第11話:第一次ダーダネルス海峡海戦(2) v0.1

_エルディアン共和国東部海岸沖、緊急迎撃艦隊 東部海岸付近で停泊するビガス・ルナのブリッジ



 「艦長!全機収容完了しました!」


 現在敵超巨大船団へと向かった4隻のイブン・サイードと第11高速駆逐隊との距離が10キロになった頃副艦長が艦長に伝える。


 「よし!各艦に通達!単横陣で敵艦隊を攻撃!」


 『了解!』


 「艦長、よろしいのですか?単横陣は前時代的陣形ですが・・・それに第一、こんな近距離で戦う必要はないですよ!ミサイルを使えばいいだけの話じゃないですか!」


 副艦長が言う。


 「敵は超巨大船団だぞ!?しかも木造船だけで構成された船団だ!対艦ミサイルだと脅しにはなるが数が足りない!ミサイルが枯渇しちまう!それなら値段が安くつく主砲を使った方がまだマシだ!」


 「そ、それもそうですが・・・我々の乗る現代艦艇は砲撃戦を想定していませんよ!」


 「だったとしても、だ!相手が戦列艦であろうがファンタジーな船であろうがアウトレンジから攻撃すれば問題ない!そうだろ!?」


 「ま、まぁそうですね・・・」


 副艦長は何か言いたげな顔でこちらを見てくる。


 「ですが、敵は超巨大船団。侮ってはいけませんよ?」


 副艦長が忠告の意を込めて一言放つ。


 「わかってるって」



_同艦隊、イブン・サード級ミサイル駆逐艦一番艦ネームシップイブン・サイードのブリッジ



 「艦長!ビガス・ルナから連絡!『単横陣を取り砲撃体制に移行した後各自好きなタイミングで砲撃を開始!』です!」


 「了解した!各員第1種戦闘配置!砲塔要員はステルス砲塔を起動させろ!すぐに砲撃戦を始めるんだ!遅れを取るなよ!」


 『了解!』


 ブリッジ内にクルーたちの声が響く。


 「操舵士!船首回頭右15度!」


 『了解!』


 操舵士の声がブリッジに響く。


 操舵士の号令とともに艦長らの乗るイブン・サイード・・・いや、旧式のマリーア・デ・ヴィロタ級4隻とイブン・サイード級4隻で構成された即製駆逐艦隊全体が一斉に舵を右に取る。ビガス・ルナの通達通り、促成駆逐艦隊は超巨大船団を左に捉える形で単横陣を取った。


 「第11高速駆逐隊から連絡!砲撃を始めるとのことです!」


 無線員がそう言った直後にマリーア・デ・ヴィロタ級4隻の127ミリ単装砲が一斉に火を噴く。


 「やはりレールガン装備のイブン・サイードより砲撃までの所要時間は短いな」


 艦長がそう言って双眼鏡を取り敵超巨大船団を見る。マリーア・デ・ヴィロタ級4隻の127ミリ単装砲が発射した4つの砲弾は10キロ先の敵艦隊まで一直線に飛翔。戦列艦の一隻に吸い込まれるように着弾する。・・・が、戦列艦は何事もなかったかのように航行を続ける。


 「やはり情報通り、敵艦隊は電磁バリアのようなものを有しているか・・・」


 艦長が呟く。


 『ステルス砲塔起動完了!』


 ブリッジに砲塔要員のステルス砲塔の起動完了が伝わる。


 「他のイブン・サイード級3隻も砲塔起動完了とのことです!」


 無線員が続けざまに報告する。


 「よし!次は俺たち新鋭艦隊の出番だ!全艦、レールガン発射準備!」


 艦長のその合図で艦内電力がイブン・サイード級の有する2基のステルス砲塔型レールガンに注がれる。


 『電力充填中!充填完了まで・・・3、2、1!充填完了しました!』


 砲塔要員が報告する。


 「他の艦も電力充填完了!」


 無線員も報告する。


 「よし!各艦レールガン斉射!」


 ゴォォォン!


 レールガン発射時に放つ独特の砲声が艦隊、そして敵巨大船団にまで響く。イブン・サイード級4隻が放った8発にも及ぶ砲口初速が音速の10倍にまで達する砲弾は一瞬で敵艦隊まで到達。着弾と同時に電磁バリアのようなものが現れたがそれを物ともせずに砲弾は貫通、敵戦列艦を轟沈させる。それどころか戦列艦を貫通しその後ろにいた多数の木造船を巻き込んで破壊し続け結果的に一度の砲撃で200隻近い木造船を沈めることに成功する。


 「やったぞ!敵超巨大船団の電磁バリアはレールガンなら貫通できる!この情報を得た以上この任務を成せるのは我々イブン・サイード級のみだ!各艦好きなタイミングで発射!できる限り敵艦隊を殲滅するぞ!」


