第28話 再開の師と選択肢。

「ここは…。」


 忍との戦いから翌日、修二は薄暗いゴツゴツとした岩の天井を目の前にして目覚めた。


「無事か?」


 そして目の前から突然と吹雪の顔が現れた。

 修二は周りを見渡すと包帯や湿布があったので、今まで吹雪が看病をしていてくれたのが分かった。


「…神崎は!?」


「神崎の心配より、先ずは師匠さんからお話があるそうだぜ。」


「え?」


 修二は吹雪の口から恐怖の言葉が出てきて脂汗を流し、顔が引きつり、後ろを振り返る。


「よう、クソ弟子。輝から聞いたぞ、血も涙もない嫌な師匠だってな。」


 桐崎は額に血管を浮かび上がらせ、微笑みながら怒っていた。

 修二は傷だらけの体で俊敏な動きを見せ、吹雪の背後に隠れ体を震わせ恐れながらチラリと顔を出し覗く。


「今は本気を出せないからな、今回は勘弁してやるが終わり次第やる。」


 桐崎の気まぐれのお陰で何とか修二は拷問を受けずに済んだ。吹雪が思ったのは、何かが終わったら拷問するんだと思った。


「気がついたかな?」


 影から心配する声が聞こえて、修二は感謝を伝えようと呆けた顔で振り向いたが、それは驚愕へと変化した。


「大丈夫みたいだね。軽く蹴ったけど意識が戻らなかったら病院連れて行こうかと考えたけど、心配ないね。」


 修二は一心不乱に素早く移動し輝を殴ろうとした。が、それが見透かされていたみたいに右片手で簡単に受け止められ痛みもなく地面に倒されていた。


「そんなに元気があるなら二日ぐらいは頑張れそうだね。」


「テメェ! 神崎忍! 髪の毛を染めて俺をからかってんのか!」


 輝の言葉を無視し、修二は目の前にいる人物が忍と勘違いをして攻撃していたが返り討ちにあった。

 そんな光景を見て桐崎は愉悦に浸り、隣にいた吹雪は性格悪いなとドン引きしながら思った。


「どうやら君は思い違いをしているね、僕は神崎輝、神崎忍の双子の弟だよ。顔が似ているのは血縁関係があるからだよ? 理解した?」


「え? 神崎忍に弟がいたのか! しかも性格違う!」


 なんとか時間を掛けて輝は馬鹿な修二を説得し納得させた。


「…それより俺は、また忍に負けたのか。」


 修二は再び負けた事に暗い表情になり、少し落ち込んでいた。


「そうだね。隙を突いて攻撃したのは良かったけど、その後は対策されて効かなかったね。」


「…だが、もう一度挑むぜ。」


 修二は右拳と左掌を合わせて決意を固める。が、輝はそんなヤル気に満ち溢れている修二を嘲笑った。


「兄さんを激怒させて、更には手も足も出でずに僕に助けられる。そんな馬鹿に兄さんが負けると思う?」


「い、いきなりなんだよ!? さっきまで心配してたのに…。」


 修二は突然と罵倒されたので動揺が隠せずにいた。

 そんな怪我人に容赦なく言った輝を黙って見ていた吹雪が言い返そうと間に入ろうとしたが、桐崎に静止される。


「君の『炎の覇気』は兄さんが操る『闇の覇気』に唯一対抗できる力なんだ。正直ガッカリだったよ、強いと期待してたのに…過大評価し過ぎたかな?」


「だったら、期待通りの実力を見せやるよ。」


 言われっぱなしで我慢にならなかった修二は輝と対決しようとする。

 輝は企むようにニヤリと笑って、更に修二を煽り立てる。


「多分、無理だと思うよ? 兄さんにボロ負けした『炎の覇気使い』が『光の覇気使い』の僕に勝てる訳ないじゃないか。」


