Op.8 第十三樹械兵連隊

 アルテシア王国における支援要請の議決を見越して、シュタール連邦共和国はアルテシア王国との国境に、樹械兵ドライアード四十五樹からなる第十三樹械兵ドライアード連隊を待機させていた。

 宿営地。

 地元の子供たちと付き人の少女――クリファに弦楽器を弾き聴かせながら、アルテシア王国からの支援要請を待ち受けていた第十三樹械兵ドライアード連隊の連隊長――ライド・ルクトールは、支援要請の代わりに、女神降臨の報が持たらされたことに眉根を寄せた。

 ライドは事態の真偽を見極めるため、部下たちにアルテシア王国への進軍を命じる。

「司令部への打診は?」

 そんなライドに対し、副官のヘレン・フレーゲルが意見した。

「必要ない」

「軍規に反します。それに計画のためにも、今は視線を集める行動は控えるべきかと」

「責任というものから可能な限り逃れたがる……それが責任者という人種の習性だ。見て見ぬふりをしてもらえるさ。それに情報が欲しいのは、司令部も同じだ。俺たちの独断専行は渡りに船だろう」

 ライドは飄々と言い放つ。

(あなたもその責任者の一人でしょう……)

 心の声を呑み込み、ヘレンは反論する。

「しかし、相手国の承諾を得ないままでの越境となると、偶発的な戦闘を招きかねません。ひいては不要な戦争に発展する恐れがあります」

「不要な戦争など存在しない。戦争は起きるべくして起きるものだ。逆に言えば、起きるべきでない時は、どうやっても起こりはしない」

 告げながら、ライドは不敵に口許を緩めた。

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