第12話 さらばハイネック(嘘)

「死ぬ? いや、死なせんよ。お前が何処の誰に雇われて誰に情報を流したか、ゲロするまで―――話しを聞くだけだ。」


 忍は手をポケットに入れたまま、背後から黒い靄が円の形になり、禍々しく現れ存在していた。

 内藤は苦虫を噛み潰した顔で、なんとか忍から抜け出す打開する方法を考えていた。


「ご主人様? 今の大きな音は?」


 だが、運が良いのか悪いのか爆発でドアが大きく開いて、それに爆発音を聞きつけた一人のメイドが、部屋の中にいる忍を見つけ声をかけた。

 内藤はチャンスだとニヤリと笑い、再び机に隠れる。内藤のニヤついた表情と行動に察した忍は、黒い靄を消し、振り向き走り、メイドにタックルの感覚で抱きつき押し倒す。そして顔と頭が地面に当たらないように腕で守る。


「あんまり、こんな最低な真似したくないけど非常事態だから!」


 するとドアが地鳴りを発するほど大きく爆発する。内藤は保険のためにドアノブに『爆破の覇気』の爆弾を仕掛けていたのだ。

 そして爆破されたドアの木の破片は、勢いよく飛び散り忍の背中に深く突き刺さる。この時だけ忍に珍しくダメージを負ったが、忍は苦悶の表情にならずに無表情のままでメイドに異常がないか確認をする。

 その間に内藤は出口まで走り、高級なアンティークの窓ガラスをタックルで突き破り、神崎邸から脱兎の如く森の奥まで走り去る。


「あぁ…そんな…ご主人様…血が!」


 忍は無事を確認した後、押し倒すのを止めて座り込み内藤が逃げた先を見つめる。

 メイドは忍の背中からドアの破片の木材が突き刺り、傷口から勢いよく出血してるのを見て困惑し絶句した。


「…おい。」


「は、はい!」


 無表情のまま、忍の不意の呼び出しに、メイドがビクッと体が跳び跳ね困惑したまま返事をする。


「これを引き抜けるか?」


 忍は背中に突き刺さっている木材に指をさし、メイドに木材を抜けと命令する。


「で、でも! それを抜いたら、大量出血で!」


「いいからやれ」


 忍の少し怒気が籠った言葉で、メイドは圧巻され何も言わずに、忍に指示されるがままに黙って、ゆっくりと引き抜く…引き抜く際に、クチュクチュと体の肉から不快な音が聞こえる。

 忍は引き抜く際に痛むのか眉をしかめ、握りこぶしを作り耐えていた。

 メイドは涙目になりながらも木材を引き抜く、完全に体から木材が抜けると傷口から、おびただしい量の血液が屋敷の純白の廊下を染めるように流れ出る。


「良くやった。まだ遠くには行ってないな…」


 忍が立ち上がろうとすると右腕に重く何かが拘束していたのを感じた。忍は横目で確認すると、木材を引き抜いたメイドが、目を閉じて必死で、女の子の弱い手の力で忍を止めていた。


