第34話 未来へと繋がる物語。
楽しい祝杯会を終え、更に年月はゆっくりと過ぎていった。三月から修二たちは二年生と無事に進級していた。
そして学校行事のクラス替えでは、まるで仕込まれていたかの様に……
「なんだか凄い面子だよね?」
相川が苦笑いを浮かべて呟いていた。それは去年まで敵として味方として戦っていた『覇気使い全員』が集まっていたからだ。
そのクラスのメンバーは品川修二、吹雪雅人、相川祐司、南雲暖人、内藤博也、そして一般人の天海美鈴が集まっていた。
だが、あの時の決着がついていないからなのか修二と南雲は睨み合っていた。
「なんだぁ? キモロンゲ、俺の顔に何か付いてんのかよ?」
修二はチンピラ絡みで南雲に喧嘩を売っていた。
「貴様こそ、誰に舐めた口を聞いているんだぁ? 全てにおいてNo.1の俺には敬意を持って話せクソリーゼント!」
南雲も子供の様に喧嘩を買っていた。
「おい、品川と南雲になんかあったのか?」
吹雪は色々と状況をしてそうな内藤に聞いてみた。
「まあ、お互いのコンプレックスを言い合うぐらいには仲が良いんだろ……争いも起きてないし」
説明するのが面倒なので内藤は適当に解決しようとしていた。
「ぜってぇ、面倒だから説明すんの止めただろ?」
だが、吹雪には内藤の思っている事はお見通しだった。
「あぁ、そうだよ。一々、何ヵ月前の会話を全て覚えている訳ないだろ、この阿保パーマ」
そんな内藤の暴言にカチンと頭にきた吹雪は…
「あぁ!? 誰が阿保パーマだって? この変態ハイネック野郎がよ! テメェ、いい加減にしねぇと永遠に冬眠させっぞ!」
こちらもウィルスが感染したかのように喧嘩を初めてしまった。
「……なんだか賑やかになったね」
そんな現状に現実逃避をする美鈴だった。
修二は輝から放課後、学校の屋上に呼び出されていた。これは新しく師匠になった輝から、初めて命令を下された内容だった。
「やあ、ごめんね。いきなり呼び出しちゃって」
「いえ、俺も暇だったので…それで何か用事があるのですか?」
修二は屋上に来いとしか聞いていないので、何も知らず呆然とした状態で来たのだ。
「えっとね……『覇気使い』に戻す件なんだけど……戻すのに条件があるんだ。それをクリアしてくれないと許してくれない――んだよね」
「ま、マジですか! そ、その条件とは!」
「君の苦手な……」
その時、輝の言葉から修二はムンクの叫びみたいに絶叫した。
そして学校の下校途中で海道図書館に立ち寄っていた南雲は黙々と真面目な表情で、六法全書を読み漁っていた。
「……少し休憩するか」
南雲は本を閉じ、何か飲み物でも買おうかと立ち上がり外にある自販機まで目指そうとした。が、離れた席で修二が、本を開きノートに書き写して勉強している姿を目撃した。
(何やってんだ。あのクソリーゼント?)
