第二楽章 ベリンダ事変

Op.16 橋上都市ベリンダ

 アルテシア王国の北端に位置するネストは、大規模な地殻変動により、海抜千メートルほどの高さにまで隆起した台地状の島である。外縁は垂直に切り立った険しい崖となっており、加えて周囲の海域は潮の流れが速いことから、上陸は極めて困難である。

 未だ普及しているとは言い難い空路を除き、ネストに渡る唯一の手段となっているのが、ネストとアルテシア王国の本土を繋ぐ橋上都市ベリンダである。そして、海峡に架けられた吊り橋を彷彿とさせる当のベリンダこそが、ネストを唯一の生息地とし、水を嫌う習性を持つ鋼殻竜パンツァーの侵入経路と目されていた。

 ベリンダのネスト側は、高さ百メートルの防壁によって囲われている。しかし、この対策のみで鋼殻竜パンツァーの侵入を防ぐことはできないと考えられ、防壁の外側に水堀を建設する計画が立案、アルテシア王国の評議会にて即日決議された。

 極めて危険な地域での工事となることに加え、鋼殻竜パンツァーの詳細な侵入経路を調査するため、その任務には全体に渡り樹械兵ドライアードが用いられることとなり、同時に指揮官としてシタンが任命された。

 施工部隊における樹械兵ドライアードの編成は、シタンが乗るサージェントプラナス、ゼルコバ十二樹、さらに最大級の樹械兵ドライアードであるセコイアデンドロン二樹である。

 加えて、ケテルに備わっていた樹械兵ドライアードとの通信機能が部隊運用に何かと便利であったことから、ミコトも参加することになった。


          ◆


 シタンの指揮のもと、二日間の行軍を経て、施工部隊はベリンダに到着した。

「すごい……! 橋の上に街がある」

 ベリンダの威容を目にしたミコトは、驚嘆の声を上げた。

 ネストはアース文明の遺跡と鉱床の宝庫であり、鋼殻竜パンツァーとの遭遇という危険性が周知されていながらも、世界中から多くの人々が採掘に挑んでいる。そのためベリンダは、ベースキャンプの役割を担うこととなり、探検家や採掘作業員を目当てにした宿泊施設、アース文明の研究施設、鉱石の製錬所や工房、さらに各種小売店や物流ターミナルなどが、橋板の上に所狭しと建てられている。人口も増加の一途をたどっており、現在ではアルテシア王国において王都ミストルティンに次ぐ大都市となっている。

 シタンが率いる施工部隊は、宿営地の設営や部隊員の休息を済ませた後、水堀の工事に取りかかった。

 要所において土木技術者の意見を仰ぎながら、シタンは細やかな作業指示を出す。それをミコトが、ケテルを通じて樹械兵ドライアードの樹士たちに行き渡らせ、工事は極めて効率よく進められた。

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