童話「ヌエ退治」

@SyakujiiOusin

第1話

              童話「ヌエ退治」


                               百神井応身


 むかしの古いおうちは、おトイレは家の外につくられていることが普通でした。

おトイレは、ご不浄(ごふじょう)という名で呼ばれていたことでもわかる通り、きれいなところとは分けられていました。

 昼間の明るいうちはよいのですが、夜になってあたりが真っ暗の中でトイレに行くのはこわいので、子供たちは寝るまえには必ずトイレにいきました。

 寝るときには、お布団の中で、お父さんやお母さんが寝物語というのを聞かせてくれて、寝かせ付けてくれたものです。

「桃太郎さん」や「さるかに合戦」や「一寸法師」や「かぐやひめ」や「かちかち山」のお話しです。

 なかには、こわいお話しもありました。お化けが出てくるお話しです。


 鵺(ヌエ)という、頭は猿、四つ足は虎、体は狸、尻尾は蛇、鳴き声が虎鶫(トラツグミ)に似ているという妖怪が出てくるのです。

 ヌエの鳴く夜はおそろしい。


 むかしむかし、「このえ天皇」のみ世で、あやしいことがおこりました。

 ある時から、「せいりょうでん」という帝がすまわれている建物に、毎晩のように黒い煙が立ち込め、不気味な獣の鳴き声が響き渡るようになったのです。

 帝は病に倒れてしまい、薬も祈祷も効きませんでした。

「このわざわいをなくすように」という命令を受けたのが、弓の名手であった源頼政(みなもとよりまさ)でした。

「よりまさ」のご先祖は、「みなもとよりみつ」といって、大江山に住んで都の民を苦しめた「酒呑童子」という鬼を退治したことで有名です。

 どんなに強いさむらいでも、化け物を相手にするには勇気がいります。

「よりまさ」は、ご先祖「よりみつ」から受け継いだ弓で、清涼殿を包む不気味な黒い煙に向かって矢を放ちました。

 すると、矢を受けた黒煙は悲鳴を上げながら鵺の姿になり、地面に落ちてしまいました。

 これにより帝の病はたちまち良くなり、よりまさはご褒美として、天皇家に伝わる宝刀の「獅子王」を授かったのでした。

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