第7話 飛行開発実験団試験小隊飛行隊
試験艦あすか。機械化を進めて少ない人員での運用を目指し、自力での大気圏離脱や長期間の単独航行を可能とした艦だ。ステルス機能、インヴィジブル機能の他、受けたビーム攻撃をエネルギーに転換するする機能も今回付け加えられた。
20世紀から21世紀に就役していた試験艦あすかの、「省力化とステルス化を目的とした艦載兵器実験艦」というコンセプトを受け継いだ試験艦である。
環境調査などに向いたむろまち、電子戦や情報収集を目的にしたやよい、艦での攻撃力強化を目指したあづちに比べ、小型だ。
「聞いてるのかあ?」
俺達3人は、配置転換先であるあすかの説明を、爽やかな士官北原さんから受けている最中だった。
「聞いてる、聞いてる。うわ、かっこいいな!」
明彦は本当に聴いているのか怪しい。
「明彦、落ち着きなよぉ。嫌って言う程見られるから」
真理が苦笑するが、パトロール中に見たあの小型艦だと知って、しばらく見とれていた。
そういう俺も、あの時見とれたきれいな艦だとわかって驚いた。
「はい、行くよ」
北原さんは、仕方が無いな、という風に苦笑しながら俺達を促した。
機械化が進んでいる為、よその艦よりは乗員が少ない。とは言え、よその艦を知らないので、何とも言えない。
「まず荷物を置いてからにしようか」
言われて、部屋に案内される。
「うおお!個室だ!」
「士官は個室だから。君達は学兵だけど正規兵と同じ扱いになるから、急遽作られた特尉という階級になる。パイロットは二尉以上になるから、特尉の上下は無いけど、二尉相当って事かな。どうせ君達3人しか今の所いないけどね」
「ふうん?」
よくわからない顔で真理はにこにこし、明彦は代わり映えの無い備品にも関わらずその辺を開けて見、俺は関心が無いので流した。
「ああ・・・ここと、両隣。好きな順番で部屋は決めていいよ」
「じゃんけんな!」
「後でいいだろ。とりあえず、ここに荷物を置いとくぞ」
「そうだねえ。それでいいですよねぇ、北原さん」
「うん、そうだね。荷物を置いたらまずはパイロット控室へ行くよ。正式に顔合わせと説明があるから」
俺達は北原さんに連れられて、ゾロゾロと歩いて行く。
「控室と言っても、ブリーフィングルームでもあるし、君達の授業をする教室でもあるし、あすかの操艦室の一部でもある」
なるほど。小さいから、何でも兼用というわけだな。
そう思いながら入った操艦室は、壁際にグルリとレーダーや通信システム等のコンソールパネルが並び、中央手前のドアの横には艦長席がある。その前方には操舵席があり、そこと艦長席との間に椅子が6つ前後2列に並んでいる。
この椅子に筋肉質の人と物静かな人が、艦長席にワイルドな人が座っていた。
「よう、来たな。飛行開発実験団試験小隊飛行隊へようこそ。あすか艦長で試験小隊長で飛行隊司令官の明智由則二佐だ。隊長か、タックネームのノリで呼べ」
言って、ニッと笑う。
続いて口を開いたのは北原さんで、
「あすか副艦長で試験小隊副隊長で飛行隊長の北原秀久一尉だ。副隊長か、タックネームのヒデと呼ばれている」
と言って、艦長席の隣の空いていた椅子の前に立った。そこが副艦長席らしい。
「自分は高島光良二尉。タカでええ。自分は前衛のパワータイプや」
筋肉質で大阪弁の男が、ニッと笑った。
「久保優司二尉、ユウだ。俺は狙撃担当だ」
物静かな男は、静かにそう言った。
「まず、お前らの席はそこ。前列に、タカの前に明彦、ユウの前に真理、そこに砌」
北原さんーーいや、ヒデが俺の後ろの空席に来る。
「各々後ろが、指導係だ」
「よろしくお願いします」
俺達は各々頭を下げた。
「後、階級の件は聞いたか?そうか。上も大変だな、つじつま合わせが。
それからタックネームなんだがな。ミギリ、マサト、はいいとしても、明彦がな。大体3音以内の呼びやすいものでないとなあ。アキでいいか。うん、そうしよう」