 修二は不意討ちの右ストレートで輝の頬を狙った。が、簡単に避けられ足を引っ掛けられ転ける。


「ほらほら、転んでないで僕の頬に一発でも当ててみなよ。最強になりたいんだろ?」


 輝は人をムカつかせる煽りを見せて修二との戦闘を続行した。

 修二は立ち上がり、猛獣の如く飛び掛かり輝を捕まえようとする。が、またしても簡単に避けられ、今度は光の速度で背後に回り込まれて軽く蹴られる。

 修二は顔から地面に激突し、涙目になりながら立ち上がり再び襲いかかる。



「品川の奴、遊ばれてやがる…。」


 そんな修二の行動を見て吹雪は少し呆れながらも密かに応援していた。


「これが神崎輝の教え方だな。」


 修二と輝の戦闘を見て呆気に取られていた吹雪に桐崎がヤル気の無い表情で隣に座り声をかける。


「…神崎って化物ばかりなのですか?」


「まあ、あの兄弟と品川は特別だからな。」


「え?」


「吹雪雅人だったか? お前『覇気使い』になる条件を知っているか?」


「いや、分かんないっすけど…。」


「『覇気使い』になる条件は瀕死から生還した奴が稀になれる代物だ。それも何が当たるのかはランダムでハズレもあればアタリもある宝くじみたいな物だな。」


 『覇気使い』のなる条件を知った吹雪は驚きを隠せなかった。

 だが吹雪ふと思い出した。中学生の頃に事故で死にかけていた事を。


「…話を戻すと、なんで神崎兄弟と品川が特別なのは、アイツ等は産まれた時から『覇気能力』を持ってた事だな。神々に仕組まれたみたいに…。」


「…桐崎さん、神崎忍はなんで神に復讐なんてしようと思ったんですか?」


 吹雪は全てに詳しそうな桐崎に何気なく忍の事情を聞いてみた。


「…忍は産まれた時から戦闘の天才で孤立してる存在だった。唯一の支えだったのが神崎冴子、つまり母親との月に一度の面会で会える事を楽しみに成長していた。だが、俺が自由の為に教会を脱退した数日後に何者かの手によって腹部を刺され花畑で亡くなっていた。その手掛かりが落ちていた一枚の白い羽だった。」


「羽?」


「神の羽だ。例え黒いペンキに漬け込んでも汚れない、燃え盛るマグマに落としても燃えない、それが神の羽だ。それだけでアイツは憎悪を心に蓄えながら十年を生きてきた。」


「そう言う事が…。」


「そしてアイツは必死に強くなり、久し振りに会えば次元を破壊しかけないような翼まで作ってやがった。俺等が呼び掛けても無駄だし、ましてや『覇気』の相性が悪すぎる。」


「『覇気』の正体が分かれば対策できるのでは?」


「『闇の覇気』は『光系統の覇気』でしか攻撃を通さない。大雑把に言うとアイツに核兵器や放射線で攻撃しても全部不発に終わる。だから品川の『炎の覇気』と南雲暖人の『雷の覇気』と神崎輝の『光の覇気』が必要な訳だが、南雲は能力は極めているが肝心な体力が鍛えられていない、逆に輝と戦うと島一つ消える。だから品川の馬鹿に賭けたんだが、見事にやられたな…それに怒らせた。」


 桐崎は最後にうんざりした様子で更に愚痴を吐いていく。


「まあ三日もあれば忍も冷静になって次の事に動くだろう、そこが狙い時だ。これを逃すとアイツは一人で神に会いに行くだろう、そうなればアイツを救う事はできなくなる。そうなる前にアイツに敗北を教える。品川に敗北したとなれば鍛えて戻ってくるだろう、これは俺達にとっては賭けだ。」


