第56話 数時間振り、中分けと最強。

「『無間地獄』から抜け出すには神と同様の力で天井を破壊し、すぐに飛び立たなければならない。俺が屋上まで送ろう。」


「神の力って…俺は『太陽』の力だし、閻魔さんは『元魔王』だぜ? どうやって神の力で天井を壊すんだよ?」


「俺が神になれば良い。」


 閻魔のとんでもない驚きな発言に対し、修二はポカーンと理解できず思考停止し呆然としていた。


「説明不足だったな。俺の力は『魔王』を超えた『魔神ましん』の力がある。俺は産まれた時から『魔神』になる事は決定されていた。けれども、皆のお陰で極道になれて更には会長にもなれた。運命は何時だって変えられる事が分かった。」


「どうりでインチキみたいな能力とか持ってんだな。」


「インチキって…まあ、人間からすればインチキになるのかもな…。」


 修二の何気ない言葉で、妙に納得してしまった冷静な閻魔だった。


「良し、『魔力』は充分にある。品川修二、君だけ特別に“本気”を見せる…『魔神覚醒ましんかくせい』!」


 体から漆黒の魔力が閻魔を覆い尽くし、巨大な球体で構成された。そして球体は一人でに亀裂が入り、数秒経つと形を崩し始め、勢いよく砕けた。

 その中から蝙蝠の翼を展開させ、禍々しくオーラをバチバチと放ちながら出現した。


(す、スゲェ! 今まで忍とか幻魔の圧力は感じてたけど、この人のは異質過ぎる。良い例えが浮かんでこねぇけど、目の前に広大な海が広がっている感じだ。)


 それだけ閻魔から放たれていた『魔力』は近くにいる者にも影響していた。

 修二の場合は軽い症状だったが、やはり目前にいる者は桁違いだった。


「本来なら天井に向かって力を放つのだが、また誰かが落ちて来ては面倒だ。君だけに俺だけの技を見せてやろう。」


 そう言うと閻魔は右手片手に膨大な『魔力』を凝縮させ、溜めていた。十分に『魔力』が溜まったのを確認すると、叫んだ。


「『龍魔砲りゅうまほう』!」


 右手から放たれた『魔力』の衝撃波は龍へと形を成し、一直線に空へと飛翔した。

 龍は天井に激突すると空に酷似した岩を破壊し進み、天高く上昇していた。


「良し、行くぞ。」


 すると閻魔は飛翔するため、修二に左手を差し出した。

 修二は緊張し固唾を飲みながら、閻魔の差し出された左手をガッチリと掴んだ。

 掴まるのが確認でき、閻魔は大きく翼を羽ばたかせ『無間地獄』から光の如く『地獄』まで脱出した。


 二人は『地獄』まで辿り着き、閻魔はゆっくりと地面へ着地し、辺りに忍がいないか確認すると…


「おう! 意外と早かったな、もっと時間が掛かると思ってたのに。」


 声が聞こえた方面へ体を向けて、二人は盛大に呆然としていた。

 理由は忍が地面に寝そべりながら、気だるげな様子で、最近のファッション雑誌を読んでいたからだ。


「何やってだテメェー!」


 今まで苦しい思いをして閻魔と一緒に必死な思いで『無間地獄』から脱出したのに対し、忍はこの態度である。


「久し振りだな、神崎忍。遠くから見ていたが幻魔に対して手加減していたな? 何があった?」


 閻魔は怒っている修二を無視し、普段の調子で忍に話かけていた。


「えぇ…閻魔さん? あの態度に対して怒らないのですか?」


 修二は頭が真っ白な状態で、分かりやすく動揺し、閻魔へ忍の態度について追及していた。


「そんな事を言ってもアイツが態度を変えると思うか? あのセンスが残念で、年がら年中インスタントラーメンが好きで、思考回路がおかしいサングラス野郎に今更、何を言うんだ?」


