第51話 蠢く『魔導使い』。

 空は暗黒の様に薄暗く、大地は何もかも枯れ果て、人は存在しない、魑魅魍魎が互いに喰らい合い殺し合う、殺伐とし残酷で何もかもさえ全てが失った魔界。

 荒野があり、そこには大量に無造作で置かれた犬らしき死骸や毛髪が蛇になっている女性の頭部等が転がっていた。

 死骸が転がっている原因は一つだった。忍との戦いを中断され、怒り狂い、魔界で目に写る物を片っ端から『破壊』して八つ当たりし返り血まみれの幻魔だった。


「ちくしょう! ちくしょう! 鞍魔の野郎、舐めた真似しやがって! 後少しで神崎忍をたおせてたのによ!」


 幻魔は恨み事を吐き捨てながら、既に息絶えたオークの顔を原型が分からなくなるほど拳で強打し、鬱憤を晴らしていた。


「そんな雑魚にキレても仕方ねぇだろ?」


 幻魔の背後から、面倒くさそうに静止させる声が響いた。が、幻魔は振り返らずオークを更に強く殴り続ける。

 暗く青い髪、枯れ木の様に痩せ干せた体、目の周りには隈があり、幻魔達と同じ赤い瞳、幻魔達と同じく黒い革コートを身に付けた不気味な男。


「うるせぇぞ、蒼魔そうま! 今、俺はむしゃくしゃしてんだ! テメェから殺ってやるぞ!」


「こんな弱い体の俺を倒しても気分が晴れるとは思えないな。」


 蒼魔と呼ばれた彼は近くにあった大きめの岩へ腰を掛け、殴り続ける幻魔を眺めていた。


「『魔導使い』同士で戦っても意味ねぇだろ! 頭イカれてんのか!?」


「前後の言葉が一致してないし、イカれてんのはテメェの方だ。」


 先程までイラつきながらオークを殴り、蒼魔へ殺すと言っていた幻魔は急に、頭おかしい扱いしていた。

 そんな蒼魔は幻魔からの理不尽な発言に、呆れた様子で言い返していた。


「…魔王様が呼んでんのか?」


 幻魔は一旦殴るのを停止させ、蒼魔が来た目的を尋ねた。


「まあな。なんでも『魔界連合』のヤクザ集団も動き出したんだ。が動く噂もある…どうする? 俺達の『魔導』で勝てる気がしないんだが?」


 ある人物を思い浮かべた幻魔は不適に笑いだし、オークの頭を胴体から引き千切る。そして頭を右人差し指だけでクルクルと回し、ボールを扱う様に遊んでいた。


「いいじゃねぇかよ。が動くなら人間界で何人も殺した甲斐があるな。蒼魔! 信じれば必ず来るぜ、あの甘ったれな『魔神ましん様』ならな!」


 蒼魔達が恐れていたのは『魔神』と呼ばれる人物だった。が、幻魔だけは挑発する様に人間を殺めたので彼方の出方を伺い、思った通りに動いてくれて歓喜していた。


「…これで俺達、『魔導使い』は絶滅だな。まあ、そんな事は二の次だ。気になるのは『覇気使い』の動きだ。」


 幻魔は頭を回転させるのを止め掌に収め、蒼魔の方へと向き直る。


「俺の目的は神崎忍だったが、無駄に命を捨てる行為に出てしまった。残念だ。生きてる間に俺が殺したかったのにな? だけど、もう関係ねぇ! 『魔界連合会長』が動くなら神崎忍なんてどうでもいい…『魔神』と徹底的に殺し合うぞ。俺はそう望んでいる。」


 幻魔はオークの頭を握力だけで握り潰し、ドス黒い返り血が顔中に付着した。


「それじゃあ、行こうか。ウロボロス様がお待ちかねしている。」


 蒼魔は岩から起立し、蝙蝠状の翼を背中から現した。


「たまには歩けよ。」


「生まれつき歩く力も無ければ、お前みたいに片手で殺す力も無いさ。」


「だろうな。今回だけはテメェと歩幅を合わせてやるよ。」


 幻魔は蒼魔と一緒に魔界城に向かう為、背中から一回り大きい蝙蝠状の翼を現した。

 そして二つの翼は羽ばたかせ、二人の悪魔は空高く飛び立った。


「ふぅ、なんとか嵐に会わず着いたな。」


 幻魔達は魔界城の門前まで飛行し、無事に辿り着き着地し、ここまで安全に邪魔されず進めた事を安堵していた。


「途中で魔獣にも遭遇しなかったのはラッキーだった。」


「さて、入るか。」


 幻魔達は翼を閉ざし、門を片手で開き城の中へと入っていた。

 幻魔達は城の中をある程度進み、ダイニングルーム前に立ち、右前蹴りで無作法にも開ける。


「よう、『魔導使い』共々。元気に人間共を殺してるか?」


 空気が読めない行動を取った幻魔に対し、他の六人は興味なさそうに無視していた。


「これで七人揃いましたね。」


 右奥の席から声が仕切る様に響いた。その人物は黒いスーツの上からコートを羽織り、中肉中背、眼鏡を掛け、虫も殺せなさそうな優男だった。


「鞍魔、テメェに神崎忍の恨みは残っているけど、が動くって聞いたから来てやったんだぜ?」


 どうやら好魔を乗っ取り、幻魔を静止し魔界に連れ戻した優男が鞍魔だった。


「えぇ、我々が置き土産として人間界に残した。ゴブリンの肉塊を『魔界連合』が破壊して回ってます。これは狙い通りに物事が進み、人間界には『覇王』なんて存在しませんでしたから、私達にとっては好都合…の魔界へ帰還するまで…。」


