3年N組のっぺらぼうびんびん物語☆ウォーズ

ちびまるフォイ

先生のように誇れる顔になってみせるよ!

「おい、斉藤。お前まだ進路出してないのか」


「出したじゃないですか。

 金八先生DVDボックスと、GTOの漫画全巻」


「漫画とDVDを進路相談用紙の代わりに出すとか

 先生のキャパシティを超えるような提出を提案するなよ」


「先生、俺は教師になりたいんです!!」


「……なるほど。お前、教職課程は取っているのか?」


「フッ。先生、子供扱い辞めてください。

 給食なんて小学校で卒業しましたよ」


「あ、こいつやべぇ奴だ」


先生の根回しにより、斉藤(進路未定)は特別学校の臨時講師として派遣された。

そこの学校で生徒を受け持つことで教職課程が無くとも教師になれるという。


「みなさん、おはようございます。

 今日からみなさんの担任となりました斉藤です!

 気軽にジョニーデップと呼んでくださいね!」


意気揚々と昨日の夜に考えたクソ寒いギャグをぶちかましたが、

それ以上に教室は異質な空気に包まれていた。


「な、なんだコイツら!?」


「先生、生徒の顔を見てコイツらは無いと思います」


「今誰がしゃべった!? どいつがしゃべったんだ!?

 みんな顔が無いからまっったく見分けがつかない!」


生徒は全員のっぺらぼうだった。

同じ服を着て似たような髪型をしているから、

大型アイドルユニットのメンバーよりも見分けがつかない。


「先生、ここです。私がしゃべっています」


「お、おお……君が、委員長なんだな。

 口がないから誰が喋ってるのかわからなかったよ」


「音の方向で察してください」

「反響音で位置把握するよりも難しいわ」


「先生、座席表見ながら話すのは態度としてどうなんですか?」


「だってお前ら見分けつかないんだもん!!」


かくして、のっぺらぼう学園での臨時教員生活が始まった。

生徒たちを無事卒業まで送り届けられれば、晴れて教員免許を獲得できる。


ただ、問題なのは見分けがつかない点。


「出席を取るぞ。大田」

「はい」


「神埼」

「はい」


「木島」



「木島?」


木島の席は空席だった。

欠席にマークをつけようとすると、教室中がどっと湧いた。


「先生、なんで気づかないんですか?

 木島くんは出席して、大田くんの席にいますよ」


「欠席した大田くんの代わりに返事したのに

 先生ったら全然気づかないんだもん~~」



「わ、わかるかぁ!!」


思わず出席簿を四つ折りにしてしまった。

髪型と体つきを舐め回すように見ていたかいもあり、

女子の判別はそれとなくつきはじめたが、男子はまだ区別できない。


そこで、一人づつ面談をすることにした。


「神埼は最近悩みとかあるのか?」

「悩みッスか、いや特にないッス」


「部活はどうだ?」

「野球はまぁ、楽しいッスよ。ベンチッスけど」


「……それじゃあ、好きな人おるん?」


「修学旅行か!!」


一人づつ面談したのはいい効果をもたらした。

まったく顔のない有象無象の集まりだったクラスが、

今ではそれぞれの悩みを持つ個々人だと認識できるようになった。


「山田」

「はい」


「今のは山田じゃないだろ。先生をからかうんじゃない。

 もっと山田は語尾にデュフフとか言うはずだ」


「バレたか。もう先生にこの手は使えないな」


生徒を認識できるようになってからは、

展開の都合上あっという間にときが過ぎて卒業も間近に迫っていた。


担任としての自覚やクラスの一体感も出てきた頃。


「大田」



「……大田?」

「休みでーーす」


「またか……」


もともと休みがちだった大田は卒業が近くなるにつれ、

ますます学校に顔はないけど顔を出さなくなった。


「先生、大田くんどうしたんですか?」


「ちょっと、様子見てくるよ」


デカいしゃもじを持って晩ごはん時に大田宅へ突撃することに。


「あらあら、先生。ようこそいらっしゃいました」


「あれ? 大田さんのお母さんですか?

