第55話 明確な思い。

(俺の『太陽の覇気』と経験で何処まで戦えるのか分からねぇが、この人は幻魔みたいに戦いを楽しみ殺す悪魔じゃない。だが、異常すぎる! 神崎忍が恐れていたのは、こういう事だったのか!?)


 修二は頭と心で理解してしまった。閻魔の正体不明な攻撃に色々と思考を張り巡らせて対応しようとしていた。


「考えるのは自由だが、悠長に敵は待ってくれない。」


 そう言うと再び閻魔は突っ立て修二だけを見て何もしなかった。が、修二は再び構え対峙しようとした瞬間、閻魔の膝が顎まで近づいており、マトモに顎へとダメージを受けた。

 その瞬間、修二は白目を向き意識が失いかけた。が、なんとか意識を早く取り戻した。


「…強い。」


「そうじゃない…お前が弱いだけだ。」


 修二の小さな呟きに対し閻魔は聞こえていたのか否定した。


「…あのさ、冷静な顔でさ悪口言うの止めてくれねぇか? なんか俺を諦めさせるみたいな感じでやられるとよ…こっちも我慢できねぇんだよ。」


 修二は一々何かと突っ掛かる閻魔に対し怒りを露にし、少し強めで言い睨んでいた。


「そうか。なら言われない様にしたらどうなんだ?」


 閻魔は極道として悪魔としての正論を修二にぶつけた。閻魔にとって修二みたいな普通の人間としての考えは思い付かない訳ではなく、それが無いのだ。

 決して安全という戦いが無いのは修二だって理解している。が、修二が閻魔に恐怖を抱いていたのは心が読めず、殺意があるのか敵意も全て不明な為、動きを先読み出来なかったからだ。

 それが修二をイライラさせ、更には心が焦っていた。


(考えても仕方ねぇのは当たり前だが、本能的に動いてもアッチの方が早い上、動きが全く見えねぇ…神崎忍に倒せたって自慢してやろうかと思ったが、そんな簡単にっていう訳には行かなそうだ。)


 考えが纏まると修二は肉弾戦を諦め、静かに深呼吸し、四肢へ『太陽の覇気』の炎を纏った。


「その『太陽』で悪魔を倒せるか?」


「そんなのはやってみなきゃ分かんねぇだろうがよ!」


 修二は閻魔から先手を打たれる前に、自分が限界まで出し切れる速さで拳や蹴りを繰り出した。

 先程までは閻魔が攻めていのを今回は先に、修二が攻め始めた。


「亀以上に遅い攻撃だな。」


 だが、閻魔にとっては荒々しい修二の攻撃全てが忍みたいに防ぐ事はせず、小さな動きだけで避けるだけだった。


(嘘だろッ! こんだけ攻撃すれば当たらなくてもかすりはするだろ!)