「…治療するまで離しません!」


 声は震え、閉じた瞼から涙の雫が流れる。


「…なら、柏木さんと雅を呼べ。今から医務室に向かう、侵入者は二人に任せる。」


「はい!」


 決意した顔でメイドは立ち上がり、涙を拭き、裾を上げて柏木と雅に報告しに行くために走る。

 忍は左側に、再び円の形をした黒い靄を出現させて、その中に入り込む。入り込んだ先には、病院で見られる、十分な設備と物資が揃われている部屋にいた。


「忍様、これはこれは何様で?」


 眼鏡をかけ白衣を身につけた、医者が黒い靄から現れた忍に驚愕せずに、自然と相手をする。


「この背中の傷を応急措置で済ませてくれないか?」


 忍は黒のワイシャツをビリビリと中心から綺麗に引き裂き脱ぎ捨て、医者に背中を向ける。


「相変わらず、お美しい体をしてらっしゃいます。」


 医者は忍の体に釘付けにされていた。それは美術館に飾っているミロのヴィーナスの女神像のような綺麗な鍛え上げられた肉体と幻想的なキラキラした物が見えていた。

 そして右肩には、修二の攻撃でまだ完全には癒えていない手形の火傷があった。


「いつも通りだと思うが、背中の傷を治してくれないか?」


「傷が深いですね。さっきの爆発の破片で怪我をしたのですか…早く戻られます?」


 なんともない表情の医者は眼鏡をくいっと人差し指でかけ直し、忍に応急措置の後を聞いていた。


「タイムリミットは?」


「二時間ぐらいで戻ってきてくれれば助かります。」


「なるべく早くする。やってくれ…」


「それでは…」


 医者はガーゼと包帯と糸と針を既に用意しており、傷口を見て目付きは鋭くなる。

 すると医者が大きく息を吸い込み、数秒の瞬間に目にも留まらぬ速さで忍の傷口が塞がるように綺麗に縫合していく、忍に縫合されている痛みはない様子で、余裕な表情をしていた。

 そしてガーゼを医療用テープで貼り付け、更にガーゼが外れないように包帯を背中と腹筋まで巻いて固定する。


「これで二時間は余裕で活動できます。内出血は帰ってから再手術という形で、それと激しい運動と“本気”だけはしないように…って聞いてないですね。」


 医療は、いつの間にかいなくなった忍の行動に、呆れ小さくタメ息を吐き、ヤル気のない顔で椅子に座り新聞を開き休憩タイムに入る。




「侵入者ですか、分かりました。私達でなんとか対処してみましょう。」


 メイドが話していたのは、オーバーホールの下にポロシャツと軍手に麦わら帽子と業務用の革製の長靴を身につけた、ミスマッチ感のある庭園の花や木を手入れしていた柏木だった。


「お願いいたします。私は雅様を見つけないと!」


 メイドは素早くその場を走り去る。柏木が準備しようとハサミを安全な場所に置き、服を着替えに行こうとすると、何かを感じたのか真剣な表情で立ち止まる。


「柏木さん、その侵入者の処理さーーー俺が殺ろうか?」


 近くの木の裏から女っぽい声が発声され、柏木はじっと動かずに話しを聞いていた。


「雅…できるのか?」


「相手はさ『爆破の覇気使い』っぽいけど…俺なら勝てるよ。わざわざ忍様がお手を煩わせる程じゃないと思うからさ、ちょっと行って息の根を止めてくるよ。」


「駄目だ。息の根は止めずに拘束しろ、もしかしたら情報を握っているかもしれない。だから生きて拘束しろ、分かったな?」


「はあ~久々の出番なのに拘束条件か…けど意外にも楽しめるかもね。」


 楽観的な話し方で、柏木に頼み込む雅。今だに、その正体は不明…知っているのは三銃士の長の忍と輝と柏木だけだった。


「さて、それじゃあ行ってこようかな。忍様に汚い返り血が付いたら困るからね。」


 もう出発したのか、跳び跳ねたかのように姿は消えて、木の葉がひらりと落ちていくだけ、それ以外は何もなかった。


(三銃士の中でも雅は神崎の中で古株。忍様と共に育ち、神崎の汚れ役、暗殺部隊の隊長まで登り詰めた最強に近い人物…さて、侵入者はどう逃れるのでしょう。)


 柏木は逃亡している内藤を心配しながら顔を空に向け、次は何が起こるのか考えていた。




 内藤は無心に走り続けていた。誰にも追い付かれない様に全速力で走り、ゴスロリメイド服が枝に引っ掛かっていて所々が破れても気にせず走った。

 暫く走り続けていたのか、ゆっくり歩きながら止まり肩で息をして、右片手を木に手をつき休憩する。


「ヤバいな、爆破が効かないとなると…ガチで詰んだ。あの屋敷の当主は化け物かよ、だけど怪我してるんだ…これ簡単に言っちゃったけど死亡フラグじゃないよな?」


 物語では良くある話しを顔を青ざめながら、周りに敵がいないか探索しながら進む。頭に被っていたフリル素材で作られているホワイトブリムを取り逃走ルートと違う所に投げ捨てる。


