Op.23 怯え

 黄昏時の荒涼とした大地を黒錆色に染め上げながら、無数の鋼殻竜パンツァーが津波のように押し寄せて来た。

 シタンは、ベリンダの住民に避難を指示しつつ、部下の樹士たちと共に臨戦態勢を整えた。一方、鋼殻竜パンツァーの大群は、防壁に達したところで進撃を停滞させたかに見えたが、それも束の間、少数の鋼殻竜パンツァーが防壁を乗り越えることに成功し、シタン率いる樹械兵ドライアードたちに襲いかかった。

 咆哮と金属音と血飛沫が交錯する中、シタンは鋼殻竜パンツァーの侵攻を食い止めるための策を思いつく。

 施工部隊に二樹が編成されていたセコイアデンドロンは、その巨大さゆえ防壁内に二樹分の駐樹スペースを確保できず、内一樹を施工中の水堀の傍らに駐めていた。シタンが思いついた策とは、そのセコイアデンドロンを遠隔操作し、水門を破壊することで完成間近の水堀に水を満たすというものだった。

 シタンは、防壁の頂からケテルを用いてセコイアデンドロンを遠隔操作するため、ミコトにサージェントプラナスへの同乗を求めた。しかし肝心のミコトは、凄絶な戦場の様相に怖じ気づき、その要請を拒否する。

「防壁に登るって……いくらシタンさんでも、あんな数の鋼殻竜パンツァーを突破するなんて無理ですよ!」

「サージェントプラナスの俊足があれば問題ない。大丈夫だ」

「大丈夫じゃないですよ! どう考えても無謀です!」

「しかし……やらなければならない。住民の避難には時間が必要だ。ここで食い止めなければ多くの犠牲者が出る。頼む。女神である貴公にしかできないことだ」

「僕は女神じゃありません! ……女神を、演じているだけです」

「ミコト……」

「危険すぎます……そうですよ。女神を演じる条件の一つとして、僕に危険が及ばないようにするって、シタンさんは言いましたよね」

 それを聞いたシタンは、激しい怒りの表情を露わにし、ミコトを殴りつけた。倒れ込むミコトに対し、シタンはそれ以上の暴力を振るおうとはせず、代わりに「すまない……貴公の言う通りだ……」と言い放ち、ベリンダの住民と共にミコトを避難させるよう、手近の樹士に指示した。

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