Op.17 クリファという名の少女

 半月ほどが経過し、ベリンダでの生活にも慣れてきた頃、食材の買い付けを頼まれたミコトは、商店街で屋台の店主と言い争う一人の少女を見かけた。

 年の頃はミコトと同じくらいだろうか。プラチナブロンドをツインテールに纏め、首から携帯型のラジオ受信機を下げている。

「食べなければ、人は死んでしまう」

 淡々と主張する少女に対し、屋台の店主が怒鳴る。

「そんなことは知っている! 食べるためには金がいるんだよ!」

「金は持っていない」

「だったら売れねえな」

「人は金より大事。ライドが教えてくれた。だから食べる」

「金がなけりゃ人は生きていけねえんだよ。商売なんだ。タダで配るわけにはいかねえ。こっちが飢えちまう。ほら、そいつを返しな」

「あの……」

 肉を包んだパンを取り上げられる少女を見かねて、ミコトは声をかけた。

「宿まで来ていただければ、簡単なもので良ければ作りますよ」

 横合いからの声を受け、少女はミコトを顧みた。

「簡単なものって、食べ物?」

 どこか不思議な雰囲気を醸し出すその少女が、抑揚に乏しい声で問いかけてきた。

「はい」

「行く」

 ミコトが肯定すると、少女はあっさりと同行を受諾した。少女の危機意識の低さに不安を覚えたミコトは、老婆心かなと思いつつも忠告する。

「……提案しておいて何ですが、知らない人に安易について行ったらダメですよ」

「名前を教えて欲しい」

「ミコト、ですけど?」

「クリファの名前はクリファ。これで知り合いになった。だから問題ない」

「………」

 強引に言いくるめられたミコトは、腑に落ちないものを感じながらも少女――クリファを先導し、宿舎に向かって歩き出した。

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