「それよりさ、『覇気使い』共はどうする? 目障りなら殺しても良いよな?」


 幻魔がケラケラと調子に乗った態度で鞍魔へ『覇気使い』の対処を尋ねた。


「それは…。」


 鞍魔が何かを言い返そうとした。が、隣にいた鞍魔と同じ服装、茶髪のツンツン頭、忍とはまでは行かないが美形の顔、そんな男が目を閉じ静止していた。


「…安心しろ、『覇気使い』達は俺達を倒すため集結し力を蓄えている。が来るまでの暇潰しにはなるだろ。」


「おい、練魔れんまさんよ。『覇気使い』ごときで俺達に敵うと思ってんのか? 奴等は『地獄』を突破できずに尚且つ、『魔王契約』によって全世界の『覇気使い』は死ぬのは確定だ。俺がやりたいのは今すぐ人間界に行って『覇気使い』を殺す事だ。」


 どうやら美男は練魔という名前らしく、そんな考えに賛成できない幻魔は反論する。


「もし、『覇気使い』が格段に俺達以上強くなる事は俺達の楽しみでもあるだろ? 『魔導使い』全員で、に挑むなら腕試しには丁度いいだろ。」


 練魔の意見に幻魔は頭を捻り深く考えた。が、そんな事より戦いに心中してる本人はどうでも良く。

 本人にとっては本当の殺し合いをし、自分が楽しければそれで良かったのだ。


「…それじゃあどうします? が来るまで『覇気使い』を相手にするか、無視するか?」


「『覇気使い』だけは倒しておけ。」


 城内にエコーが掛かった声が響き渡った。


「魔王様!」


 鞍魔達は立ち上がり、即服従の姿勢をウロボロスに見せた。


「もし奴等が私の目の前に現れたなら面倒だ。お前達が可能ならば潰せ。」


 その言葉を聞き、更に魔王の許しが出た幻魔は目を見開き、大いに笑い狂っていた。


「かしこまりました! 魔王ウロボロス様の命令ならば『覇気使い』全員の首を並べて、差し上げましょう!」


 幻魔の発言に咎める者も現れず、全員が満場一致だった。


「残念だが、暫くは人間界には入れないぜ。テメェ等が面倒くせぇ事するから、こっちで対策を取らせてもらった。」


 すると何処からか鬼塚の面倒くさそうな声が響き渡っていた。『魔導使い』全員は辺りを見渡し、ある物を見つけた。

 それは青く輝く水晶が空中に浮かんでいた。そこから声が発せられていた。


「その声は…『魔界連合本部長』、鬼塚弘人。」


 ウロボロスが思い出したかのように名前を呟いていた。


「魔界の入口を嫌がらせで億っていう枚数の結界を貼らせて貰った。幻魔、いくら『破壊の魔導』でも数年掛かる直ぐには無理だろ…多分…。」


 適当に水晶へ向かって話しているので原理でさえも雑に鬼塚は説明していた。


「時間稼ぎのつもりかよ。よく頑張るね~そこまでして会長を渡したくないわけ?」


 幻魔は鬼塚に煽るように話かけていた。


「…人間舐めてんのも良いけどよ――あんま調子に乗んなよクソガキ、これは人間との約束で手を出さずに遠慮してんだ。神崎忍に腕もがれたクソボケなんて何時でも消せる。だから大人しく三ヶ月は黙って待っとけ、時期には兄貴も『魔界』に出向くからよ。テメェ等の墓標ぐらいは用意しとけ、じゃあな!」


 下級悪魔に煽られてピリつき、ヤクザ口調で返し一方的に話を終わらせた鬼塚だった。

 そんなダサイ姿を後ろから見てしまった鬼塚の舎弟達は困惑するしかなかった。

 水晶は輝きを失い、自分自身から粉々となった。


(勝手に終わらせやがった。)


 幻魔以外は鬼塚の異常な行動に対し、唖然と困惑するしかなかった。


「アイツ、俺にクソボケって言ったか!」


(お前もお前でオカシイ。)


 幻魔の馬鹿みたいな言動で周りの『魔導使い』は更に頭を悩ませていた。



「あ! しまった兄貴は何時帰るのか分かんなかった…まあ、嫌がらせで結界貼ってるから良いか。」


 その頃、幻魔の挑発でキレていた鬼塚は冷静を取り戻し、会長が戻って来る見込みが無い事を思い出した。が、考えるのが面倒くさくなり自己解決していた。

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