決まってしまった。
「今後の訓練、授業についての質問は指導係かヒデに聞いてくれ。艦内配置はなるべく早く覚える事。それと、学兵とは言え実戦部隊、正規兵と同じだ。自覚と責任を持って行動するように。あと、階級が下でも、先輩で先任で年上だ。舐めた口きいてると痛い目にあうぞ。
そんなもんかな。
ああ、くるみちゃんを紹介しておこう」
言われて、コンソールの前に座っていた若い女性が立ちあがった。全員、そっちを見る。
「峰岸くるみ二曹です。通信を担当しています。よろしくお願いします」
かわいい感じだ。
「今日は艦内見学で、明日は出港して訓練を開始する。以上。
じゃあ、後は頼んだぞ」
「じゃあ、艦内を見て回ろうか」
ヒデに言われて、俺達は艦内を歩き、方々に挨拶して周った。
何か優しいな、と思ったのはこの日が最後だった。言わば着任日はまだお客さん。出港してしまえば
「もう嫌、帰る」
という事も無いからなのか、厳しい指導が待っているのを知るのは、一晩経った後だったのである。
反省会。それは、疲れ切って、落ち込んだところに追い打ちをかける事の異名か?
「アキ、何で真っすぐに突っ込むんや。わざと当たりに行っとるんか?お前はどMか?」
「当たってもどうにかなるという前提に頼り過ぎだ。何とかなるのもある程度までだぞ」
「猪突猛進とはアキの為にあるような言葉だな」
総突っ込みを受けた明彦は、
「いやあ、そう言われると」
となぜか照れた。
「明彦、褒められてないから。照れるところと違うから」
俺は小声で教えておいた。
「次は、マサトだな。判断は早く、正確に」
「敵が飛び込んで来るか、引っ張って来られるかを待つだけじゃ、待つ間にやられるぞ」
「乱戦やら相手が多かったらアウトやな」
「はい、気を付けますぅ」
真理は小さく頷きながら言った。
「ミギリか。どうだ?」
「え?ううん。まあまあ?」
「そこそこ、かなあ?」
ヒデ、ユウ、タカの3人共、少し困った顔だ。
わかっている。中途半端なのは。
「はあ」
「あ、せっかくのビットを何故使わないんだ?」
同じオールラウンダーのヒデが訊く。
「遠隔操作しないといけないから、自分の動きで精一杯で」
「いや、お前にできるから装備が付いてるんだぞ。やれ」
「ええ・・・」
「ええ、じゃない。はい、だ」
「・・・はい」
そんな無茶な、と思いながら一応返事をする。無理なものは無理だろう?おかしいよ。
「隊長、何か」
ヒデが最後に隊長に振る。
隊長はううんと唸り、
「とりあえず3人共、スタミナ不足だな。ダイエット中の女子中学生か?食って、走って、体力を付けろ。筋力はカバーできても、持久力はカバーできんぞ」
「では3人共、ランニングを追加する」
俺達は喉の奥で、呻いた。
「反省会は終わり。10分休憩の後、日本史の授業を開始する。教科書を取って来い」
俺達は心の中で「鬼!」と叫びながら、自室へ走って行った。
「警務隊に行った時も厳しいと思ったけど、それ以上だったねぇ」
「畜生、体育関連ですらまるで歯が立たねえぜ」
「生きて帰るためだ。せいぜい、がんばろうか」
走って、教科書などを持って、また走って戻る。8分程かかかった。
「生活全部訓練か?」
「おう。自衛隊は、メシまで訓練や」
「うわあ・・・」
「偏食なんて、まさかないよな」
俺はレバーと生卵と納豆やおくらやモロヘイヤやとろろなどのねばねばぬるぬる系がだめだ。
「あ、砌はレバーと生卵とねばねば系全般が全滅だな!」
明彦がばらした。
「あ、ばらしたな!明彦は梅干しとピーマンがだめだろうが」
「砌程多くないぜ!真理だってトマトがだめなだけだもんな!」
「・・・食事指導からせんといかんのか」
俺達は何を口走ったか、理解した・・・。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます