Op.30 黎明の決意
翌朝。
まだ暗い内に目覚めたミコトは、簡易ベッドから上半身を起こした。
「…………」
静寂の中、ミコトは右手の掌を見つめた。
赤児の手の感触が、まだ指先に残っている。
「…………」
ミコトは、ゆっくりと、しかしありったけの力を込めて、その掌を握り締めた。
◆
ミコトは生まれ変わったかのように、精力的に動き回った。
昼間は避難民のために炊き出しなどを手伝い、夜間はケテルの全機能を掌握しようと、王立図書館にこもってアース文明にまつわる文献を読み漁る。
始めは冷ややかな態度を取っていた避難民たちも、そんなミコトの姿を見て、少しずつではあるが打ち解けるようになっていった。
◆
国際リニアコライダーの研究室に連日泊まり込み、タカシは、ミコトが行方不明となった日に発生した現象を再現しようと試みていた。
パーソナルモビリティのタイヤ痕と削岩機で地面を割り砕いたような跡が、消しゴムで消されたように途中で忽然と消え失せている――研究棟の近くにおいて発見されたそれらの痕跡から、タカシは時空間の亀裂のようなものが発生し、ミコトがそれに巻き込まれたのではないかと推察していた。
タカシは、イノリの写真が挟まったフォトスタンドに語りかける。
「可能性の域を出ない……しかし、可能性を立証することが俺の仕事だ。だから、それまでは、あいつを守ってやってくれ」
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