第15話 リーゼントとパーマの最大危機。

 六月三日、修二の喧嘩が原因から二日後、校舎で破壊された窓ガラスと海道高校に乗り込んだ不良と暴走族の問題は不問となったが、修二と吹雪の二人に今世紀最大の危機が訪れていた。


 それは高校生の大半が、この結果で挫折する者もいれば塾や家庭教師という親の面倒な進めで青春を失う者もいれば、この時に友達の一人もできなく一生ボッチの者もいれば等々のイベント…中間テストの発表と成績発表だった。


 海道高校では平均点が向上するために、生徒に先に成績を教え何処か悪いのか先生と生徒が自由参加で成績と合格ラインを一緒に越えようという制度をしていた。


 何故、それが修二と吹雪の今世紀最大の危機という意味は…


「おーい、品川と吹雪はいるか?」


 昼休みの午後にザワザワと騒ぐ生徒の中から野太い大人の声が賑やかな教室に響き渡る。

 大きな声で修二と吹雪を呼ぶのは渋い顔で体格の良い青いジャージを着た海道高校の体育教師だった。


「はい。」


 修二は体育教師に近づき普通に対応する。


「へーい。」


 吹雪は頭を掻きながら気だるげに対応する。


「ちょっと廊下に出れるか?」


 深刻な顔で体育教師が先に教室から退出し、二人も怪訝そうな表情で教師の後を追うように付いて行き、邪魔にならない様に隣の進路相談室の前で三人になる。


「言いにくいんだが品川、吹雪このままだと留年するぞ。」


 突然に放たれた教師の驚愕的な発言に、二人は石の様に表情と体が固まり、何かを悟ったという心境になった。


「石の様に固まってる所悪いが、先ずは出席日数が圧倒的に足りない、それに中間テストを受けてないから赤点扱い。どうする? また一年やるか?」


「それは困りますよ!」


 修二は必死な表情と身振り手振りで体育教師に訴える。


「そうですよ! また一年やるのは精神的にボロボロになりますよ!」


 さっきまでの気だるげは何処に行ったのか、成績の事になると修二と同じく必死な表情で訴えかける吹雪。


「だったら来週の放課後にでも追試テストするか?」


「お願いします!」


 二人は声がハモり見事に綺麗な九十度のお辞儀で懇願する。


「お前等、見た目のインパクトはあるのに心が繊細すぎないか? まあいいが、うちの平均点は三十点だが今回は出席日数も兼ね備えて、中学生の問題で最低四十点を取ったら合格にしてやる。頑張れば成績も伸びるから一石二鳥だろ? 分かったな? これからテストの範囲を教えてやるから、少し待ってろよ。」


 体育教師は二人だけを残し進路相談室に入室し、二人は冷や汗をダラダラと流しながら留年イベントを回避する方法を殆ど無いような足りない頭をフル回転させ考える。


(『覇気使い』の戦いで忘れてたけど中間テスト受けてなかった! それに『カンザキシノブ』に腕折られて一ヶ月近く入院してたから勉強もしてねぇし出席日数も足りねぇ! 俺、勉強苦手だし試験範囲分かってても多分四十は無理!)


 頭の中では勉強の事を言い訳ばかりして勉強しようという行動が浮かばない馬鹿リーゼントと…


(そう言えばヘイムーンに拉致られる前の日に中間テスト受けられなかったんだ! ヤベェよ、中学なんか殆ど行ってねぇと同じだしよ…そうだ! カンニングペーパーを用意すれば五十は軽く!)


