウロしていた連中が、フェアリー、ウィッチ、ノームに気付いたらしい。

 3人がコクピットに乗り込んで、起動を試みる。が、予想通り、起動できない。辛うじて1人が起動しかかったが、叫び声を上げてフェアリーのコクピットから転がり出ると、えずき始めた。

「何だ?生体認証か?トラップか?おい、パイロットを呼べ」

「残念だが、それはできない。勤務時間が終わったから休憩中だ。休憩中に呼び出したら、訴えられるだろ」

 ヒデが冗談で誤魔化そうとしているが、やつらはにこりともしない。

「どうする?」

 俺達は、ヒソヒソと額を寄せ合って相談した。

「リモコンで爆弾が爆発するんだよねぇ」

「あのリモコンをどうにかできないか?真理、狙えるか?」

「あまりにもじっとしてないからなあ」

 考えていると、彼らは狙いをハニービーカスタムに変えたらしい。

「こっちなら起動できるぞ」

 彼らは3機のハニービーカスタムに分乗し、人質を放り出してハッチに向かう。

 隊員達は急いで退避していくが、俺達は乗機に飛び込んだ。そして、急いで起動する。

 だが、やつらが追って来られないようにと放り出したカートやら何やらが邪魔で、追えない。

『砌!』

「足は止める。片付けを頼む」

 真理と明彦はそれら障害物を片付け始め、俺はビットを出して、追わせた。

『ミギリ!あんまり壊すなよ!?』

『狭い!押さないで!何で3人共こっちに来るのぉ!?』

『逃がしたらあかんぞ!』

『カメラだけを壊すか、動力チューブだけを切れ』

『カメラにしろ!交換が簡単で替えもあるから!それと起爆できないようにジャミングを忘れるなよ、近付いたらな!』

 あまりのうるささに、通信を切る。

 ハニービーカスタムはハッチを開けて外に出ていたが、カメラを次々と壊すと、その場で止まってオタオタしていた。

『除けたぞ!』

『引きずり出してやれ、アキ!』

『おう!』

 明彦と俺はハニービーカスタムに並び、ライフルを構えた隊員達がハッチを取り囲むと、通信を入れた。

「はい、抵抗しないで下さいね。ハッチを開けますよ」

 手動で開けると、犯人は何度もリモコンを押していたようだが、諦めたように両手を上げた。


 搬出されていく救難ポッドを見ながら、ヒデに訊く。

「結局、どこの誰かはわからないんでしょ?」

「ああ。言うわけないからな。氏名不詳のまま、ずっと軽い罪で起訴されるのみだな」

「ルナリアンにノリブ。味方の筈の地球人にも気は抜けないっと」

「勘弁してほしいもんだよ」

 俺達は揃って肩を竦め、操艦室に入った。

 と、隊長が溜め息で迎える。

「何かありましたか、隊長」

 ヒデの問いに、隊長は答えた。

「今後の任務に変更だ。あすかは、対ルナリアン戦に積極的に参加していく」

「・・・こいつらもですか」

「命令だとよ。秘密、秘密で囲い込むからまずいと思ったんだろうな」

「まあ、一理ありますね」

「砌、そんな呑気な事言ってて大丈夫か。相手にするのはルナリアンだぞ。人型だぞ」

「別に、今更。その点では大丈夫でしょう。真理も明彦も」

 俺は教科書を抱えて飛び込んで来た真理と明彦と、席についた。

 大丈夫だろう。ただ、後方の安全な所で雑用をしている筈の俺達がとうとう最前線に近付きつつあるのは、どういう事なんだろうなあ。無事に高校を卒業できるのかなあ、と考えていた。



 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る