 閻魔は辛辣な言葉を三つぐらい並べて、忍へ攻撃していた。


「うるせぇな。会議に出ず、ずっとバイクばっかチューニングしてスピード違反して、免停何回も受けてる癖に良く人の事言えたよな?」


 流石にやられっぱなしではない忍だった。やられたら何倍返しにしても、閻魔にやり返していた。


「お前こそ、何時になったら相応しい彼女ができるんだ? まあ、お前の嫌味に対して耐えられる女性がいれば話だがな」


 修二はただ二人の口喧嘩を弁護士として見守るしかなかった。


「テメェこそ、着物ばっかで普段着がスーツしかねぇケチ会長がよ。その度にスーツをボロボロにして帰って来やがって、作ってる人の事を考えろよ」


「…数年振りとは言え、俺にも面子という物がある。あっちに行って決着をつけよう」


「良いぜ、本気出せよ」


 いい加減、互いは過去を色々と暴露し飽き、遂に修二だけには、見せなかった本気の喧嘩が始まった。

 二人は修二を巻き込まない様、遠く離れた場所へ殺意だけ剥き出し、静かに向かった。

 そして修二がハッと意識を取り戻し、止めに入ろうとした瞬間…

 既に遅く、耳をつんざくような轟音、目が一瞬で蒸発するような閃光、皮膚まで伝わる冷気と熱気、世界さえ破壊するような地鳴り、まるで第二次世界対戦が始まった感覚だった。


 そんな修二は目を点にし、茫然と二人の喧嘩が終わるまで待つしかなかった。

 修二が暇そうに忍が置いていたファッション雑誌を読み、時間を潰していると二人が戻って来た。


「どうだった二人共…ってスゲェ暴れたんだな」


 気だるげに修二はふと顔を上げ二人の様子を見て再び茫然とした。

 二人の体は傷だらけで、頭からは微量に出血し、顔と体は青アザばかりで埋め尽くされ、頬も大きく腫れていた。

 閻魔の『魔神覚醒』は途中で効力を失い、通常通りになっていた。


「俺が勝った!」


 同時に二人が同じ事を言ったので勝負は引き分けと判定された。


「それよりさ、この修行って俺が幻魔を倒すために『覇気』の使い方を学ぶ物だよな? なんでテメェ等の喧嘩で待たされてる訳なんだ?」


「コイツとは因縁があるからだ」


「まあな」


 当然だろうという何故、そんな自慢気に話す必要があるとツッコミたかった修二だった。が、そこはなんとか大人として、敢えて堪えて理由を聞こうとした。


「因縁ってなんだ? 閻魔さんが変な事して忍に陰湿な嫌味でも言われたとか?」


「コイツが神だからだ」


 どうせ軽い口喧嘩みたいな事で大きな喧嘩になったんだろうと言う。曖昧で極端な考えをしていて修二は、忍の口から有り得ない言葉が出て唖然としていた。


「え? か、神って…でも、閻魔さんは『魔神』って言ってた…はず」


 修二は信じていない疑った表情で閻魔に指さし、目で忍に確認を取った。


「閻魔光は半分が『魔神』、もう半分が『神』の特殊な存在だ。その理由わけでコイツとは関わるなと念押しされている」


「ヤクザっていう理由で近づきたくなかったんだと思ったぜ。まさか閻魔さんは神様だったとはな…」


 修二は未だに閻魔が神様だと、信じられない疑いの目でマジマジと見ていた。


「ヤクザっていう理由で嫌う事は無いが、事情が事情だからな…だが、俺が狙っている『神』ではないのは確かだ。けれども仲の悪さは見た通りだ」


 忍は戦闘の疲れで説明を所々は省きながら、何も知らない修二に教えていた。


「なんで仲悪いんだ?」


 今まで忍と閻魔の仲が悪い理由について修二は尋ねてみた。


「コイツが経営してる店で、俺に絡んで来た失礼な客を半殺しにしてから仲が悪くなった」


「俺が対処すると言ったのに、聞かなかったからだ。まあ、あの失礼な客は周りにも苦情が来てたから一件落着だったが、納得できなかったから喧嘩になった」


 閻魔の良く分からない理屈で、仲が悪くなったと言う理由で修二の頭は熱気を帯び、難しく考えるのは止めた。


「今、思い出したらムカついて来た。おい、もう一度あっちでやろうぜ」


「あぁ、良いだろう。今度は引き分けでは終わらんぞ」


 再び良く分からない理屈で喧嘩を始めた二人は修二から離れた場所へ向かい、第三次世界対戦を始めた。


「駄目だ、こりゃあ」


 修二は漫才の落ちでもある台詞を落ち込みながら吐いて、苦悩さで頭痛が襲った。

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