準備③
そう言ってハヤトは末席に座るクラウスを見る。
「アンタは確か、傭兵の……」
兵士達の眼が期待の籠もった光を宿す。
「やれやれ。意地悪だなハヤト君。そんな言い方をされてはゲンキンなこやつ等に文句を言えんではないか」
ハヤトは勘弁してくださいといった風に苦笑を浮かべる。クラウスは小さく笑って、
「左様。ワシはこの二十年近くを奴を倒す為だけに費やしてきた。そんなワシの情報でよければ提供しよう」
「別働隊は俺達第十分隊が担当します。俺達が頭を抑えるまで決して奴らを街に近づけさせないでください」
「勝てるのか、お前等だけであの『魂喰い』に」
鋭い視線でトバックがハヤトを視る。
その眼は暗に覚悟を問い掛ける以上に重く、恐ろしい意味を宿していた。
「やっぱり駄目でした、なんて簡単に言えると思ってないだろうな。お前等の負けは単にお前等の死だけで終わるもんじゃねぇ。それを分かって──」
「勝ちます」
当然の様にハヤトは言う。何を今更、とトバックの言葉を一蹴する様に、当たり前の事を言うなという風に。
「負けるなんて許されない。それはつまりこの戦線の、延いては街にいる人達の命に係わる」
「……」
「必ず奴を倒します。奴には個人的に聞きたいこともある。絶対に逃がしはしない」
『魂喰い』のロスト。
フリーを気取っていた彼女が何故反乱軍などを束ねたのか。
反乱軍の連中も何故大人しく彼女に従っているのか。
接点のない両者を結びつけるその中心点にいる者は誰か。
考えれば考えるだけ、ハヤトの疑問は増していく。
「……いいだろう。お前の策に賭けよう」
「本気ですか隊長⁉」
「どうせ俺達じゃ奴には太刀打ちできねぇんだ。それなら少しでも可能性のある方に賭けるのは当然だろ」
トバックは頭の後ろで両手を組みながらいつもの投げやりな口調で言う。
「しかし……!」
「お前等はもう下がっていいぞ。作戦開始まで飯食って休んどけ」
「分かりました」
ハヤトが立ち上がる。それに続いてアイカ、クラウス、少し遅れてレインが立ち上がり、ハヤト達は作戦本部を後にする。
「……隊長。本当に学生なんかに戦線の命運を託すつもりですか」
「成す術もなく敗走した俺達と、一戦交えて帰ってきたあいつ等。どっちが『
「それに……?」
トバックは少し強張った笑みを浮かべて傍らの兵士に振り返る。
「あの坊ちゃんはどうやら俺達以上に戦場を知ってる様だ。ありゃ学生の皮を被った何かだよ」
「はぁ……」
「あーあー怖いねぇ。フィリアリアにはあんなおっかないガキがいるのか。親がいるなら見てみたいぜ。きっととんでもなくブッ飛んだ頭の持ち主だぜ」
トバックはそう言って大きな息を吐いた。
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