 桐崎は眉をしかめて吹雪に自分なりの決意を見せる。


「何故、そこまで神崎忍を気にかけるのですか?」


「アイツには復讐心で人生を無駄にしてほしくないし、何より身内を助けるのに必死になるのは当たり前だろ?」


 吹雪は桐崎と修二が重なって見えた。吹雪は咄嗟に理解した。この二人は馬鹿だけど最高の馬鹿なんだと…。



「どうした? もうギブアップ?」


「まだまだ!」


 その頃、吹雪と桐崎が語り合っている間、まだ決着がついていなかった二人だった。


「良く頑張るね。誰も評価してくれない一部限定の戦いに頑張る必要あるのかな?」


 輝が蔑む目で試すような言葉を放つが、修二は怪しく笑っていた。


「そんなので俺は戦ってねぇよ。俺が楽しくてやってんだ。他人に評価される筋合いなんてねぇんだよ、俺はヒーローでも悪者でもねぇ、ただの一人の『覇気使い』だ。」


 自分自身の気持ちを率直にぶつけた。そんな輝はニッコリと微笑んでいた。


「ごめんね? 試すような真似をして痛くなかった?」


 さっきの態度とは違い、輝は修二に謝罪しながら体を心配した。

 輝の行動に馬鹿の修二でも理解できず何か企んでいるのか睨んで怪しむ。


「そんな親の仇をとるような目付きじゃなくても…大丈夫だよ。ただ柏木さんが気に入った人を確かめたくて、ちょっかいを出しただけだよ。面白いね君。」


 輝は褒めているつもりだが、修二には馬鹿にされている気がして簡単には信じられず、腕を組み警戒しながら睨む。


「うわ~僕って人望ないのかな?」


「取り敢えず、今の時点では怪しい人。」


 キッパリと修二に言われ、少し気持ちが沈んでしまう輝だった。


「…どうやったら信じてくれるの?」


 修二は手を顎に置き、信じる方法を考える。


「…なあ? 神崎忍の弟なんだよな?」


「そうだけど?」


 意図が不明な修二の質問に輝は怪訝そうな表情で返答する。


「じゃあさ、アンタって優しい方?」


「う~ん、どうなんだろう? まあ他人に甘いとか言われるし、たまにキツイ事を言うからイメージと少し違うとかは言われる事もあるけど…よく分からないかな?」


「じゃあ少し間違っただけで、ラリアットとかコブラツイストとか痛い事はしない?」


「そんな事はしないよ。そんな理不尽に暴力で解決しちゃ弁解する余地がないから駄目だよ。」


「一生、貴方に付いて行きます! だから、どうか輝さんと呼ばせてください! それから弟子にしてください!」


 修二はいきなり態度が逆転し、悲願するように輝に土下座をしながら頼み込む。

 そんな異常とも思える行動に、戸惑いを隠しきれない輝だった。


(え? これって僕はどうしたらいいの?)


「お願いします! もう桐崎師匠と修行するのが辛くて!」


「あ、そっちか。全然いいよ。」


 何故か、桐崎の名前が出てくると輝は納得したという表情になり淡白な返事で了承したのだ。

 そんな話を遠くから聞いていた桐崎は不機嫌な表情で睨み、隣にいた吹雪が宥めていた。


「それじゃあ僕が師匠になった事で…品川でいいかな?」


「大丈夫です!」


 満面な笑みで返事をする修二を見て、この変わり身の早さに輝は若干顔を引きつらせ苦笑いを浮かべた。

 だが、こんな事をしている時間が惜しいので輝は気を取り直し、真剣な表情で修二と向き合う。


「突然で悪いけど君には選択肢がある。兄さんを“止める”手段と兄さんを確実に“倒す”手段、どっちか決めるのは品川だ。僕はどちらも君に強制するつもりもない、もし止める手段を選ぶなら僕は兄さんと同等の力を得る方法を教えてあげる。兄さんを倒すなら、僕は君の力を底上げしてサポートする。」


 忍を“止める”ならば同等の力を得る方法と“倒す”なら輝は協力して目的を達成するという選択肢を修二に与えた。

 輝の話を最後まで聞いて少し考える素振りを見せた修二だが、考えた末に出した答えは意外だった。


「そんなの最後までやんなきゃなんねぇだろ? 確かに忍を倒すなら後者選ぶけどよ、これは俺の戦いだろ? それにアイツを倒す程の恨みなんてねぇ、だったら同等の力を得る“止める”方だ。」


 修二らしく正直な回答を聞いた輝は微笑み…


「じゃあ教えてあげないとね、『覇気の限界突破』をね。」


 その輝が言った単語に吹雪はキョトンとしていた。が、隣の桐崎は理解した表情で笑っていた。

 この時に輝が言っていた『覇気の限界突破』で修二が人間を止めた戦いをする事は誰にも想像できなかった。

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