修二の行動を不思議に思い、南雲は背後から近づき何を読んで勉強しているのか気になり、肩から覗きこんだ。
それは南雲と同じ内容の六法全書を勉強していた。
背後の視線に気づき修二は振り替える。
「テメェはキモロンゲ!」
修二は南雲の姿を見て、いきり立っていた。
「おい、クソリーゼント。ここで何をしている?」
「俺は勉強だ。テメェこそ何してんだよ…まさか! エッチな本でも借りに来たのか?」
急に怒りから冷静へと切り替えをした修二の的外れな答えに南雲はズッコケる。
だが、そもそも図書館に成人年齢の向け雑誌を置いていない事が分からない事に南雲は呆れていた。
「そんな物を置いたら図書館は潰れるわ!」
「置いてねぇのか! てっきり本が一杯あるから置いてあるって思ってたぜ」
南雲のツッコミに対し、修二は笑って誤魔化していた。
(本当にコイツが神崎忍を倒したのか? こんな馬鹿が何故……試してやるか)
「おい、少し表に出ろ」
南雲は修二を試す為に、図書館から出る事を提案する。
「駄目だ。この勉強を終わらせねぇと……」
だが、修二は六法全書の勉強を途中で放棄するのが嫌らしく南雲の誘いを断る。
「分かった! 法律の勉強を天才になるまで教えてやるから俺に従ってくれ!」
「え~? ……分かったよ。絶対に教えてくれよ?」
修二は渋々に承諾し、椅子から立ち上がり南雲と共に図書館から出た。
そして二人は人が滅多に来ない雑草だらけの空き地に辿り着き、南雲は上着を脱ぐ。修二も上着を脱ぎ、お互いにワイシャツの状態になる。
「クソリーゼント。俺はまだ信じてねぇんだ。お前が神崎忍に勝てた事がな? お前と同じ『光系統の覇気』なのに、天才の俺と馬鹿のお前が…こんなにも差があるのは、おかしいだろ?」
「つべこべ言わず来いよ。早く終わらせて勉強教えてくれよ」
「……先に『覇気』を出せよ」
「俺はな『覇気』を使わなくても、ちゃんと戦えるぜ!」
南雲が修二に先手として『炎の覇気』を使わせようとした。が、修二は忍との戦いで『覇気』を失っている事を知らない南雲は、煽られている様に感じたのだ。
「舐めてんのか? まあ、テメェがそうしたければしろよ」
南雲は体に青白く光る稲妻を覆い、修二の動きを探るため待機する。
修二は南雲がカウンターを狙っているのが分かると真っ直ぐ突っ走る。
南雲は右掌を突き出し、稲妻を放出した。稲妻はジグザグに動きながら、走行中の修二に直撃した。
「クソッ!」
稲妻に直撃した修二は衝撃で吹き飛び、背中から激突し悪態を付きながら立ち上がる。
だが、南雲は信じられないという驚愕の表情で修二を見ていた。
「貴様! ふざけているのか!」
そして驚愕から憤怒へと変わり、南雲の怒号が修二の耳に響いた。
「あ?」
「勝負する気あるのか! 『覇気』を使わず、真っ直ぐに突っ走って――そんな事で神崎忍を倒したなんて俺は認めんぞ!」
「……ふざけてねぇよ! アイツが認めた事なんだよ――俺は一切にふざけてねぇ、勝負事にふざけるのは相手にとって失礼だ。まだ雷が一回直撃したぐらいだ。まだ行ける。まだ戦える。俺は『覇気』を使えなくても拳と足がある。人間の手足舐めんなよ」
修二の気が狂ってそうな言葉に、南雲はイラつき、稲妻を乱射する。
修二は無数に乱射された稲妻を抵抗せず、受け続ける。ワイシャツは焦げ、腕は火傷し、何度も稲妻を受け、額と体は少量に出血していた。
流石に戦闘が長引くのは得策ではないと判断した修二は稲妻に当たりながらも南雲に近づく為に、一歩ずつ前進する。
南雲は更に稲妻の力を強め、修二を圧倒しようとした。
だが、修二は幾ら雷撃を喰らおうと何度も攻撃を受けて血が激しく出ても南雲に近づく為に、一歩ずつ近づく。
そして修二は眼前まで近づき、驚愕して呆然としている南雲の胸ぐらを掴み、頭を後ろまで引き、渾身の頭突きで鼻にダメージを与えた。
南雲は両手で鼻を抑えながら苦悶の表情を浮かべ倒れてジタバタと暴れる。
「……どうだ! 俺の頭突きは! 神崎忍も喰らってたぜ!」
修二は得意気な顔で自分の頭突きを自慢した。痛みが治まったのか南雲は修二を睨み付けながらも立ち上がる。
