Op.2 異世界からの襲撃

 タカシが研究室を後にしてほどなく、ミコトは日没を過ぎたはずの外が奇妙に明るいことに気づいた。外の様子を確認しようと、ミコトは非常階段を上って屋上に出る。

 国際リニアコライダーの測定器が設置されている施設の方から、大輪の花が天空に向かって開花するように虹色の光が噴出していた。

 壮大で幻想的な光景に、ミコトは束の間、茫然と目を奪われた。

 ふと、カチカチカチと乾いた金属音が耳に届き、ミコトは振り返った。ミコトの視線の先には給水塔があり、その側面に軽自動車ほどの大きさの物体がぶら下がっていた。整然と並ぶ鋭い牙を細かく打ち鳴らしているそれは、甲殻類を彷彿とさせる外骨格によって全身が覆われており、未だかつて見たことのない異形を成していた。

 怪物の赤く発光する二対の瞳が、ミコトを見据えた。

 次の瞬間、ミコト目がけて怪物が跳躍した。

 ミコトは理解を超える事態の連続に呆けていたが、明瞭な命の危険を感じ、あわててその場を飛び退った。一寸前までミコトが立っていた場所に着地した怪物は、態勢を整える時間さえも惜しむかのように、なおもミコトを追撃して来た。

 ミコトは足をもつれさせながら研究棟の中に入り、一目散に非常階段を駆け下りた。玄関脇の廊下に至ると、息を整えながら外を窺う。

 不意を突くように、背後で激しい破砕音が轟いた。鉄筋コンクリートの壁を易々と打ち破り、怪物が研究棟の中へと侵入して来る。

 対してミコトは、玄関から外へ飛び出すと、駐輪場のパーソナルモビリティに飛び乗った。スロットルをちぎれんばかりに捻り、パーソナルモビリティを全速力で走らせる。背後を振り返ると、鋭く尖った六本の足でアスファルトを踏み砕きつつ、猛然と追いすがる怪物の姿が瞳に映った。

 僅かな時間でミコトとの距離を詰める怪物。

 その発達した鋭利な前肢がミコトを捕らえようとしたその時、パーソナルモビリティのタイヤがバーストし、ミコトは空中に投げ出された。

 同時。

 放物線を描いて伸びて来た虹色の光束が、ミコトの全身を包み込んだ。

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