 『了解!』


 各艦から無線で返事が届く。



_超巨大船団を指揮する司令官マクダネル視点



 「っ!?敵は我が艦隊よりも遠くから狙うことができるのかっ!?」


 双眼鏡で敵艦隊を観察していると、敵8隻のうちの4隻に置かれた巨大な1つの砲が一斉に発砲する。その砲の放った砲声は5ラージ(10キロ)も離れたこちらの艦隊まで響く。その数秒後こちらの艦隊まで到達した砲弾は先頭を航行していた30隻の戦列艦うちの1隻アエギスに着弾。爆煙が上がる。その爆煙を見たマクダネルは驚く。


 「て、敵艦は爆裂砲弾をすでに開発していると言うのかっ!?」


 爆裂砲弾は帝国ですらまだ開発できていない開発段階の砲弾で着弾と同時に爆発する砲弾である。このことはマクダネルが技術格差を感じるのに十分な材料だった。


 「戦列艦アエギスから連絡!敵の攻撃を防いだとのことです!」


 側に立つ魔導師が報告する。


 「それは良かった・・・なんとか一方的な戦いにならなさ」


 言いかけたところ魔導師が付け加える。


 「その結果、同船の魔導師は全滅。防御機能を損失しました」


 「っ!?」


 ゴォォォォン!


 船団にとてつもなく大きな砲声が響く。


 「こ、今度はなんな」


 言いかけた瞬間、戦列艦の一隻が爆散する。


 「な、なにっ!?魔導バリアを貫通された!?」


 圧倒的初速。それが成し得なければ魔導バリアを破壊するのは不可能なはず。そんな攻撃を敵が放つのは特大魔法でもない限り不可能なはずなのだ。それを敵艦隊は、やって見せた。その結果先陣にいた戦列艦マーギの魔導バリアは衝突に耐えきれず崩壊。維持をしていた魔導師はその崩壊の衝撃でミンチとなる。それでも速度を保った敵の砲弾は戦列艦マーギを貫通して後方を航行していた多数の木造船を薙ぎ払う。この攻撃は何としても防ぐ必要がある。でなければ攻撃を受け止める艦艇が全滅してしまう。それはすなわち船団の防御機能喪失へと繋がるのだ。


 「大砲の射程にはまだ入らないのか!」


 焦りが限界に達し行き場を失った怒りが射撃要員に向けられる。


 「まだ射程距離に入ってないんっすよ!あと4ラージ(8キロ)は近づかないと!」


 射撃要員がとっさに答える。


 「それだと船団が一方的にやられてしまう!すぐに砲撃するんだ!」


 「そりゃ無茶ですって!」


 ゴォォォォォン!


 また敵艦からあの攻撃が放たれた。それと同時にまたも魔導バリアを貫通した砲弾が戦列艦マーチスを切り裂き、戦列艦マーチスは一瞬にして轟沈する。


 「む、無理だ!一方的にやられちまう!」


 船員の一人が叫ぶ。


 「一体・・・一体、どうすればいいんだ!」



_緊急迎撃艦隊、イブン・サード級ミサイル駆逐艦一番艦ネームシップイブン・サイードのブリッジ


 「敵電磁シールドもどきに対する攻撃、効果確認!」


 ブリッジ外から双眼鏡を覗いて敵への攻撃効果を確認している観測員が報告する。


 「よし!全艦射撃を続行!この調子で数を減らすぞ!」


 『了解!』


 ゴォォォン!


 同型艦が再度レールガンを放ち、また敵船団の戦列艦などを一瞬にして破壊。多大な損害を出すことに成功する。が、


 「三番艦マリア・バスコ再度電力充填を開始します!」


 通信要員が報告する。


 「やはり現在のレールガンでは連射能力に限界があるか・・・」

 

 艦長が呟く。現在エルディアン共和国軍の採用しているレールガンでは電力充填後最大で3発、通常は2発までの連射が可能だがそれ以降は電力が枯渇し再度電力充填が必要となる。そのため長期戦には不向きで、本来ならレールガンはその長大な射程を用いた遠距離戦を得意とする。それが今回近距離戦に投入されたことにより敵超巨大船団に隙を与える原因になってしまった。


 ゴォォォン!