 しっかり顔あるんですね」


「やだわ、先生。美人だなんて」

「言ってないです」


「息子は2階にいます。でも部屋は鍵がかかっています。

 なかなか部屋から出てこなくて困ってるんですよ」


「そうだったんですか……」


2階に上がって部屋をこじ開けると大田が驚いた。


「せ、先公! なんだよいったい!?」


「突撃!となりの家庭訪問だバカやろう」


「バカ野郎はお前だろ!」


「うるせぇ、大田。お前の悩みを聞き出すまでは

 先生ここから動かないからな。トイレもここでする気だからな」


「手口が人質立てこもり犯のソレじゃねぇか」


斉藤先生の心に響く言葉により大田は心の扉を開けてくれた。

ぽつりぽつりと抱え込んでいた悩みを打ち明け始める。


「実は……俺、卒業が怖いんだよ」


「それはまたどうして?」


「のっぺらぼう学園では学園卒業と同時に顔を彫るんだ。

 でも、どんな顔になるかは卒業するまでわからない。だから怖いんだよ」


「それで、お前のお母さんは顔があったのか」


「俺たちは顔がないから、お互いの心で通じてたんだ。

 それなのに顔があったら見た目で判断されちまう!

 もしブサイクだったらどうする!? 人生ハードモード確定じゃねぇか!」


「バカやろう!!!」


パァンと、乾いた音が部屋に響いた。


「今、お前の頬をひっぱたいた意味がわかるか。この意味がお前にわかるか!!」


「……俺の弱気を叱るために……?」


「ちがう!! なんかグチグチ言っててムカついたからだ!」

「お前、教師としてどうなんだよ」


「しかしな、大田。たしかにお前の言うように、

 人間の第一印象は顔でほとんど決まるといってもいい。

 イケメンに許されて、ブサイクに許されないこともたくさんある」


「やっぱりな。だから嫌なんだよ。人間大事なのは中身だろ。

 顔なんていう障害物で中身が伝えられないなら意味ないじゃないか!」


「大田、こうは考えられないだろうか。

 中身と同じくらいに、顔も大切な人間の一部なんだ。

 お前という人間は心だけじゃないだろう?」


「先生……」


「お前は足が早い、それも特徴じゃないか。

 成績はちょっぴり悪いかもしれない。それも特徴だ。

 顔もお前を形作るひとつにしか過ぎないんだよ」


「……」


「お前が卒業でどんな顔になったとしても、

 お前の中身を見てくれた人は、お前の特徴がひとつ増えたところで

 嫌いになったりするものか」


「先生……! 俺、やっぱり卒業式に出るよ!

 そして、どんな顔でも胸を張って、これが俺だって言える人になるよ!」


「そうだ! 自分の顔を誇らしく見せてやれ!!」

「はい!!」


先生と生徒はがっしりと握手をした。

そのまま水平線に沈む夕日を追いかけて土手を走り、卒業式の日を迎えた。


「それでは卒業生代表、大田くん」

「はい!!」


卒業により顔を得た大田は壇上に上がって代表の挨拶をした。


「私はこれまで顔を得るのが怖いと思っていました。

 人は見た目でしか判断しないと、勝手に思い込んでいたからです。

 でもその考えこそが見た目ばかり気にしていた考えだと気づきました」


卒業生や教職員は涙を流す。


「今日、私が手に入れたこの顔がどうであったとしても

 社会に出ても"これが自分の顔"だと誇れるような立派な人間になります!!」


卒業式の会場は拍手で包まれた。


大田は一番に感謝したい相手を壇上から探したが見つからない。


「校長先生、斉藤先生はどこにいますか?

 もう顔を見せても恥ずかしくない人間になったと伝えたいんです」


「大田くん、君は朝のニュースを見ていないのかね?」


校長先生はスマホを取り出して画面を見せた。





『教職員志望の男性・S 電車内痴漢で逮捕』



先生の顔にはモザイクで顔が隠されていた。

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