「これなら、どっちに逃げたかは分からないだろうな。」


 だが、そんな奇怪な行動をしている内藤を嘲笑うかのように見つめている人物がいた。高級な黒いスラックスと森とはミスマッチな高級感が漂う革靴を身に付けた、腹と背中にかけて包帯を巻いている。

 既に先回りをしていた忍が木々の影に隠れ内藤を見ていた。


(コイツを泳がせていれば、主人の所まで案内してくれるだろうと思ったが…雅が動いた。仕方ない、ここは雅に任せて俺はアッチに向かうか。)


 忍は内藤を雅に任せると考え、再び背後に黒い靄の円形の門を出現させ、顔を渋らせながら迷わずに黒い靄に奥まで入って行く。忍の姿が入って消えたと同時に黒い靄は霧が晴れるように消滅した。




 忍が黒い靄の門から出た先には、色とりどりに自然で豊かに花びらが空に舞い上がっている花畑の中央に立っていた。

 忍には見覚えのある場所で、更に眉にしかめて顔を渋らせる。


「…前に言ってなかったか? それとも言い忘れたのか、どっちにしろ俺の目の前に現れたって事は、ただじゃ帰れないぐらいは覚悟してるんだろ? 桐崎。」


 そう忍が気配を察知し、わざと桐崎が近づいている事も理解し罠かもしれない場所までワープをして、桐崎に余裕で警告をする忍だった。

 桐崎は、そのまま立っていただけだった。この行動は忍だけを呼ぶだけで、戦闘する気は元々なく話しだけする形だった。


「俺の記憶では、そんな約束はしていないが―――ここは神崎の領域だと理解した上で、ここに来て話しをしたかった。」


 未だに後ろを振り返らない忍と覚悟を決めた様子で真面目に話す桐崎だった。


「…くだらんな? アンタと話して俺に何の得がある? 別に、アンタが神崎から抜けた事は誰も恨んでいない、それにアンタの弟子を殺す必要もない。『覇気使い最強の座』ぐらいくれてやる、そんな肩書きを名乗った覚えも無いのにな。」


 真面目に話す桐崎なので、桐崎の過去を知っている忍は鼻で笑いながらも、不機嫌な気分になる訳でもなく無表情のままポケットに手を入れながらも、普通の対応で桐崎に真面目な答えを返す。


「お前の性格ぐらいは知っている。悪魔で『覇気使い最強の座』は、あの弟子バカを焚き付けるだけで、本当の目的は戦争させる事ではなかった…どうしたんだ? こんなガキみたいな真似して?」


 どうやら桐崎な忍の行動を心配して、元先輩として止めに来たようだ。


「ガキ? そうだな、お前等の客観的から見たらガキみたいな行動だろうな。だが、俺は止める訳にはいかない。今回だけは見逃してやる・・・さっさと俺の前から消えろ、元でも先輩を殺したくはないからな…」


 忍の体が後ろを向く途中で止まり、激しい衝撃波が周りに伝わる。その影響は周りの花畑の花びらが遠くに散っていく程だった。

 それは桐崎が忍の舐めた態度が気に入らず、顔は変わってないが怒りで殺気を放った余波だった。


「調子に乗んなよ、クソガキ。今のお前の立場分かってんのか? お前と一緒に過ごした八年は全部幻だったのか!? 今のテメェの態度を良く見てみろ、なんにも信じてないじゃないか…三銃士も柏木もシェリアも弟の輝ですら信じていない、お前に何があった? 何を背負った? 何がお前をそうやって変えた! 俺がいなくなった十年に何があったんだ!?」