 何かと言い訳ばかりして更には自分の人生を台無しをする選択まで考える阿保パーマがいたのだ。


「あれ、どうしたの二人共?」


 そこに教室に戻ろうとしていた美鈴が二人の姿を見て近づき声を掛けたのだ。


「美鈴ちゃんか、俺たち赤点だから留年するかもしれないんだ。」


 少し、しょんぼりした様子の修二が振り向きざまに話…


「それに最低四十は取らないと進級できないってよ。」


 深刻そうな表情の吹雪も後ろに振り向く。


「二人共、テストの平均点は?」


「俺は二十点。」


「俺は二十八点…」


 馬鹿リーゼントが二十点、阿保パーマが二十八点という到底四十に届きそうで届かない平均点だった。


「じゃあ私の家で勉強する? 相川くんも呼んで一緒に?」


「いいよ、オバさんに迷惑だろ? 暫く行った事ないからよ、いきなり来たりしたらよ。」


 美鈴の母親に気を使ってなのか、ダルそうな表情で会話する。


「あらそう? 久し振りに家に来るのが恥ずかしいの?」


 美鈴は悪戯っぽく分かりやすい挑発をする。


「はあ? いいぜ行ってやるよ。品川も行くだろ?」


 吹雪は単純な阿保なので美鈴の挑発でも喧嘩腰で家で勉強する事を約束し、隣で途中で空気化していた修二にも声を掛ける。


「あ、あぁ…」


 そこで修二は馬鹿の頭がフル回転し、何かの答えに辿り着いた。


(これは…ムズキュンというヤツだな。いや、直感だけだが吹雪と美鈴ちゃんて相思相愛じゃねぇのか? お互いに嬉しそうだし、これって俺は邪魔者じゃないのか?)


 こう言う時だけは無駄に何かを察知する能力は流石の修二は心の中ではニヤニヤしながら吹雪と美鈴の会話を一句も逃さずに聞いていた。


(このLOVEGAME見てるだけで勉強に集中できて捗るし、初めて人が付き合う所を間近で見れるんだ。最高だな!)


 心の中で無意味に発音よく英語でカッコつける修二は進路室から出て来た教師にテスト範囲のプリントを貰う。


 教師から見た修二は頬一杯に空気を膨らませニヤつきを抑えていた。

 教師は何故、修二が我慢しながらもニヤつきを堪えていたのか不思議だったが、吹雪と美鈴のコミュニケーションを見て察し同じく教師も二人の甘酸っぱい青春にニヤつきを堪える。


「品川、くれぐれも二人きりになるように早めに帰るように。」


「了解!」


 この時だけには意気投合してしまう教師と不良学生による意地の悪い思惑が勝手に進行されていた。


「どうした品川?」


 吹雪は上機嫌な修二を見て、不思議に思い聞いてみるが…


「いや、なんでもない。」


 明らかに隠しきれていない愉悦が出ている顔で、吹雪の右肩をバンバンと叩き高笑いしながら話をはくらかしていた。

 吹雪はただ修二の行動に呆然としていた。


(なんだアイツ?)


 修二の行動に不自然に思いながら教師からプリントを貰うが、その教師も愉悦を隠しきれていない顔で吹雪と対話していたのだ。


(えー俺の知らない数秒の間に何があったんだ。)