「良く分かった。……お前が『覇気』を使わないじゃなくて使えないって事がな――だったらチャンスはある。今すぐ黒焦げにして殺してやる」
修二は南雲の言葉でギョっと焦り身構える。だが……
「だが、そんな事をしても貴様を倒した事にはならない。だから貴様が『覇気使い』に戻るまで、この鼻の痛みを覚えておいてやる。戻ればリベンジを申し込む、分かったな?」
南雲はダメージを受けた屈辱を晴らそうとしようとしたが、流石に丸腰のまま修二を倒すのはプライドに反したので『覇気使い』に戻るのを条件に待つ事にしたのだ。
だが、南雲が格好よく決めていたのに対し修二は申し訳なさそうな後悔のある表情で汗を流し、唇をすぼめる。
「なんだ貴様の表情は! 馬鹿にしてるのか!」
流石に修二の態度がふざけた様子に見えたのか、南雲はイラつき稲妻を再び覆う。
「いや、ふざけてる訳じゃなくてよ……『覇気使い』に戻る条件がよ……俺の師匠が……」
それは数時間前に遡る。
「君の苦手な……勉強なんだよね……それも海道大学に入学して上位成績を維持する事なんだよね……」
輝は人差し指を二つ合わせて押したり引いたりしながら申し訳なさそうに言った。
その条件を聞いた修二は口をポッカリと開き、魂らしき物が抜けて戦意損失していた。
「でも! 今から大学受験まで勉強すれば間に合うよ!」
だが、魂の抜けた修二には輝の話が耳に入らなくなっていた。
「裏技はあるよ」
裏技という言葉に修二の魂は戻り、話を聞く事にした。
こんな修二の切り替えの速さに内心、驚愕していた輝。
「海道の短期大学に入学する事だよ。誰も四年で上位成績を維持しろなんて言わなかったからね。それから、これは僕の計画だけど君は弁護士とか興味あるかな?」
「弁護士……それって有罪って言う役目の人?」
どうやら修二は弁護士と裁判官の区別がついていなかったらしく輝はズッコケた。
「それは判事だね。君がもし良ければ一緒に弁護士になって僕と働いてくれないかなって思って……」
「はい! 輝さんが弁護士を目指すなら俺もやります!」
修二は目をキラキラと輝かせ、尊敬の眼差しで輝と一緒に弁護士を目指す事を簡単に決めたのだ。
そして修二は後の事を考えずに勉強する為に、図書館まで走りだしたのだ。
「……もしかして無理難題を押し付けた感じかな?」
そんな事を言っても後の祭りなので輝は無事に合格する事を後三年間、祈らなければなかった。
「という事なんだよな……」
修二の理由に南雲は肩をプルプルと震わせて…
「ふざけんな! そんなの俺が合格させて強制的にでも『覇気使い』に戻してやる! 舐めやがって!」
南雲はダメージを負った体を酷使し、吹雪でも重いと言わせた修二を持ち上げ、鼻血を吹き出し、全力疾走で図書館に戻る。
図書館に戻り、南雲は片っ端から大学と弁護士に関係する本を取り机に置く。
「さあ、勉強するぞ! お前が『覇気使い』に戻らないとリベンジが出来ないだろうが!」
「お、おう!」
修二はムキになって勉強に付き合う南雲に引いたが、輝と共に同じ道を進むため、必死に苦手な勉強と向き合ったのだ。
あれから五年の年月が流れ、小さいビルの目の前に一人の男が立っていた。
その男は大柄でヤクザと間違われそうな見た目だった。
赤い髪の中分けが特徴で、グレーのビジネススーツ、中のワイシャツは水色、赤いネクタイ、胸には弁護士バッジが付いていた。
そして一本の煙草を咥え、深々と煙を吸い、紫煙を吐き出した。
「さて、行くか!」
男は革靴で煙草を踏み潰し、マナーで携帯していた灰皿ポケットを取り出し、煙草をその中へと捨てた。
「あれから五年か、待ってろよ神崎忍。強くなった所を見せてやるぜ!」
その男は五年で成長した品川修二だった。無事に大学を上位成績で卒業し、見事に司法試験も受かり、晴れて弁護士になれたのだ。
そして新たな戦いが、これから始まろうとしていたのだ。
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