「……。」


 ドスのある声に前髪の影で目が隠れ、余裕だった冷静沈着なタイプの忍も押し黙り、桐崎の話しを最後まで聞いていた。

 だが、桐崎の話しが終わると数秒後に怪しく唇の口角を上げて大きく笑い出し、また数秒後に笑うのを止めて応急措置した包帯を雑に引っ張り取る。

 包帯を引っ張り取ると、そこに縫合された糸も忍が油断して傷ついた傷口さえも完全に綺麗に治り消えていた。


「その十年の答えが、これだ!」


 忍は目を開き、綺麗な背中に黒い靄が集まり形を成していく・・・それは普段なら生活すれば道端に見かけるカラスの翼だった。

 それは忍の背丈より一回り大きく、禍々しく漆黒の様に黒く染まり、堕天使に酷似していた。何より桐崎が、その翼に素直に心に感じ取ったのは“憎悪”と“悪意”だった。


「それは…!」


 更に、翼から何も動かさず存在しているだけで強風並みの風圧が放たれ、花畑の花は無残に散ってゆき、桐崎は風圧を両腕でガードするしかできなかった。


「これなら“アイツ等”に届く―――そして何より、これが完成した時点で『覇気使いバトル』なんて終わってたんだよ。」


「“アイツ等”って誰なんだ! 答えろ! そんな『覇気』の形を作りあげ、誰にそれをぶつける気だ!」


 桐崎は風圧に負けないぐらいの大声を張り上げ忍に問いかける。忍は桐崎と対峙するように振り向き、サングラスを右手をかけて取り目を開ける。


「決まっているだろ…この世界を創造した“神”に俺は“復讐”をする。」


 忍の言葉に桐崎は驚いた顔を隠せず、ただ呆然とするだけだった。桐崎には忍のさっきの言葉が眉唾物の話しだったからだ。

 だが、それは悪魔で十年前の忍だった時の考えで、現在の忍は周りから『覇気使い最強』と呼ばれる大物である為、可能性がない確率の話しだった。

 けれど桐崎は、忍なら、やりかねないと脳の片隅に思ってしまった。


(駄目だ。コイツに俺の言葉は通じない、コイツは“人間の限界”を天から貰った“才能”と“努力”で軽々と超えた悪魔だ。)


「だが、この翼は力が強すぎて何処までが強いのか不明だ。だから桐崎…俺の復讐のための犠牲になれないか?」


(不味い! コイツ、俺を殺るつもりだ!)


 桐崎は忍の攻撃を身構えたが一つの銃声が鳴り響き、忍は横目で睨み、桐崎は銃声が聞こえた場所に振り向くと、そこに拳銃から空に向かって発砲したんだろうの火薬の煙を上げて一人の神父が立っていた。

 その神父の見た目は、忍と輝に年老いた感じのダンディー風で、少し忍より一回り大きく背丈が高く、金色のロザリオを首からぶら下げて、ただ怪しく笑っていた。



「はい、そこまで。これ以上『覇気』を使うならば二人に罰を与えなければなくなる。それだけは面倒くさいから、もう止めてくれないか?」


 その楽観的な神父の言葉に、忍は『覇気』を抑え黒い翼を消したと同時に、強風は収まり、黒い靄を出現させ手を突っ込み、黒い靄から手を引き抜くと黒いジャケットがあった。そのジャケットを華麗に着こなし、拳銃を持つ神父に顔と体を向ける。


「忙しいんじゃないのか?」


「少し時間ができたから、久し振りに帰ってみれば懐かしい友人と愛しい息子が殺し合いをしているから仲介しに来た訳だが?」


「お前が親じゃなかったら、今の一撃を容赦なく当てるつもりだ。」


「ほう。それは怖いな、親で良かったよ…さてと本題に入ろうか。忍、神崎の領域内で本気を出してはならないって事ぐらいは理解しているよな?」


 罵詈雑言が飛び交う中で二人は桐崎を置いてきぼりの状態で余裕綽々で話す。だが、暫くすると神父の男が忍の行動に対して、厳しい刑罰を告げようとしていた。


「おい! 洋、この十年に何があったんだ!」


 桐崎は神崎兄弟の父親の神崎洋に怒りを露にした表情で問い詰める。


「ここからは友人が入る間じゃないだろ? 早く帰ってやれよ、弟子が死ぬ事になるかもな? 例えば“毒”とかでな?」


 “毒”という言葉に、聞き逃さなかった忍は表情は変えなかったが内心は驚愕し、納得していた。誰がシェリアに『太陽の覇気』に関する情報を教え、交渉材料に出したのかを・・・そうと分かれば、忍は一瞬にして桐崎に近づき、桐崎の背後には黒い靄の門があった。

