第12話:眠れる獅子の目覚め v0.0

_エルディアン共和国、首都エルディアン 大統領府


 「大統領っ!」


 大統領補佐官が勢い良く大統領室のドアを開ける。


 「い、一体なんだね!?」


 執務机に立ち並んでいた書類の山を崩した大統領が驚いた様子で言う。


 「海戦は・・・我々が、勝ちました!」


 大統領補佐官はそう言い電文を見せる。


 「おお!やったか!」


 「この海戦で敵海上戦力の3分の1を撃滅することに成功しましたよ!制海権は拮抗状態ですが・・・それはともかく!これで敵国の領土へ強襲上陸を行うことが可能になりました!」


 「3分の1・・・か。確か敵海上戦力は6000隻近いんだろ?何か不自然だぞ・・・?」


 敵にはまだ4000隻も残っていたのになぜ進軍を続行しなかったのかが疑問に残る。


 「ま、この際どうでもいいか!それで補佐官、上陸作戦要項はいつ頃行うんだ?」


 大統領補佐官に尋ねる。


 「えー・・・。まぁ、その辺りに詳しい軍務担当大臣に答えてもらいましょう」


 大統領補佐官が言うと、誰かがドアをノックする。


 「入れ」


 大統領室に入って来たのは軍務担当大臣だ。


 「なんだ、補佐官。君は根回しがうまいじゃないか」


 「そ、それほどでも・・・」


 補佐官がもじもじする。


 「あ、いやそう言うの価値ないから。女性だったら価値あるけど・・・うーん」


 「ひ、ひどいじゃないですか!」


 大統領補佐官が叫ぶ。


 「あ、あのー・・・」


 軍務担当大臣が小声で『話してもいいか』と言う意味を込めて言う。


 「あぁ、すまなかった。作戦要項の説明、頼んだぞ」


 「はい」


 軍務担当大臣がそう言うと、執務机の狭い空間に一枚の精巧な地図を広げる。


 「それでは、作戦要項をお伝えします」


 「お、おいちょっとまて!この地図はどうしたんだ?」


 そういって航空写真で作られたであろう地図を指差す。


 「あぁ、これですか?偵察機に高高度から撮影させました」


 軍務担当大臣が言う。


 「わ、わかった・・・続けてくれ」


 航続距離の問題をどうしたのか気になるが今はとりあえず軍務大臣の説明を聞くことにした。


 「まず航空写真で得た情報ですが。おそらく敵帝都の位置は、ここです」


 そう言い山奥から伸びた河沿いにある1つの街を指差す。


 「っておいおい!近過ぎだろ!」


 その帝都と思われる町との距離は海岸から直線距離で40キロ程度しか離れていない。


 「そして現在我々軍務担当府で検討している上陸地点はここです」


 そういってすぐそばに大河がある駆け抜ければすぐに守りに入ることのできる広いビーチを指差す。


 「此処か・・・。敵戦力はどうなんだ?」


 軍務担当大臣に尋ねる。


 「はい・・・。問題はそこなのです。大統領は先ほど海戦に勝利したとの報告がありましたよね?」


 大統領が頷く。


 「その敵艦隊にドラゴン・・・まさに神話のような世界ですね。それが編入されていたんです」


 「な、なにっ!?それは初耳だぞ!」


 そういって大統領補佐官を睨みつける。補佐官の顔は『ごめんちゃい』といった感じの半分ふざけたような顔だ。


 「ま・・・まぁいい。続けろ」


 「はい。それで、おおそらく敵は航空攻撃を恐れて欺瞞工作を行っている可能性があります」


 「ほう・・・なかなか厄介だな」


 「そこでなのですが・・・」


 軍務担当大臣が一枚の写真を服のポケットから取り出す。


 「この艦の再就役許可が欲しいのです」


 大統領はその写真を見て驚く。写っていたのは数年前建造された元世界全体で最後に建造された戦艦、エルナン・コルテス級超大型戦艦だった。


 「お、おい!こいつは確か・・・記念艦になっているはずだぞ!?」


 「えぇ。そうです。だとしても、我々軍務担当府としてはこの艦艇が使用したいのです」


 軍務担当大臣は一歩も引かない。


 「・・・つまり、何か理由があるんだな?」


 大統領が軍務担当大臣に言うと、軍務担当大臣は無言でもう一枚の航空写真を取り出す。


 「これは、昨日撮影した敵国の工業地帯・・・またこの工業地帯は海軍基地を併設している可能性があります」


 大統領がその航空写真を見る。


 「ほう・・・海岸沿い、か」


 大統領が呟く。


 「現在軍務担当府では強襲上陸作戦と敵工業地帯及び海軍基地への攻撃を考えています。今まで記念艦として眠っていた超大型戦艦・・・あの船が積んでいる45口径51センチ連装砲3門の咆哮、聞きたいでしょう?」


 「聞きたい聞きたい!」


 大統領がまるで子供のような声で答える。


 「さらにこれは完全な予定なのですが・・・エルナン・コルテス級二番艦レオノーラ・ワトリングの大規模近代化改修も企画しています。まだ構成段階ですが・・・。大規模近代化改修の実施も検討していただきたい」


 「うむ、わかった。それも検討しておこう」


 「さて、今回行う一連の作戦名、いかがなされますか?」


 軍務担当大臣が尋ねる。


 「そうだな・・・安直に『アイアン・ストーム』で」


 大統領が特に悩むことなく答える。


 「わかりました。『オペレーション アイアン・ストーム』は約1ヶ月後に決行、それでよろしいですか?」


 大統領が頷く。


 「わかりました。それでは私はこれで」


 軍務担当大臣が一礼すると、そそくさと執務室から退出した。


 

_ダーダネルス帝国 帝都ディオニス、西部方面司令部



 「な・・・なんだとっ!?第二次デルタニウス王国攻略軍はたった8隻の船に敗北・・・!?2000隻も沈められたのか!?」


 魔導師からの報告を受けた西部方面司令官ゲラウスの脳内は極度の混乱に陥っていた。第二次デルタニウス王国攻略軍は西部と東部の海軍を全て組み込み編成した超巨大船団だ。それが迎撃されるなど、あり得ない。


 「そ、そうだ!あの艦隊には精鋭竜兵隊グリゴローツェラが付いていったはずだ!」


 魔導師に西部方面海軍基地に魔導電信でグリゴローツェラがどうなったか聞かせる。


 「司令官・・・グリゴローツェラは敵の放った数個の円盤飛翔物体により壊滅させられました」


 魔導師が申し訳なさそうな声でゲラウスに返答内容を伝える。海軍基地から帰ってきたのは、希望ではなく、絶望だった。


 「そ、そんなぁっ!嘘だぁっ!」


 ゲラウスは、頭が痛くなる。今まである程度の被害はあっても常にこの大陸で無敵であったダーダネルス帝国。その国がたった1つの小さな国へと派遣した超巨大船団がたった8隻の船と数個の円盤飛翔物体により決して痛くない被害を受けるなんてこと、許されるはずがない。もしこれが属国に知り渡れば、きっと謀反への足がかりとなるだろう。


 「そ・・・そうだ!これは・・・現実じゃない!実際は第二次デルタニウス王国攻略軍は敵海上戦力と衝突・・・それを完膚なきまでに、撃滅したんだ!」


 ゲラウスは現実逃避を始めた。

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