 五年間、忍の対決だけを目的とし輝と接近格闘は一通り鍛えられ、ある程度の『覇気使い』なら一撃で倒せるぐらいには成長していた。

 けれども修二の前にいる閻魔は赤子の手を捻るぐらいという軽い気持ちで相手していた。


「これは神崎輝の動きだな…成る程、お前は普通の人間とは違う素質があるようだ。だが、幾ら綺麗な格闘でも…ヤクザの俺には勝てない。」


 そう告げた閻魔は右手で修二の前髪をガッチリと掴み、下へ引き寄せ、勢いよく右膝蹴りが迫り、鼻へと直撃した。

 鼻にダメージを負い、閻魔から解放された修二は苦悶の表情を浮かべ、右手で気休め程度で右手を使い抑えていた。


「ちゃんと明確な思いを持たないと…俺みたいに“暗く先が見えない修羅の道”に辿り着いて後悔するぞ。」


 閻魔はスラックスズボンのポケットに両手を突っ込み、何もない空虚な暗い空へ見つめ、修二に失敗談を後悔していそうに話していた。


「じゃあ、テメェは後悔してんのか? 俺に何を教えてぇんだ! 魔界連合の会長が、ただ戦って試したい俺に何を教えてぇんだ!」


 意図の分からない閻魔の質問に対し、修二は睨みながら怒号で聞き返した。


「…すまないな。これは俺の悪い癖だ、何時も過去を振り返って、これで良かったのか? アレで良かったのかと相手に話してしまう。失敗談が深すぎる証拠かもな…。」


 閻魔が目を閉じた隙に修二は立ち上がり、顔の所まで飛び、仕返しとばかりで後頭部目掛けて右膝蹴りを繰り出した。


「俺なら音を立てずにやれる。」


 だが、閻魔は修二の行動が分かっていた様子で頭だけを右へ避け、力の抜けた左裏拳を繰り出した。

 裏拳をマトモに喰らった修二は大きく吹っ飛ばされ、背中から大樹にぶつかった。修二はあまりの痛みに耐えきれず身体を休ませて閻魔を見ていた。


「…今のは怒りに支配されて攻撃しただけだ。明確な目的と思いが感じられなかった。」


「そんなに思いが大切なのかよ! あくまで試しだろうが。」


 そんな事を言うと修二の顔スレスレで閻魔から左足が飛び、大樹に当たっていた。


「甘ったれるなよクソガキ! 悪魔と極道の戦いに試しとクソもねぇんだよ! 実践は実践だ! 命を取り合う戦いに練習なんかねぇんだよ!」


 ここで閻魔は修二の甘い考えに対し、さっきまでとは冷徹な感じではなく、想いがある怒号で反論していた。


「テメェ等の勝手で俺達は喧嘩売られて、更には甘ったれるな? ふざけてんのはテメェの方だろうが閻魔光!」


 修二は逆上し、これまでの理不尽な経緯に対し閻魔へ不満をぶつけていた。


「…だが、奴等はそうとは思っていない。奴等は必ず俺と戦う為に見せしめとして人間達を滅ぼし、邪魔な『覇気使い』を殺し…そして『魔界連合』と戦争する気だ。先に鬼塚達が動いていたが、神崎忍が勝手に助太刀を断った。」


 閻魔から忍の知らない真実を知り、分かりやすく目だけ見開き呆然と驚愕していた。

 それより長年に渡り『地獄』へ閉じ籠っている閻魔が外部の情報を熟知している事にも疑問が生じた。


「神崎忍は変わったな。何時ものアイツなら『魔導使い』を全て倒せば終わる物を、負けたお前にケジメを着けさせるため、幻魔たちを見逃し、身さえ削りながら、ここまで来た…その意味が分かるか?」


「……。」


「そこまで信頼しているんだ。自分自身しか信じず、全ての頂点に君臨し、奴の前に立つ者は全て倒し、それでも復讐だけの思いを募らせ強くなり、魔王と神に近づいた。だが、お前との出会いで奴は変わった。あの五年前でお前が『覇気』を犠牲にし終わらせた『覇気使い戦争』、あの事件で奴には破滅から救済に変わった。」


「どう言う事だ?」


 修二は入院してから決闘状を渡すまで忍と関わっていない為、その空白の期間までは知らなかった。


「…あのまま、お前が負けて考えが変わらなければ俺が直行し始末していた。柏木レンと桐崎流星が、わざわざ本部まで来て俺に土下座して神崎忍の暴走を止めたかった。だが、お前の介入により俺は手を出さずに済んだ。」