 「二番艦ダニ・ペドロサも再度充填開始!」


 再度無線員からの報告がブリッジに響く。


 「無線要員!第11高速駆逐隊に援護射撃を要請!電力充填完了まで援護射撃を行わせろ!」


 「了解しました!」


 その通信を受け取った第11高速駆逐隊のマリーア・デ・ヴィロタ級4隻の127ミリ単装砲が火を吹き、再度敵艦隊めがけて飛翔。着弾する。その1発は偶然にも初めの攻撃で防御機能を失った戦列艦アエギスに着弾、それを轟沈させる。


 「ん?127ミリでも破壊できるのか?」


 その様子を偶然見た艦長が言う。


 「無線要員!」


 「はい!」


 「第11高速駆逐隊に同じ目標を集中攻撃するように指示しろ!」


 「は、はぁ・・・ですが意味がないのでは?」


 先ほどからずっと第11高速駆逐隊の攻撃が効いていないことを知っている無線要員は答える。


 「だとしても、だ!」


 「りょ、了解しました!」


 無線員が無線で第11高速駆逐隊に伝えた後、同部隊はすぐに攻撃目標を共有、すぐに一隻の戦列艦への集中攻撃を開始する。


 「おぉ!」


 第11高速駆逐隊の放った4発の127ミリ砲弾は少しのタイムラグを置いて戦列艦に着弾。1発目の砲弾が着弾したことにより戦列艦の魔導バリアは崩壊。さらに続けざまに飛翔した127ミリ砲弾は完全に戦列艦を破壊した。


 「どうやら敵の電磁シールドは127ミリ砲弾1発で無力化ができるようだな!無線要員!この情報を第11高速駆逐隊に伝えろ!」


 「了解しました!」


 「戦況は優勢・・・か」


 敵船との距離が5キロまで迫った現在の戦況は一方的で、目視で確認できるだけで既に敵超巨大船団は2000隻程度は沈んでいるようだ。


 「このまま何事もなければいいが・・・」



_超巨大船団を指揮する司令官マクダネル視点



 今彼は、決断に迫られていた。この船団の前に展開している2000隻以上の仲間の船を葬り去った正真正銘の化け物を相手に無謀な突撃を続けるか。それとも、撤退するか、と言うことに。


 「司令官!撤退すべきです!今撤退すれば、間に合います!」


 そばにいる魔導師が言う。


 「あぁ、そうだ!だが、今撤退したらどうなる!ここまでやってくるまでに死んだ仲間の命は!これだけ大規模な動員をして戦果が出せず一方的にやられました、なんて報告できるのか!?」


 魔導師に言い返す。


 「そ、そうですが・・・」


 その時、船内へと通じるドアから一人の男が出てきた。その男の顔は涙で滲んでいる。そして出てきた瞬間、彼はこう言った。


 「て、撤退だ!お、俺は死にたくない!」


 その者・・・いや、司令補佐官が目一杯の大声で叫んだ。


 「き、貴様!いったい何をいって」


 「黙れ黙れ黙れ!俺はこんなところで死にたくないんだ!魔導師!全艦に通告!撤退だ!」


 そう言われた魔導師はすぐに全艦に撤退命令を出す。


 「お、お前!そ、そんなことをしたら・・・!」


 バァァァァァン!


 その瞬間、旗艦の200門級戦列艦コートリアスで銃声が鳴り響いた。司令補佐官がはるか遠方で購入した護身用拳銃の放った凶弾は恐ろしいまでの命中精度でマクダネルの脳天に命中。彼を即死させた。


 「こ、こいつは死んだ!お、俺がこれからこの艦隊の指揮を執る!だ、誰も異存は、な、ないな!?」


 初めての人殺しをした司令補佐官は漏らしながら叫ぶ。


 「な、なら、いいんだっ!そ、それなら全艦!撤退だ!てった、撤退!」


 司令補佐官はそう言うと、声も言わなくなった司令官マクダネルを証拠隠滅のために海へと投げ落とす。


 『全艦、撤退!撤退だ!』


 同船に乗船していた魔導師が魔導電信で伝える。


 『て、撤退!?いったいなぜだ!?』


 疑問を持ったある一人の魔導師が


 『司令補佐官が司令官を殺りやがった!』


 『あ、あいつはバカか!?』


 魔導師が返信してくる。


 『バカかもしれない!だが今の司令補佐官に逆らったらまずい!とにかく撤退だ!』


 「まさか、こんなことになるなんてな・・・」


 魔導師が呟く。司令補佐官の命令通りこの超巨大船団は何の成果も得ることなく元来た道を帰るかのように反転、文字通り撤退した。



_同艦隊、イブン・サード級ミサイル駆逐艦一番艦ネームシップイブン・サイードのブリッジ



 「か、艦長・・・!敵超巨大船団・・・反転しています!」


 観測員からの報告にブリッジ内がざわつく。


 「わ、我々は・・・勝った・・・のか?」


 艦長が呟く。


 「そ、そうです・・・!艦長!敵超巨大船団の艦艇全てが反転しています!我々は・・・勝ったんです!」


 その瞬間、ブリッジ内で歓声が起こった。それはどの艦も同様で、みな抱き合った。


 結局この第一次ダーダネルス海峡海戦はたった1人の裏切りにより、終結した。そして同時に、この情報は遅れて異世界全ての国に伝えられることになる。

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