第1話 私のご主人様

「緑(みどり)!一ノ瀬様がお呼びだよ!」


「…はい」


「もっとしゃきっとせんかい!どれだけ一ノ瀬様にお世話になってるか!」


「…分かってるよ」


「だったら早く行って満足させて来な!」


「…」


「早く行かんかい!」


思い腰を上げて向かうのは、私達“世良(せら)家“が先祖代々お世話になっている「一ノ瀬家」である。



         ◇



「ようこそいらっしゃいました、緑様。理央様がお待ちです」


「…はい」


一ノ瀬グループは日本でもトップの会社であり、海外にも名を轟かせる程の力を持っている。


それに比べ、私達世良家は特に有名という訳ではない。知っている人は知っているが、知らない人は知らない。


知っていたとしても、”良い“印象は持たれていないだろう。


何故なら私達家系は、先祖代々身体を売って来たためであるーー。


「緑ちゃん、待ってたよ」


「…」


この人…お方が一ノ瀬グループの息子、一ノ瀬理央である。


誰をも魅了する様な整った顔立ちに高い身長、高い知能に高い地位、神は彼に二物も三物も与えておられるようだ。


「あの…」


「うん?」


「今日は…」


「うん、緑ちゃん先に帰っちゃうから家に呼んだ」


「…」


「家に連絡した方が“早い”と思って」


「…」


「それじゃあ、始めようか?」


私はこうして、彼に抱かれに行くーー




◇◇◇




私達世良家は、表向きは一ノ瀬グループの一部になっているため、一ノ瀬グループに身体を売っていると知っている人達はごく僅かである。


しかし、世良家はその道では有名である。


そのため、一ノ瀬グループを中心に他の富豪達とも契約を交わしている。


そして彼、一ノ瀬理央が私のご主人様である。

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