「師匠が…。」


「あの二人は神崎忍が死ぬ事もお前が死ぬ事は嫌だったのだろうな。だが、勝ったお前には感謝しているし期待もしている。」


「……。」


 修二は黙々と閻魔の話を真面目に聞き、可笑しくなったのか鼻で笑っていた。更には腹を大きく抱え笑い転げていた。


「?」


 閻魔は理解できなかったのかキョトンとした顔で見ていた。


「何やってんだろうな俺…。こんなにも皆に大切にされてた事に気づかず、俺だけ戦ってるみたいになっててよ…ありがとう閻魔さん、お陰でスッキリしたぜ。」


 笑うのを止め修二は立ち上がり、閻魔から大きく離れた。キレのある綺麗な動きで戦闘態勢に入り、閻魔を敵意がある目付きで見ていた。


(さっきと雰囲気が変わった。流石だな、お前達の弟子達は…俺もそちら側にいたかったよ。)


 閻魔は成長した修二を見て微笑ましく思い、桐崎と柏木が羨ましく思った。

 閻魔は木から足を離し、何も構えず修二を見ていた。


「行くぜ!」


 修二は全速力で走り、右拳を引きストレートの構えで攻撃しようとしていた。十分、閻魔の攻撃範囲まで近づき修二は右ストレートを放った。

 閻魔は何時も通りに避ける事を選んだ。が、修二の右ストレートは思ったより早く、避ける暇も無かった為、左手を出し防御したのだ。


「遂に手ぇ出したな?」


 修二は今まで手加減していた閻魔が遂に防御した事に歓喜な表情を浮かべていた。


「…これは厄介な人間が誕生した物だな。」


 修二の圧倒的な成長に対し、閻魔は内心は驚きながらも動きに出た。修二の右腕を掴んで捻り、肘へと目掛けて左膝蹴りを繰り出した。

 修二の右腕からは誰でも分かる様に骨が折れていた。が、修二は苦痛に顔は歪めながらも左手で閻魔の毛髪を掴み、がら空きとなっている右脇腹へ、容赦なく連続で左ミドルキックを繰り出した。


「容赦ないな。」


「アンタこそなッ!」


 閻魔の余裕な軽口に対し、修二は畳みかける様、頭を引き、鼻へと目掛けて頭突きを繰り出した。

 修二と同じく鼻にダメージを負った閻魔は平気な様子だった。そして流石に力を酷使し過ぎたのか修二は力が抜ける様にへたりこんだ。

 同時に『太陽の覇気』も消滅していた。


「今の君の限界はここまでだな。」


 閻魔は冷徹な感じを消し、何時も通りの状態へと戻っていた。右手には光の様な真っ白い刀を常備しながら修二を見ていた。


「ここまでか…。」


 修二は閻魔から殺されると思い、無気力な状態で覚悟していた。


「…違うな、これから始まる・・・んだ。」


 閻魔は白い刀を修二の胸へと迷いなく突き刺し、素早く引き抜いた。


「あり? 全然、なんともない。」


 修二は流石に死んだと思い、身体を確かめて見た。が、立ち上がり利き手で身体をまさぐり確認し驚愕していた。


「右腕が治ってる!」


 そう修二の腕は刀に突き刺されてから治っていたのだ。


「この刀は白龍と言ってな、神々の力が刀に凝縮された武器だ。この刀に触れるか重症の場合は突き刺せば完全完治だ。」


「なんかズルくね?」


 修二は閻魔から聞いた白龍に付いて、とんでも性能をツッコム。


「さあ、『無間地獄』から抜け出そう。今の君なら幻魔ごときで負ける事ない…大丈夫だ。君ならやれる。」


 閻魔は右手で修二の左肩に触れて安心させていた。

 そんな修二は閻魔の言葉が何故か簡単に受け入れ安心できていた。


「失敗談が多い俺からの注意だ。俺みたいになるなよ、修羅の道で歩む先はここより地獄だからな。」


「…ヤーさんに注意受けるとはな、有り得ない事もあるんだな。分かった約束するよ。もし俺が落ちそうになった時は…助けてくれ。」


「良いだろう、すぐに駆けつけてやるさ。」


 互いは認め合い将来、修二が修羅の道を行く事しないように約束をし、硬い握手をした。

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