 桐崎は忍の不意討ちに対応できずに、ただ呆然と立つ事しかできなかった。

 そして忍に軽く前から押され、黒い靄の門の中に強制的に入れられて、一瞬にして門を消した。


「…まあ、これ以上いても迷惑にしかならなかったからオーケーとするか。さてと忍、家に帰ったら審問会をしなければならない、覚悟はしているな?」


 洋は桐崎という邪魔者がいなくなった事に安堵し、忍に話しの続きを実行する。そして忍は洋と同じく怪しく微笑む。


「なあ、親父殿? 情報漏洩っていうのはアンタも危ないんじゃないのか?」


「…親子揃って互いに足の引っ張り合いか、面白い。」


「面白くねぇよ。それに情報管理を任せるのは俺と親父じゃない様だな? 今後は輝に任せておくべきかもな?」


 忍がジャケットの胸ポケットに人差し指で、指し示す。洋が忍の行動に怪訝に思いながら、神父服の内ポケットを見る。

 そこにはあった筈の物がなくなり、一杯喰わされたという表情を浮かべて笑いだした。


「確かに情報管理は輝に任せた方がいいな。」


 洋の懐に入っていたのは、『太陽の覇気』に関する資料と情報だった。洋が感づいたのは、忍が桐崎を門の中と一緒に『太陽の覇気』の資料と一緒に消したからだ。


「まあいい、お互いに不問にしよう。」


「不問にできるならな?」


 最後に意味深な言葉を残し、二人は神崎邸まで向かい歩く。





 そして内藤の話しに戻ると…


「もう、これで終わり?」


 森で声が響く中に、全ての服を投げ捨てパンツ一丁になっている内藤は、身体中が切り傷だらけで、肩で息を荒くしていた。


「見逃してくれない?」


「ダメだよ。ただでさえ、忍様の背中に傷をつけたんだ。君には致命傷じゃないと割りに合わないからね?」


「殺す気マンマン…誰か! 助けてくれー!」


「無理だよ。この森は誰の声も届かないから…アナタは!」


 声の主が驚愕したのは、頭が金髪で白いブイネックと青いジーパンに汚れのない綺麗な白いスニーカーを身につけた輝が内藤に放たれた一蹴りでクナイを弾いたからだ。


「何故、輝様がここに?」


「彼は僕の客人なんだ。ここは見逃してくれないかな?」


「ダメです。そいつは! 忍様の背中に傷を負わせたクズ野郎です! それに神崎の侵入者です。ここで排除しないと!」


「僕は言った筈だよ? 彼は客人だって、兄さんに主導権はあっても半分、僕にもあるんだよ? それとも神崎の裏切り者になって消える?」


 輝の脅迫とも呼べる言葉は声の主を怯えさせるには成功した。


「…分かりました。今回だけです―――覚えてろよ、このクソ野郎。」


 声の主は内藤に恨み言だけを残し、気配が完全に消えた。輝と内藤は一息ついて安堵する。

 内藤はその場にへこたれ地面に座り、顔に涙を浮かべて命がある事に感謝をする。


「良かった! 今日なんか運勢最悪だったから、もしかしたらって思ったら案の定ラスボスみたいな奴に捕まるし、命がらがら逃げたと思ったら暗殺のプロみたいなのに狙われるし、踏んだり蹴ったりっすよ!」


「ごめんごめん、遅れちゃった。もう、これで安心だよ。」


「輝さん!」


「あ~涎出てるよ。これで拭いて」


 輝はポケットから純白のハンカチを取り出し、内藤に渡す。ハンカチを渡された内藤は受け取り、涙を拭きその次いでに鼻水をハンカチで拭う。


「ありがとうございます。」


「それ…あげるよ…」


 輝は内藤の個人的に汚い行動があったために、表情は変えなかったが内心はドン引きしており、苦笑いしながら内藤にハンカチを与えた。


「さて、君の調査依頼は終わりだよ。ここから僕たちがやることは一つ、『雷』を仲間にするか、『炎』を仲間にするかだよ。」


「南雲か品川かですね。」


「さて、僕たちも行こう。次のステージへ!」


 二人は森の奥から光る先へと消えた。

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