第15話 ワープゲート
氷川さんと雨宮さんは、岩のサークルと赤い欠片、サークルの反応について、興味を示した。
あの、俺達が飛ばされたところは、小惑星らしい。地球軌道上、地球の反対側に設置された小惑星で、国連とは別のグループによってテストとして行われた植民地計画だそうだ。その後、ノリブに襲われて全滅し、放置されているらしい。
「あれからどうなったんだろうな」
「女王ノリブと卵も気になるけど、カニと巨大な鳥も気になるぜ」
「あの鳥は美味しかったもんねぇ」
俺達は呑気に、そんな話をしていた。
俺は勿論正式文書で報告書を上げており、俺の楽しくも恐ろしいボーイスカウト日記は、政治家、トップ研究者の間で広まったようだ。ノリブの行動についての推測、突然出現したとしか思えない出現方法の理由などの部分についてが主に研究者や軍関係者などに。カニや巨大魚や巨鳥については、生物学者などに。
一般には知らされない事になったらしいし、口外禁止とされた。そして、他国にも。
そして、あの岩のサークルと赤い欠片については、日本が調査を進めていた。もしあれを自由に使いこなせるとしたら、国益は計り知れない。日本で独占はせずとも、利用価値は高い。
解析はほぼ終了し、今は、試作段階に入っている。どうも、岩がゲートとして亜空間への出入りを、赤い欠片が目的地の決定をしているそうだ。
あの赤い欠片はノリブが生成する結晶と思われ、ノリブ結晶と呼称。ノリブ結晶はその個体を生んだ女王ノリブと固有の何かで引き合い、ゲートを行き来するのではないか、というのが結論だった。
そこで、岩のサークルは同じ宇宙線を放射する物を金属で作成して復元し、固有番号を付与。赤い欠片は、そのサークルの固有番号を入力する事で代用。ゲートを3つ用意して、自由に行き来できれば成功というわけらしい。
その秘密実験が、とうとう行われるのだ。
サークル1、サークル2、サークル3を各々日本領宙内に設置し、自衛軍で警備。あすかが初のゲート試作機のテスターとして、ワープを試す。
「そろそろ時間だ」
不測の事態に備え、飛行隊は乗機にて待機する事になっている。俺達は各々の機体に乗って、モニターに、あすかメインカメラの映像をつないだ。
『これより、サークル1よりサークル2への移動を試みる。データ入力』
隊長が言い、復唱の後、画面に映るサークルの中が、水面のように揺れながら虹色になる。
「おおお・・・!」
『あすか、微速前進』
隊長が言った後、復唱され、艦はゆっくりと虹色の水面に近付いて行き、艦首から順に、ダイブして行く。
トンネルに入る時のような、軽い違和感があった。
その後、モニターの真ん中にポツンと黒い点が現れたと思ったら、それはどんどん大きくなって宇宙になり、警備中の自衛軍の艦が見えた。
『現在地点は』
『サークル2通過地点です』
『艦内、及びクルーに異常個所は』
『飛行隊、現状を報告』
ヒデからの通信に、問題なしと返答。
すぐにヒデが、
『飛行隊、全員異常なし』
と報告しているのが聞こえた。
やがて、通信士が
『艦内、異常なし』
と報告し、隊長が、
『サークル1からサークル2への移動、成功』
と言った。
その後、サークル3へ飛び、サークル1へ戻り、実験は成功裏に終わった。
それは間違いなく、人類の新たにして大きな可能性を秘めた最初の一歩だった。そして、新たな火種でもあったのである。
国連へ報告をし、ワープゲート実験の記録映像も公開。ワープゲートを設置して、共有する事とした。
その代わり、ゲートの警備は勿論の事、色々と政治的優位に日本は立ったらしいが、よくは知らない。ただ、父親が珍しく上機嫌で、
「よくやった。いいものを持ち帰った」
と言って来たので、何か譲歩を引き出すとかしたらしい。
後、ニュースで一般にも公開されて、あすかが何度も映った。