 修二と教師による謎の喜びに唖然とし、何か裏があるんじゃないのかと警戒し冷や汗をダラダラと流す事しかできない吹雪だった。



 そして放課後に帰路の途中でさえもポケットに手を突っ込みながら修二は吹雪と美鈴を前に歩かせ後ろからニヤニヤし続けていた。

 そのニヤつきながら後ろを付いて来るのは、まごうことなき変質者なので隣の相川は横目で睨みながら少し距離を開けて下校していた。


「品川、気持ち悪いよ?」


 流石の相川も不振に思い、近づき小声で修二の行動について問い始めた。


「相川、分かんねぇか? あの二人は相思相愛の中でよ…」


「え? それって本当なの?」


 何故か人の恋愛話になると異常にテンションが上がる二人。


「お互いに気づいてねぇよアレは…ここは自然に待ってよ、二人が付き合うまで俺たちがサポートして見守るんだよ。」


「でも、品川がニヤついた顔で何時までもいる訳にはいかないよ。」


「そんなにニヤついてたか?」


 修二には怪しい行動という自覚は一切なかったようだ。


「理由を聞いてなかったら、ずっと気持ち悪かったよ。」


「今度から気をつけよう。」


「おい、さっきから何をコソコソ話してんだよ?」


 流石に二人の行動に怪しいと睨んだのか立ち止まり振り向き、ちょっとイラつきながら問いただす。


「相川くん、喫茶店で勉強しないか?」


「うん、それが良いね。それじゃあね吹雪くん天海さん。」


 二人とも素人顔負けの棒読みと下手な演技で理由をつけて手を振りながら素早く吹雪と美鈴の目の前から走り去った。


「な、なんだよ…アイツ等…」


 眉をピクピクと動かし呆れるしかなかった吹雪。


「ふふっ。」


 その隣で口を右手で添えて美鈴は微笑んでいた。


「美鈴ちゃん?」


「ごめんね? なんか昔に戻ったみたいで。」


「そうか?」


「品川くんは内藤くんみたいな性格で南雲くんが・・・」


 さっきまでの微笑みが嘘のように消えて、南雲の名前を出しただけで表情が曇る。

 そんな美鈴の表情を見た吹雪は…


「…心配すんな。必ずまた四人と品川と相川を含めてワイワイできるって…美鈴ちゃんが、気にしなくて良いんだ。あの頃に戻れるって信用していればな?」


 真っ赤に燃える夕暮れをみながら吹雪なりの言葉で曇った表情を晴らそうとする。


「吹雪くん…そうだよね。」


 吹雪の励ましの言葉に元気を取り戻したのか、立ち止まった足を進める。



 そして客が少ない古めかしい喫茶店に辿り着いた修二と相川は目立たない端側の席に座り、コーヒーとプリンを注文していた。


「へえ~こんな所に、こんな店があったんだ。」


 修二は初めて入る店に目を輝かせ感心していた。


「さて、何から始める?」


「俺、数学が苦手なんだよな」


「じゃあ数学の簡単な所から始めようか…あれって川神忍かわかみしのぶさんかな?」


 相川が不意に名前を呟き、修二はゆっくりと振り向き店のカウンター席に座っている黒いサングラスを身につけた美男に目を向ける。


「有名人?」


「ファッションモデルの川神忍さんだよ。中学生からモデルを始めて海道では有名人だよ。」


「そ、そうなのか…もしかて好きなのか?」


「違うよ僕の姉さんが好きでだから、もし出会ったらサインをくれって頼まれてるんだ。」


 相川は鞄からペンとサイン色紙を取り出し、川神忍に近づく、修二も後を追うように付いて行く。


「あの川神忍さんですか?」


「あぁ、そうだが。」


 手にカップを持ち、相川の質問に淡白に答える。


「もし良ければサインとか貰えないでしょうか?」


「良いよ。名前は?」


 川神忍は相川の要求に嫌な顔を一つせずに微笑みながらペンとサイン色紙を受け取り、スラスラとサイン色紙に自分の名前を書き、最後に名前を聞く。


「相川春って名前なんですけど…」


「もしかしてお姉さんかな?」


 川神忍はズバリと相川の姉と言い当てた。


「なんで分かったんですか!?」


「失礼だけど君は春っていう見た目が名前通りじゃなかったからかな? まあ、直感なんだけどな。」


 川神忍はコーヒーを啜りながら相川の名前を直感で判断した。

 相川は驚いていたが、修二は深刻と驚愕が混じった顔で川神忍を見て…


「アンタ、もしかして…『カンザキシノブ』なのか?」


 不意に思った言葉がつき走り、相川は呆然としたが我を取り戻し修二に反論する。


「品川、何を言ってるんだよ。川神さんが『カンザキシノブ』じゃないだろ? それに失礼だよ、いきなりそんな事を言ったら!」


 相川は激しく修二の言葉に反論したが、修二は相川の言葉を無視して川神忍を見続ける。


「何故、そう思ったのかな? その『カンザキシノブ』に似てると思ったのか?」


 川神忍は余裕な表情で薄気味悪い笑みを浮かべながら修二の言葉に追及していたが、その軽率な会話で修二は違和感を覚え川神忍を睨む。


「まだ俺は一言も『カンザキシノブ』に似てるなんて言ってねぇよ。テメェで墓穴掘ったな!」


「……。」


 相川も修二の言葉は聞き逃さずにハッキリと聞いていて川神忍は間が空くほどに黙り、ゆっくりと両手を胸の位置まで上げて拍手をする。


「おめでとう、正体には辿り着いたな? 品川修二と相川祐司。だが、聞かせてくれ―――どうやって俺だって確信した?」


 なんと川神忍の正体は神崎忍だった。忍は修二たちを賛辞の言葉を投げる。


「臭いだ。」


「臭い?」


 忍と相川は修二の堂々と言い切った言葉に理解できない表情になった。


「最初にアンタと空港で会った時に良い臭いがしたんだ。石鹸の香りだ。一之と戦って終わった後、アンタに近づいた時に空港と同じ石鹸の香りがしたんだ。他に石鹸の臭いを考えたが、アンタのはデパートとか売ってる安物じゃないのが分かった。高級品に囲まれて身の回りの物に注意してなかったのがアンタの落ち度だ。」


 修二の理論と推理を聞いて忍は理解した顔になり、頷き始める。


「少し侮っていた。まさか臭いで正体がバレるとはな…」


「聞かせてください。何故、アナタが『覇気使い』を襲って『覇気使いバトル』なんて始めたのか?」


 相川が忍にずっと疑問に思っていた事について問い始めた。


「見つけた褒美だ。戦いはしないが話ぐらいはしてやろう。」


 これから最強による最高品川の押し問答が始まろうとしていた。

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