そして新たなゲートを設置するための部隊も派遣されている。あすかもその内の1つで、火星付近を担当していた。行きは普通で航行するが、帰りはすぐだ。
わざわざ担任は、その間の課題をどっさりとくれた。ただでさえ、溜まったというのに・・・。
「やっと、終わった」
俺は、シャーペンを放り出した。
「写してもいい?いいよな?」
「明彦、少しはやったほうがいいよぉ」
「永遠に終わらない気がするもん」
「計画的に、毎日少しずつやればいいんだよぉ」
俺は、夏休みの宿題を最初の数日で片付けていたタイプだ。明彦は典型的な、始業式前に慌てるタイプ。真理は計画的にコツコツやるタイプだ。
明彦が反論の糸口を探していると、敵襲のサイレンが鳴り響いた。
「あ、敵だぞ!」
嬉しそうだ。余程、動きたかったらしい。俺達を急かして、更衣室に走り込んだ。
来たのはルナリアンで、ワープゲートが目的らしい。
あの赤い欠片は俺が掴んだから俺が持っていたし、岩も結局地球側が持って帰って解析したし、ルナリアンは解析できていないんだろう。そりゃあ、欲しいだろうな。
出撃の命令で、出る。
「お、新型か」
ルナリアンも、新型機を投入して来ていた。それは一層動きが急激で、中の人が大丈夫なのかとこちらが心配になるほどだ。
その新型を、俺達で受け持つことになった。
「釣って来る」
『わかったぁ』
3機で近付きながら、さりげなく真理が遅れて外れ、狙撃ポイントへ行く。
俺と明彦は、生餌だ。
『変わったのは動きだけかなーーどわあっ!?』
ケーブルでつながった何かを射出して、からめとろうとしてくる。ヨーヨーを振り回すようなものだ。
ただし、おもちゃとは大違いだ。たまたまケーブルの巻き付いたナイフが、ケーブルの位置でばらばらになったのを見た。
ケーブル部分が、刃物になっているのか、スイッチで刃物と化すのか。とにかく、危険だ。
「あれはいくらノームでもまずいぞ」
『おう、そうだな』
「先の錘を落とせば使い物にならないだろ。
真理、本体か錘か、どっちかを狙ってくれ。あれを振り回す時は本体の動きは止まるはずだ」
『やってみるねぇ』
さてと。
新型機の後方で、ビットを射出し、近付く。新型機は俺に対してヨーヨーを2つ撃ち出して来た。その1つを真理が遠距離から撃ち落とし、もう1つを俺が撃ち落とし、明彦が本体に切りかかる。
新型機のパイロットはすぐに反応し、ヨーヨーの糸を切り離して離脱。ライフルを撃って来た。
当てる気はないのか、距離を取るのが目的だろう。
明彦が突っ込みかけるのに、待ったをかける。
と同時に、新たなヨーヨーが射出され、撃って片付けておく。
『危ねえ。何個持ってるんだよ』
「確認しておきたいところではあるけどな」
言いながら、真理と2人がかりで狙っていく。
それを敵は、辛うじて躱している。
「腹立つなあ」
射線を増やしてやる。ビットを2つ射出。これにはたまらず、相手は回避に専念しなければならなくなったようだ。それを、ひたすら追い回す。
「おっと」
危うく、別の敵機の前に釣り出されるところだった。その釣り人を片付けて、また、追いかけっこに専念する。
血が、逆流しているんじゃないかとすら思った。お前も苦しいだろ、もう止まれよ、と願う。
敵機も味方機も時間も、何もかもが意識の外側を凄いスピードで流れて行き、意識の真ん中には、今追いかけている敵の新型機しか存在しない。
それが、終わる時が来た。
撤退の合図が向こうに上がったらしく、ルナリアンが一斉に引いて行く。新型機の撤退を助ける為にか、数機がこちらに、落とすわけでも無く、ただ邪魔目的で撃って来る。
煙幕とチャフを撒かれ、こちらもヒデから追撃の必要はないと言われて、諦めた。
『帰るぞ、ほら』
「はあい」
渋々なのか、安堵なのか。
自分でもわからない何かを振り切るように、あすかへ戻った。
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